第16話 ドローンショー

 スペクタクルショーだか何だか(水上ショー)がやっと終わった。けっこうギリギリじゃないか。ドローンショーが8時57分から10分間だという事は調べがついていた。

 57分ギリギリまで水上ショーで、終わった途端になんか自分の目の前の草木が紫色になった。どうして?ドローンショーが始まったの?ドローンどこ?どこ?と探したら、何と真上でもなく真後ろ!

 手すりに背を付けて後ろを向いた。ドローンは縦に規則正しく並んでいる。例の羽音が聞こえる。プロペラ音か?そして、徐々に隊列を変える。綺麗だ。一郎もスマホで録画したりしている。よーし、私も。

 首が痛い。一郎が横で、間違いなく首が痛いという仕草をするのが可笑しい。息子の考えている事は手に取るように分かる。本当に可愛い。ああ、なんかこうやって一郎と並んで、この雄大な景色を見た事は一生忘れたくないと思った。二郎も一緒だったら良かったのだが、二郎はいつも私にくっついているからいいか。一郎と2人で並んで観られた事が嬉しい。そうか、厚夫がいなくて却ってよかったのかな、なんて。

 ドローンショーは、4月にちらっと見た時に綺麗で感動した。あの時よりも実は右目の視力が下がり、今なんかこう、ぼやけている。ぼやけているから綺麗だと言う事も出来るのだが。

 ビデオ撮影は何回か細切れに行った。10分間はちょうどいい。しかし、これなら地上にあるベンチに座って見た方が良かった。その方が絶対に疲れない。多分首もね。最後にドローンがQRコードを作ったのは面白かった。写真に撮ったら、ちゃんとサイトに繋がった。サイトには説明もなく、同意して進むというボタンしかなく、進んでみると未来への願いを書けと言う。うーむ、そう簡単には書けないな。

 さて、ドローンショーが終わった。一郎が開口一番、

「これは視力の良い人の方が感動するんじゃないか?」

と言った。一郎はずっと目が良い「裸眼族」だ。多分1.5を下回った事がない。そんな一郎がそう言うのだから、あまりに綺麗で感動したのだろう。一糸乱れぬ隊列に。

 観客が一斉に動き出す。我々も動き出す。警備員さんがもうすぐ大屋根リングは閉鎖されるとメガフォンで言っている。思ったよりもたくさんの人がリングの最上階に居たのだと今知った。

 二郎から「どっちゲート?」とLINEが入った。「東ゲート」と答えた。我々はスロープを降りて一段目に入った。流れに乗ってエスカレーターを目指す。すると二郎から一郎に電話が掛かってきた。今の内に合流しないと会えなくなると心配しているようだ。

「エスカレーターの下で合流すればいいじゃん。」

と、何度も私が横から言うのだが、一郎が手を挙げて、

「見えたか?」

とか何とかやっている。それだと分からないから、スマホのライトをつけて上に上げ、後ろから二郎が見えたとか何とか。そして、しばらく歩くうちに二郎が我々に追いついた。

「石黒館どうだった?」

と私が言ったら、

「良かった!論文1本書けるくらい。」

と言う。よくリングに上がって来たねと言ったら、石黒館で感動して元気になったからだそう。そして、マツコ・デラックスのアンドロイドの動画を見せてくれた。歩いているから動いているのかどうか分かりにくかったが。いやー、そんなに喜んでくれるなら、当たったチケットを二郎に回してあげて良かったよ。

 ただ、一緒に回る数人のグループの中に、奇声を発する幼児がいたそうで、

「僕は没入したいと思ってなかったからいいけど、あれじゃ物語に没入できなかったと思うよ。」

だそうだ。

「まあ、運が悪かったな。」

と、二郎が言った。あのパビリオンの予約が取れた所までは運が良かったのだが。

「あとね、香水買ったんだ。石黒浩プロディースの。」

という二郎。

「え、あの人香水も作ってんの?」

一郎が驚いている。

「あれ、違ったかな。とにかく、万博の石黒館でしか売ってないって言ってた。石黒館の中でいい香りがするなあと思ってたら、その香りだって言うから買っちゃったんだ。」

と言う。後で調べたら、石黒博士が香水を作ったわけではなく、他の人が石黒館のイメージに合うようにプロデュースしたものだった。でも、そもそも石黒館に入れた人しか買えないのだし、貴重だ。後で香りを嗅がせてもらったら、それほど特殊な香りではなかった。いい香りではある。オリジンとヒューチャーの2本セットで。オリジンの方が好きかな。

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