第15話 プロジェクションマッピング~アオと夜の虹のパレード

 プロジェクションマッピングが始まった。こんな目の前の椅子に座れたのはラッキーだった。

 一つ一つの作品は短く、初めに作者の名前が流れ、次に作品が流れた。個性があって面白い。しかし作者名が覚えられず、これ良かったなと思っても、作者が誰だったかもう忘れている。思ったよりもたくさんの作品が流れる。長い。途中、8時からの予約がある二郎が抜けた。

 ベンチに普通に座って真横を向いていたが、首などが痛くなるといけないので、途中でベンチを跨いでまっすぐ前を向いて座った。ショーが意外に長いので、靴を脱いでお山座りをした。ベンチが硬いからお尻が痛くなってくる。まだ終わらないのか。そんなに長いのか。面白いし、綺麗なんだけど……長い。30分だった。満足したかと問われれば、したな。花火のようなものだな。

 それと、隣に一郎が座っているのだが、体ごと横を向いてしまった為、一郎は私の後ろにいるという状況になった。そうすると、一緒に観ている気がしない。なんか寂しい。隣なら、色々と感想を呟いたりし合えるのに。実際、

「これ面白いね。」

などと、振り返って言った事もあったが、真後ろを向くのは容易ではない。でも、まっすぐ前を見ていると独りみたいで寂しくなる。しゃべるわけでもないのに、本当に一郎がいるかどうかちょっと振り返って見たりもした。私が後ろだったら見えにくいだろうけれど、でもやっぱり後ろの方が良かったかな。寂しがり屋な夏子。いやでも本当に、一郎はいつの間にか黙っていなくなるような子だからさ。


 やっと終わった。観たくて来たのに、やっとと言うのも何だが。ショーが終わっても、シャインハットには何やら模様が投影されていて、むしろこっちの方が写真映えする。一枚写真を撮り、移動する事にした。次は大屋根リングだ。

「最上階まで行く?」

「行こう!」

一郎と意気投合。大屋根リングに上るべくエスカレーターに乗ると、上の方に乗っている人が皆後ろを向いている。それで、私も後ろを振り向いた。いやー、これは振り返るわけだ。夜景が素晴らしい。特に横を見て感動した。ライトアップされたリングが圧巻だった。真っ暗な空と、黄金に輝く壮大なリング。

 大屋根リングは300億円以上かかったとか、使い捨てなのに勿体ないとか、色々と当初は批判されていたが、万博が始まってからはむしろ「大屋根リングは良かった」という声ばかり聞く。やはり大きい物は感動を与えるのだろうか。実際に行ったからこそ感じるものがあるという事かもしれない。写真や映像では見ていた物でも、実際に近くに行ってみると大きさに圧倒される。このライトアップされたリングを厚夫にも見せたかったなぁ。本人はどうでもいいと思っているだろうが。

 エスカレーターを降り、スロープを歩いて上る。そしてウォータープラザの真ん中へ。するともう真ん中には人が陣取っていて、ちょっと手前でストップ。それでも大した人数ではなかった。

 リングの一段目と二段目(最上階)の間には草木が茫々と茂っている。今手すりを持っているが、ふと、腕時計やブレスレットが外れて落ちたらもう見つからないな、と思った。それを一郎に言ったら、

「スマホを落としたら最悪だね。気をつけよう。」

と言った。そして一歩下がって写真を撮っている。その後、アナウンスがあった。私物を落とされますと当日中にはお返しできない事もありますので~云々。という事は、後からだったら戻って来るのか。この草木の中を探してくれるという事なのか。絶対落とせないな。ものすごいお手数をおかけしてしまうから。

「通路に座り込む事は禁止されておりまーす。椅子を出して座るのもおやめください。ご協力ありがとうございます。」

と、女性のスタッフさんがやってきて言った。実は真ん中に陣取っていた人たちは、皆さん椅子を置いて座っていたのだった。一段目でもそういう声掛けが行われていた。これから水上ショーが行われるが、正面の席は予約制だ。反対側のこのリング上は自由に入って良いわけだが、ここに座ってもいいとなったら幾重にも椅子の列ができ、通行できなくなる可能性があるという事なのかな。私は元々椅子を持って来ていないので立っていたが。

 だいぶ風が涼しくなった。今長袖を羽織っているが、これは半袖では寒いかもしれない。私は今病気のようなもので、暑さの感じ方というか寒さの感じ方が普通ではなく、ちょっと分からないのだが。

 8時半になると、水上ショーが(本当は水と空気のスペクタクルショー「アオと夜の虹のパレード」というのだが)始まった。

「下の段の方が良かったかね。」

一郎が言った。リングの一段目の方がショーに近い。こっちは高い所から眺めているが、遠いから見えにくいのと、音が小さい。それでも、遮るものはない。

 綺麗ではあるが、これも長いんだわ。アオと何とかというくらいだから、青いライトが多く、もっと色々な色があればまだしも、ちょっと飽きるかなぁ。

 とはいえ、歌も素敵だったし、良かったけどね。昼間の水上ショーはクラシック音楽に合わせた噴水だが、私はあっちの方が好みだ。こっちは物語に即して展開していくので、異色のアニメーションという感じかな。立ち疲れもあるが、集中して見られない。遠いからというのもある。

 半分くらい終わったところで二郎から、石黒館を出たという連絡が入った。早い。てっきり9時までだと思っていたから、ドローンショーを最初から見られないのだろうと思っていた。

 LINEで、我々が大屋根リングの最上階にいる事を伝えたら、二郎は合流しようとしたようだ。もう疲れただろうから上まで来なくて良かったのに。でも、

「最上階もう行けんって言われたw」

と二郎。結局リングの一段目のどこかでショーを観ることになったようである。

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