第1話 I was born to love football

 俺が転生してから、三年の月日が流れた。その間俺はこの世界で順応する事に努め、やっとこの世界の言葉が分かるようになった。


「ほーら、達哉。こっちにおいで〜」


 そして今手招きしている長髪の男こそが、俺の父親である一条保らしい。俺が転生した時に、動く謎の箱(テレビというらしい)で写っていた男だ。


「あって〜(待って〜)」


……もっとも俺は、話す方はまだ覚束ないのだが。


 ところでプロローグから読んでくれた読者ならお気づきだろうが、喋り方が変わっている。これはどういう事だと思うだろうが、まあ落ち着いて欲しい。

 そもそも俺の素の口調はこんな感じなのだ。天父様の前で畏まっていただけである。

『俺』という一人称も、生まれ変わった記念に変えてみただけだ。俺は元々こういうお茶目な性格なのだ。


「よーし、今日は天気がいいから、公園でサッカーでもするか!」


 父がそう言うと、俺は嬉しくなって飛び上がった。


「よしよし、達哉はそんなにサッカーが好きか!」


 父は目を細め、俺の頭を撫でる。親父だって、嬉しくないはずが無いだろう。息子が自分と同じスポーツを好きになったのだから。


 俺たちは子供用の小さいボールを持って、公園に向かった。近所の公園には、ボール遊びができる広い広場がある。


「よし、ここでやるか!」


 俺と父は広場の隅のスペースで向かいあった。『サッカー』と言っても、父と向かいあってボールを蹴り合うだけだ。それだけの時間が、俺にはただただ楽しいのだ。


「おおーっ!達哉、いいパスだな!それっ、お返しだ」


 父はいいボールを蹴ると、決まって褒めてくれる。最初俺が父に褒められた時、俺は嬉しさのあまり泣いてしまった事がある。


 病弱で、寝たきりだった俺を褒めてくれたのは、主治医くらいだったから。


 その後しばらく蹴りあって、いつもの帰る時間がやってきた。その時、ポケットに手を突っ込んだ父がおもむろに口を開いた。


「なぁ達哉。ちょっと寄り道してみないか」


 寄り道、という言葉に、俺は少し心が弾んだ。前世から合わせても、産まれて初めての寄り道である。


 俺の歩幅に合わせてゆったり進む父の後ろをしがみつくように、公園の遊歩道を歩いた。家がどんどん遠ざかっていく。

 父はそのまま公園を出て、歩道をてくてくと歩いて行く。どんどん見慣れない景色になっていくのが、怖くなって来た。


「そう怖がらなくていい。もうすぐ着くぞ」


 そして歩道を左に曲がると、そこには小さな、不思議な建物があった。道は石で舗装されていて、両脇には動物の石像が鎮座している。

 家のようにも見えるが、それにしては小さすぎるし、何より人が住んでいる気配がない。


「そうか!達哉は神社に来るのは初めてか!いいか、神社はこうやってお賽銭を入れてだな……」


 父は財布からお金を取り出し、箱の中投げ入れると、大きな鈴を鳴らして手を合わせた。


「で、お祈りをしたら神様にお礼するんだ。分かったか?」


「かみさまにおれいするの?」


「ああ。神様もお礼しない子のお願いは叶えてくれないぞ」


 俺は天父様のことを思い出した。こんな願いまで聞くなんて、天父様もお忙しいのだな。


「そうだ、達哉は何がいい?父さんが代わりにお願いするぞ」


 俺は


「サッカーがいちばんじょうずになりたい」


「そうか!俺と一緒だな」


 そう言うと、父は息を吸って、


「俺と達哉が世界一のサッカー選手になれますように!!」


 そう言うと、父はにっこり笑った。


 帰り道、父は真剣な顔で


「俺は、絶対に世界一のサッカー選手になる。何を失ってでも、絶対になる。絶対に」


 俺は何か引っかかる所があったが、父の真剣な眼差しを前に、口を挟めなかった。


「いつか……親子で取ろうぜ、ワールドカップ」


 父の表情は、夕日が逆光になって見えなかった。



 違うんだ。俺がサッカーが上手になりたいのは…………父さんに、褒めて欲しいから。

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2026年1月11日 21:00
2026年1月15日 21:00

ギフト『頑丈な肉体』を貰ったので、努力チートで頑張ります〜転生王子のサッカー伝説〜 松下千尋 @matusitachihiro

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