2 青い瞳の転校生

夏休みまであと1週間と迫った日

6年3組の朝はは活気づいていた。

もうすぐ夏休み、「あー夏休み」そんな歌が流行ってた夏。

純ちゃんは家族でディズニーランド、ナオキは福岡のばあちゃん家そして水族館、お金持ちのフクちゃんは何と一家でハワイ。

それぞれの自慢話を聞きながら僕は先日ハゲ山で見た少女の事を考えていた。

少女は僕に気付くと日本語で「こんにちは」と言ってくれた。

僕も当然日本語で、しかしこちらは興奮と緊張のせいで震える声で「こんにちは」と挨拶をした。

僕にはこのたった一言の挨拶が嬉しかった、外国人と初めて話したこと、それが女の子だったこと、そして何より少女が笑顔だったこと。

しかしその後の会話は無く僕は土器を掘り、少女はしばらく近くで見ていたがいつの間にかいなくなっていた。


教室のドアが空く、担任のメグちゃん先生が生徒に負けない元気さで「おはよう」と言いながら入ってくる。

メグちゃん先生は確か25才くらいだったと思う、当時はオバサンだと思ってたけど実はまだ若かったのだと今してに思う。

黒髪のショートヘア、よく日に焼けて健康的、いつもジャージにスポーツメーカーのTシャツ。

Tシャツの裾は当然ジャージャージの中に入っている。

ホイッスルを首からぶら下げいかにも体育教師スタイル、だが専攻は社会科なので謎の体育教師スタイルだったのだ。

今はどうか知らないが僕が子供の頃は担任の先生が全教科を教えてくれていた。

今思うと可愛い一面を持つメグちゃん先生も小学生の僕たちにとっては怒らせたら怖い先生だったので、メグちゃん先生か入ってくると私語を止め黒板に注目するのだ。

日直の掛け声「起立、礼」「おはようございます」「着席」

「皆さんおはようございます、もう直ぐ夏休みですがこのクラスに新しいお友達が増えます。」

教室がザワつく、こそこそと「誰?」「男?女?」と聞こえてくる。

「ナタリーちゃんどうぞ」

メグちゃん先生の言葉に更にザワつきを増す教室。

「ナタリー?」「外人?」「女?」

そこにハゲ山で出会った少女が入ってきた。

今日は僕たちと同じ制服、ブロンドの髪を後ろで1本に結び緊張した笑顔だった。

「ナタリーちゃん」

メグちゃん先生に促され

「ナタリーデス、オネガイシマス」と今日のために覚えたのであろう日本語で自己紹介をした。

「ナタリーちゃんはお父さんのお仕事で日本に来ました。皆さんと一緒にお勉強するのは二学期からですが今日は皆さんにご挨拶に来てもらいました。みんなで学校の事や日本の事たくさん教えてあげて下さいね」 「はーい」

「では今日はナタリーちゃんの席は、欠席の舘野くんの席にしようかな」

そう言うとメグちゃん先生が何と英語でナタリーに席を勧めたのだ。

英語とは縁遠そうなメグちゃん先生の英語にクラス中がざわめいた。

その日のナタリーは一日中緊張したようすで、ほとんどの生徒も話したいけどどう話したら言いか分からずにいた。

そんな中、数人の女子がナタリーを取囲み話をしていた。

話しと言っても名前を呼んだり自分の名前を言ったり、教室に有るものの名前を教えたりしていた。

ナタリーにとって女子達の行為は嬉しかったのだと思う。

なぜならあの日のハゲ山で見せた笑顔で笑っていたからだ。

しかし僕はナタリーに話しかけられずにいた、なのについチラチラと視線がナタリーの方に向いてしまう。

本を読むフリをしても結局は女子達の会話を聞いてしまう。

「えー可愛い」

一人の女子の声にたまらず反応してナタリーの方を見てしまった。

ナタリーのカバンに付いてた異国のキーホルダーに女子達が興奮している様子だ。

その時ナタリーと目が合った、

僕は目線を逸らそうとしたが青い瞳から目が離せなかった。

するとナタリーは少し照れくさそうな笑顔で小さく手を振ってくれた。

「覚えていてくれたんだ」

全身の血液の温度が上がり顔が熱ってナタリーを見つめることが出来なかった。



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