第4話 仕事の準備

 夕方前、ドローンとスキルの性能に満足した俺はすぐに部屋へとこもる。昼食は抜きだが仕方ない。海美が小学校の友達からもらったお土産のお菓子で凌ぐとしよう。海美が半分くれたのでありがたくいただく。


 食べ終わってすぐに、パソコンの前に座りレンタルドローンの相場を調べる。もちろん、ダンジョン撮影の値段を決めるために。


「ふむふむ、レンタルだと一番安い機体で一時間五千円、以降、一時間延長するごとに二千円プラスか。十時間パックだとちょっと割引で二万円。丸一日だとさらに割引で四万円となってるな。

 もっといい機体だと、一時間で二万円、以降一時間延長するごとに五千円か。十時間だと六万円、丸一日だと十二万円か」


 パソコンを眺めながらぶつぶつ呟いていたようだ。母親が入院してから独り言が増えたかもしれない。やっぱり寂しいのかな。


 さて、肝心の値段だが安くすればいいのか、高くすればいいのかよくわからない。レンタルより安くすればもちろん依頼は増えるだろうが、レンタル業界から目の敵にされるかもしれない。それに、俺一人でやるわけだからたくさんの依頼を受けれるとは思えない。それならば、少し高めに設定して付加価値をつける方がよさそうだ。


 時間での金額設定はやめて、ダンジョンの難易度によって基本の金額を変えるのはどうだろうか。最低ランクのEランクは一日五万円。Dランクは十五万円、Cランクは三十万円、Bランクは五十万円、Aランクは八十万円にしてみよう。ないとは思うけど、Sランクは二百万円だ!

 レンタルより少々お高いが、その代わり俺の操作でドローンが壊れたときの弁償はなし。希望があれば動画編集も請け負う。編集は無料だが、俺が撮影した動画は再生回数に応じて報酬額が変わるようにしておくか。


 値段が決まったところで、本当にダンジョンの外から遠隔操作ができるかどうか確かめてみる必要がある。そのためには一度、誰かに依頼を受けてもらう必要があるな。できればパーティーがいいんだけど……やっぱりあいつしかいないか。っていうか、俺に知り合いは一人しかいないんだった。


 俺が唯一普通に話ができる家族以外の人。幼なじみの舞園姫花まいぞのひめかだ。彼女は俺のジョブを知っている唯一の存在でもある。何せ、覚醒したときに一緒にいたのが姫花だったので、突然の覚醒に驚いた俺は思わず彼女に話してしまったのだ。その時はこのジョブが役立たずだとわかってなかったしな。


 そんな姫花は俺のすぐ後に双剣士のジョブに目覚め、探索者となった。今では大学を辞めて、探索者一本で頑張っている。確か、すでにDランクまで上がっているはずだ。しばらく連絡を取ってなかったからな、繋がってくれるといいのだが。


 俺は携帯電話を手に取り、電話帳に母さん以外たった一人登録している姫花に電話してみた。ダンジョンにいたら繋がらないがどうだろうか。


 プルルルル、プルルルル、ガチャ


 お、運よく繋がったようだ。


「操太!? 久しぶりね! こっちからかけても全然出なかったのに、そっちからかけてくるなんてどういう風の吹き回しなの!?」


 電話が繋がった途端、携帯電話から元気のいい声が飛び出してきた。ちょっとうるさいから耳を少し放しておこう。


「あー、今ちょっと話せるか? 実は俺、働こうと思ってさ。それでお前に手伝ってもらいたいことがあるんだけど」


「えっ!? ほんとにどうしちゃったの!? 引きこもりだったあんたがいきなり働くなんて!? 何があったの!?」


 こいつは家族を除いて、唯一俺の心配してくれる貴重な存在だ。引きこもりになった後も何度も連絡をくれた。現実逃避していた俺はその電話にはでなかったが……


「まあ、色々あってこのままじゃいけないと思ってな。それでダンジョン配信のカメラマンをしようかと思ってさ」


「へえ、深くは聞かないけどあなたが働くっていうならぜひ協力させてもらうわ! それであなたにカメラマンをお願いすればいいの? でも、あんたダンジョンに潜れるの? 確かあんたのジョブは戦闘には向かなかったはずだけど」


 さすが根っからのお人好し。俺の願いに二つ返事で了承してくれた。俺の幼なじみにはもったいないくらいいいやつだ。


「いや、俺は戦闘はしない。そのために、ドローンを買ったんだ」


「ああ! なるほど、その手があったわね。あんたにしては中々いいこと思いついたじゃない。でも、あたしたちはいつもドローンをレンタルしてるからね。それよりお得ならパーティーメンバーも了承してくれると思うけど」


 ふむふむ、もちろん姫花の言う通りだ。向こうだって遊びでやってるんじゃないんだ。そんな彼女達が俺の出す条件を飲んでくれるか確かめてみよう。


「姫花のパーティーでは、ドローンをいくらでレンタルしてるんだ?」


「そうね、Dランクのダンジョンに潜るときはそれなりに高性能なドローンを借りてるわ。確か、最初の一時間二万円、それ以降一時間につき五千円のプランね」


 なるほど。大体さっき調べた通りだな。


「俺が考えているのは、時間での設定はなくてDランクダンジョンなら一日十五万円だ。ただし、俺が遠隔で操作するから、そっちが故意に壊さない限りドローンが壊れても弁償はなし。希望すれば動画編集も請け負おうかと思っている」


「へえ、少し高いけど保険料の事を考えたらそっちの方がお得かもね。それに弁償がないのはありがたいわ。Dランクのダンジョンは魔物もかなり強いからね。油断したらドローンが壊されちゃうことも結構あるのよ。そのための保険料が結構高くてね」


 うんうん、どうやら価格設定は間違ってないようだ。しかし、今回は試運転だから確実に受けてもらえるようにサービスしておくか。


「今回受けてくれるなら、初回サービスということで半額にしようと思ってるんだがどうだろうか? それとは別に、配信で得た収益の何パーセントかをもらいたい。そっちは要相談だな」


「ええ!? 半額でいいの!? それなら絶対パーティーメンバーもいいっていうわ! 収益の方も十パーセントとかなら問題ないと思う。

 明日、メンバーみんなに聞いてみるね! それにしても、あんたがダンジョンに潜るなんて……危険だけど大丈夫?」


「いや、ダンジョンには潜らないぞ。遠隔操作だからな、近場ならここから操作するし、遠くならそこまで運んで、近くの漫画喫茶にでも入って操作するからな」


「えっ? ダンジョンは外からの電波は届かないわよね? それなのに遠隔操作? えっ? えっ?」


 まあ、確かにそうなるか。でも、姫花は俺のジョブを知ってるはずなんだけどな。相変わらずちょっと抜けてるな。


「俺のはスキルだからな」


「は? そんなのってあり? なんか、それ凄くない? 安全にダンジョンに潜れるなんて。戦闘能力さえあれば危険を冒さずにレベル上げできたのにね」


 さすがにそこまで都合よくはいかないだろう。だけど、このスキルでお金を稼ぐ目処がたった。それだけでもありがたい。


「そうそう、俺の正体は今まで通り内緒にしておいてくれな。ドローン操縦士なんてジョブはバカにされるだけだから」


「うーん、そんなことはないと思うけど、操太がそう言うなら内緒にしておくよ」


 やっぱりこいつはいいやつだな。


「それじゃあ、細かい打ち合わせだが……」


 俺はその後、姫花と詳細な打ち合わせを行なった。

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