第7話 光の欠片と誤解の嵐

 朝でも夜でもない、奇妙な時間帯だった。


空の色は淡く、どこか銀色に霞んでいた。

村の上空を、無数の“光の粒”が舞っている。まるで夜空に雪が降っているような――けれど、それは冷たくも重たくもない。

ただ、静かに、優しく、降っていた。


「……これ、なんだ?」


俺は村の広場で立ち尽くし、掌に落ちた粒を見つめる。

指先にふれたそれは、熱くも冷たくもなく、じんわりと光を吸い込んでいった。


「神の祝福だ!」

「いや、あれは天からの徴だ!」


村人たちは大騒ぎ。

どうやら“幻想的現象=良いこと”という脳内変換が発動しているらしい。


けど、俺の隣にいたミリアは、笑わなかった。

彼女の瞳は、光の群れではなく――その“中心”を見ていた。


「……悠真」

「なんだ?」

「この光……“封印”に反応してる」


「……おい、待て待て。まさか、また“世界の危機”とか言い出すんじゃないよな?」

俺の軽口にも、彼女はうっすらと震える息を吐いた。


「わかりません。でも、あの夜――封印に触れたあと、ずっと嫌な感覚が残ってて」

「え、嫌な感覚? もしかして、俺が隣にいたからとかじゃなくて?」

「違います」

「即答かよ!」


そんなやり取りの裏で、光は村の外れ――あの泉の方角へと流れていく。

まるで導かれるように。


俺は嫌な予感しかしなかった。

経験上、“光が舞う”とか“封印が反応”とかが出てくると、十中八九ロクなことが起きない。


……俺の“誤解体質”が、また何かを呼び寄せてる気がしてならなかった。



翌日。

村の外れにある小さな泉――前にミリアと散歩した場所で、俺は妙なものを見つけた。


「なんだこれ……?」


水面の上に、ビー玉ほどの“光る結晶”がぷかぷか浮いていた。

色は淡い蒼。光の粒がその中を回転していて、見てるだけで目がチカチカする。


「触って大丈夫……だよな?」


恐る恐る拾い上げると、掌がじんわりと熱くなった。

ほんの一瞬、脳裏に誰かの声が響いた気がした。


――“また……お前か。”


「……誰? いや、俺じゃねぇし!?」


思わずツッコミを入れた瞬間、背後から声が飛んだ。


「悠真? 何を拾ってるんですか?」


振り返ると、ちょうどミリアが現れた。

そのすぐ後ろには、なぜか村の娘たち数人が“偶然”通りかかっている。

おい、フラグしか感じねぇぞ。


「え、えっと……これ。なんか光ってたから拾っただけで――」


「えっ……それ、わたしに……?」

「え?」

「きゃー! 悠真さんがミリア様に贈り物を!」


「いや違うって! 俺そんなロマンチックなタイミングで拾ってないから!」

「照れなくてもいいのに〜」

「だから違ぇって!」


……もうダメだ。

どうやってもこの村の“恋愛アンテナ”は誤作動するようにできているらしい。


ミリアは困惑しながらも、俺の手から光の欠片を受け取った。

その瞬間――。


「っ……!」


彼女の瞳が、一瞬だけ“金色”に輝いた。


「ミリア!? お、おい、大丈夫か!?」

「……う、うん。ただ、少し眩しくて……」


光が収まると、彼女は静かに息をついた。

でもその表情は、いつもの穏やかさとは違っていた。


「悠真。……どうして、これを“あなた”が持ってるの?」

「いやだから、拾っただけだって!」

「拾えるものじゃ、ないはずです」


彼女の声には、確かな“震え”があった。

まるで、知らない誰かが俺を見透かしているような――そんな感覚。




屋敷に戻ると、ミリアは早速、光の欠片を調べ始めた。

机の上には古文書が広げられ、魔法陣のような印が描かれていく。


「この光の成分……間違いありません。封印の一部です」

「つまり、それって……例の“英雄の魂”の?」

「はい。封印の核――英雄レオン・ガルドの魂を固定していた“結晶片”。」


「いやいや、それ崩壊したらやばいやつじゃん!?」

「ええ。封印の一部が外に現れたということは……何かが、内部で動いている」


……ヤバい。めっちゃ嫌な予感しかしない。


ミリアが眉をひそめる。

「まるで、封印が“呼吸”を始めたみたい……」


その時だった。

部屋の中に、ふっと風が流れた。

カーテンが揺れ、光の欠片が微かに震える。


そして――俺の頭の中に、また“声”が響いた。


 『……運命を、狂わせる者。』




「っ……!?」

「悠真さん!?」

「い、いや、今……なんか聞こえた。脳内に直接……!」


「どんな声です?」

「たぶん……イケボだった」

「……真面目に言ってください」


「いやマジで! なんか“またお前か”とか言われた! 俺、何もしてないのに!」

ミリアは小さく唇をかむ。

「それ、もしかして――英雄レオンの“残響(レゾナンス)”かもしれません」


「残響?」

「封印された魂の、記憶の断片……。普通の人には感じ取れません」

「ちょ、俺普通じゃない扱い!?」

「まあ……悠真さんは、“誤解されやすい体質”ですから」


「その設定どんどん便利に使うな!?」


彼女は小さく笑った。

でもその笑みの奥には、はっきりとした不安の影があった。


「もし“英雄の残響”があなたに反応しているのなら……封印は、あなたを“鍵”と見なしている可能性があります」

「おい待て、俺そんな重要ポジションいらねぇぞ!? モブでいい! 通行人Aでいい!」

「でも、もう“巻き込まれて”います」


俺は頭を抱えた。

……マジで、誤解体質のせいで世界が動くの、勘弁してくれ。



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