第28話 光還陣 ― 夜を貫く翼


「全軍、再集結! 影を恐れるな、前進せよ!」

 騎士団長の怒号が響く。だが、次の瞬間には――。


 アドナイルの六本腕が振り下ろされた。

 《闇爪連斬(ダーク・クローコンボ)》――!


 黒い軌跡が空を裂き、地面を砕く。

 地響きとともに瓦礫が飛散し、建物ごと薙ぎ払われた。

 騎士団の隊列が瞬く間に崩壊する。


「ぐああっ!」

「た、退け! 結界が……もたねぇッ!」


「無駄な抵抗だ。闇は光より古い――!」

 信徒たちが狂気の声を上げる。

 その足元には、血と影が混ざり合い、アドナイルの餌場と化していた。


 そして――。


 瓦礫の上に、光が差した。

 五人の影が立つ。


 悠真、セレナ、リサ、クリスティア、そして――ミリア。

 その中心で、剣が光輝く。


「私たちは支える。ミリア――あなたが闇を貫くの」

「ええ。あの怪物、私が止める」


 ミリアの瞳が、夜を射抜くように輝いた。

 剣先に聖光が灯る。それは、まるで希望そのものだった。



 アドナイルの咆哮が轟く。

 《黒炎咆哮(アビス・ブレス)》――!


 黒い炎が吐き出され、街を焼き尽くす。

 炎が触れた建物は、存在ごと掻き消えた。

 空間が歪み、光が飲み込まれる。


「《結界展開――ミラージュ・ドーム!》」

 セレナが杖を突き立て、光の円蓋を張る。

 だが黒炎は、その光を蝕むように侵食していく。


「くっ……耐えて、みんなっ!」


「任せろ!」

 悠真が前に出て、盾で衝撃を受け止める。

 熱で鉄が溶け、手が焼ける――それでも退かない。


 次の瞬間、地面から無数の影が沸き上がった。

 《影従者召喚(シャドウ・スウォーム)》――!

 倒れた兵士の影が形を変え、黒い人型が立ち上がる。


「来るぞ――散開!」

 悠真が叫び、リサが即座に反応。

 弓で影核を撃ち抜く。


「一体無力化……残り四!」

 影従者の胸を貫かれた紅光が砕け、灰となって散る。


「やるわね、リサ!」

「まだまだよ、これくらい!」


 だがその直後、地面から黒雷が走った。

 《闇雷鎖(シャドウ・チェイン)》――!


「――っ!?」

 悠真の足元に雷鎖が絡みつく。

 全身が痙攣し、地面に叩きつけられる。


「悠真っ!」

「問題ねぇ……ッ! こいつ、俺を引きずり込もうとしてやがるッ!」


 影空間に引きずられる直前、ミリアが叫ぶ。

「《光還陣・断罪(ルミナス・ジャッジ)》ッ!」


 聖光が奔る。

 黒雷を貫き、影鎖を焼き切る。

 その光がアドナイルの胸部に直撃した。


 ――闇が裂けた。


 一瞬、紅い光核シャドウ・コアが露出する。

 だが、すぐに再生が始まる。


「……効いた、のか?」

「一瞬だけ。でも確かに、闇が止まったわ」

 セレナの目が細められる。

「闇の脈動が止まる瞬間――そこが唯一の弱点」


「その瞬間を狙うのか?」

「ええ、ミリアの光だけが届く」


「……了解」

 ミリアが剣を構え直す。光が増す。


 悠真が立ち上がり、盾を再構える。

「だったら、その一瞬を作ってやるよ!」



「リサ、影核の位置は?」

「コアは胸部中央。再生線が地中に伸びてる――地面狙いは無効」

「なら上から叩くしかないわね」

 セレナが素早く指示を出す。


 クリスティアが祈るように詠唱を始める。

「運命華彩――導きの花輪、開け」

 淡い光の花弁が舞い、仲間の身体を包む。


「成功率上昇、誤差修正完了ですわ」


「助かる!」

悠真が走り出す。


 戦場を覆う黒霧が揺らぎ始める。

 アドナイルの影が、地面を這うように伸びた。


「《深淵波動(アビス・パルス)》――」

 胸部のコアが赤黒く光る。

 瞬間、全方位に衝撃波。


「伏せろっ!!」

 悠真が叫ぶが、間に合わない。

 建物が弾け、空気が震える。

 ミリアの髪が宙に舞い、光が乱れる。


「くっ……みんな、生きてる!?」

「問題ない!」

 リサが指を鳴らし、影従者を一掃。

「けど、もう時間がないわ!」


 アドナイルの影が再び地面を覆い、世界が闇に沈む。

 ミリアは立ち上がり、剣を胸に掲げた。


「この光が、届くまで――」

 彼女の背に、光翼が展開する。

 純白の羽が、闇を切り裂くように広がる。

 その光が夜を照らし、影従者たちが消滅していく。


「まだ……止められない……でも……諦めない!」

「全員支援集中――光を守るのよ!」セレナが叫ぶ。


「悠真、リサ、時間を稼いで!」

「任せろ!」

「了解!」


 悠真が影腕を受け止め、リサがコアへ狙撃を続ける。

 セレナの結界が全員を包み、クリスティアの花弁がその上を舞う。


「光還陣――展開!」

 ミリアの声とともに、光が奔る。


 アドナイルの紅い瞳が、初めて怯えを見せた。

 しかし、闇はまだ消えない。


 轟音と共に、再生が始まる。

 街の残骸が浮き上がり、闇が再び街を呑み込む。



 アドナイルは、なお立っていた。

 不死に近い再生力。倒すには、完全な解析が必要。


 セレナは膝をつきながら、杖を握る。

「……光属性干渉と、高周波干渉。両方同時に作用させれば――」


「勝機は、あるのね?」

 ミリアが問う。

「ええ。次で――終わらせるわ」


 夜の風が吹く。

 焦げた瓦礫の上で、五人の影が再び立ち上がる。


 アドナイルは、なお世界を呑み込もうとしていた。

 だが――闇の中で、確かに光が灯っていた。


「行こう。次は、私たちの番だ」

 ミリアの瞳が輝き、剣が再び光を帯びる。


 その光が夜空を貫いた。

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