第3話 折乃ウルトラ

 移動教室の際、人目に付かない場所で折乃おりのくんを呼び止めて連絡先を一方的に教えた。

 下校の電車待ち。ベンチに座っているとスマフォの画面に通知が来た。トークアプリをタップすると折乃おりのくんのアカウントから友達申請が届いていた。




『こんにちは』

折乃おりのウルトラ

            『連絡ありがとう』

                  さとみ

『突然でびっくりした。

 なんでアカウント教えて

 くれたの?』

折乃おりのウルトラ

       『陽凪ひなぎさんにいじめ

        られているのか気になって』

                  さとみ

『あれはいじめじゃないよ』

折乃おりのウルトラ

            『嫌そうだったよ?』

                  さとみ

陽凪ひなぎさんも悪い人じゃないんだ。

 あれで結構やさしいっていうか。

 僕なんかを友達にしてくれるし』

『×→陽凪ひなぎ

 〇→絢流あやる

折乃おりのウルトラ

         『そうなんだ。わかった。

            いきなりごめんね』

                  さとみ




 なんて、そんなわけない。あれで陽凪ひなぎさんと友達だと思っているのならば相当ズレている……ていうか——


折乃おりのウルトラってなんやねーーーーーん!!」


 電車を待つ人たちの目が一斉に向けられた。







 放課後、陽凪ひなぎさんが一人になるところを狙って声をかけた。


「なに?」


 わたしはポケットに手を突っ込んでスイッチを押す。


陽凪ひなぎさんって、折乃おりのくんとは仲がいいの?」


 彼女は一瞬目を丸くしてから怪訝な顔つきになった。


「あんなキモオタと仲がいいわけないじゃん」


 最初からわかっていたけれど、これで言質げんちが取れた。


「……っていうか、なに? いーんちょ、もしかして好きなの?」

「え……、いやいや! そうじゃなくて!」

「だよねー。いーんちょって変わり者かなって思ってたけど、さすがにあいつはないよねー」

「は、はは。そうだね」


 ごめん折乃おりのくん。でも本当に好きじゃないし。と言うかわたしって変わり者なの?





 折乃おりのくんに声をかけて公園に導いた。

 二人でベンチに座り、ポケットからボイスレコーダーを取り出し、ボタンを押す。陽凪ひなぎさんとの会話が再生される。耳を傾けていた折乃おりのくんは震え出した。かわいそうだけれど、事実は受け入れてもらわないと。


「それ、僕のスマフォに送ってくれない?」


 彼の意図は言わずもがな理解できた。音声データを彼女に突きつけるのだろう。ここからは彼の問題だ。わたしがすべき助力は充分に果たした。

 しかしそれからも二人に変わった様子はなかった。


「音声データ、どうだった?」


 わたしは気になって折乃おりのくんに声を掛けた。


「ありがとうね。助かったよ」


 助かった? まるで解決したような言い方だ。

 彼はスマフォを触って音声を再生した。前回同様、彼は震えた。特に「キモオタ」と言われたときに。


「助かるぅ……」


 彼は頬を紅潮させ、瞳をとろけさせていた。

 いや助かったってそう言うこと!? 震えも怯えじゃなくて、快感に震えていたってことなの!? 手伝いを拒んだのもプレイを楽しみたかっただけ!?

折乃おりのウルトラってなんなの!?」


 たくさんの疑問が一気に押し寄せて最終的に出た問いがそれだった。


「僕、背が低いからウルトラマンに憧れていて」


 それはそれで収穫だけれども。

 わたしはそれ以上なにも言えず教室をあとにした。彼が悦んでしまっているのなら仕方ない。

 しかし、本当にいいのか? もしもこれがただの片思いならいい。たとえ片思いで終わってもそれもまた青春と言える。でも彼はもう、別次元で満足してしまっている。相手の気持ちなど考えず、欲求を満たすために虐げられ続ける道を選んでいる。だいたい音声データを聞いて「助かる」とか言っているのは純粋にキモ過ぎる。真っ当な青春とは言えない。

 考えているうちにいつの間にかスーパーの前に立っていた。母から夕飯の食材を頼まれていたのだった。今日はお姉ちゃんが出勤前に夕ご飯を家で食べ——そのとき、脳内に電流が走った。絡まっていた糸の、通電性の高いところに紫電一閃。問題点と解決策までの道が繋がった。

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