3 サマータイムブルース
夏休みに前日つまり修了式の日に学校から渡されるものが3つ有る。
1つ目は大量の宿題。
問題集、算数ドリル、国語ドリル、日記帳、読書感想文の用紙、自由研究のレポート用紙、etc.
夏休みの宿題の量は小学生の僕には絶望的な量だった。
特に厄介なのがドリルと問題集、決まった答えを書く系の宿題、これは地道な労力と時間を必要とするからだ。
土器を探す労力と時間は何も苦にならないのに宿題は苦行でしかない。
それに比べ答えが自分次第系の読書感想文や自由研究、図画図工は楽だった。
先ず読書感想文はアニメ化や映画化された作品を見てその感想を書いたり過去に読んだ本を思い出しながら書く。
魔女の宅急便、銀河鉄道の夜、シャーロック・ホームズの冒険、ガリバー旅行紀、指輪物語、三国志、私が本好きになるきっかけになった本であり、中高と読書感想文の時にいつもお世話になった愛読書だ。
図画や自由研究はハゲ山に行けば題材はいくらでもある。
2つ目に一学期の通知表、我ながら可もなく不可もないつまらない通知表、人間性は通知表に表れるのだとつくづく思う。
3つ目はラジオ体操の出席カードだ、朝早くから公園に集まり大音量でラジオを流して皆で体操をする日本の独特な文化ラジオ体操。少子化の煽りを受け子供より大人やお年寄りの方が多いラジオ体操、参加するとハンコを捺してもらえて最終日にお菓子がもらえるラジオ体操。
一番楽しかった6年生のラジオ体操。
朝6時起床、朝御飯はほぼ食パンとミロ、食パンにはピーナッツバター、夏のミロは冷たい牛乳に溶かすので混ぜるのに時間がかかる。
顔を洗い歯を磨き、家着のようなクタクタの油断着を着てラジオ体操カードを首から下げてけ公園に向かう。
朝の空気を胸いっぱいに吸込む、早朝だがもうセミが鳴いている、ミンミン蝉だろう真夏のピークの蝉がミンミンとけたたましく鳴いている。
徒歩で10分程で公園に着くと子供はパラバラと居るがお年寄りの数が多い、町内のお年寄りが全員集まっているようだ。
少子化と高齢化の縮図がラジオ体操の様子で実感される。
6時30分ラジオ体操の歌が始まる「新しいあさが来た、希望の朝だ、喜びに…♪」
いつの間にか幼馴染みが数人の固まりになって談笑している、宿題の話し、遊ぶ約束、市民プールに行くかの確認。
「アキラ」
自分の名前を呼ばれびくっとする。
誰かわからない声の方を向くとそこには首からラジオ体操カードを下げたナタリーが立っていた。
「アキラ、オハヨウゴザイマス」
ナタリーはおそらく賢い子なのだろうすクラスの女子達の助けもあり、ちょっとした挨拶や簡単なやり取りの日本語はマスターしていた。
「ナタリーおはよう」
「ナタリーの家この近くなの?」
僕の質問にナタリーは困ったような申し訳なさそうな表情をする。
「シラナイデスゴメンナサイ」
「ワカラナイだよナタリー」
「OK、ワカラナイ、ワカラナイ」ナタリーは教えた日本語を真剣な顔で復唱する。
この日から毎日僕とナタリーは並んでラジオ体操をするようになった。
ナタリーは僕の動きを真似して日本の異様な文化を楽しんでいるようだった。
ラジオ体操も終わりハンコを捺してもらう列に並ぶ、前に並ぶナタリーが振り向くき僕の目を見つめる。
青い瞳、ドキっとする、カワイイ。
「アキラキョウハゲヤマイク?」
「行くよ、ナタリーも行く?」
「YES!!!イキマス」
つい誘ってしまった。
YESと言ってくれた。
しかしナタリーはハゲ山で楽しめるのだろうか、不安がどんどん大きくなる、嫌われたらどうしよう。
不安と期待、嬉しさ、感情が入り交じる。
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