第24話 総理、救う
紅マロを癒やし終えた福地が、静かに立ち上がった。
ゆっくりと振り返りと、迅一郎の方へ歩み寄る。
福地は、次は総理の番ですと言わんばかりに頷いた。
「ありがとうございます……」
迅一郎は、先の戦いで失った自身の左腕を拾い上げた。
切断面を合わせるように、左腕を添える。
その傷口に、福地は両手をかざした。
手のひらから淡い光が広がり、傷口全体を優しく包み込む。
青白い光がゆっくりと広がり、血の跡がみるみるうちに消えていく。
やがて光が静まり、失われたはずの左腕は再び繋がっていた。
:迅一郎の手もつながったー!?!?
:もうなんでもありやんww
:迅一郎がいればエリクサーいらないんじゃね
:とにかくよかった
迅一郎はゆっくりと手を握り、指を動かした。
多少の傷みは残っているが、問題なく動く。
その事実を確かめ、彼は満足げに頷いた。
「助かりましたよ、福地大臣——」
目の前に立つ福地は、あくまでも迅一郎のスキルが生み出した思念体にすぎない。
ゆえに、本来であれば礼の言葉など不要なのだが、それでも迅一郎の胸は深い感謝の念で満たされていた。
福地はそんな迅一郎を見つめ、柔らかな笑みを浮かべた。
同時に、その輪郭がかすかに揺らぎ、光の粒となって滲みはじめる。
紅マロと迅一郎の治療を終えた時点で、ここに召喚された福地の役目は果たされた。
ゆっくりと光の粒となり、その輪郭が淡く溶けていく。
穏やかな笑みを残したまま、福地は静かに霧散した。
その場に残ったのは、柔らかな光と深い静寂だけだった。
数秒後、静けさを破るように——
「……ぅ……」
紅マロの口からかすかな声が漏れた。
「——蓮也!?」
その声を聞いたまこぴーがすぐさま駆け寄る。
膝をつき、紅マロの手を両手でしっかり握りしめた。
「大丈夫!? 蓮也!?」
「……ぅ、
まこぴーの姿を確認した紅マロは、か細く吐息を漏らすように、彼女の名前を口にする。
「うん! 眞子だよ! 蓮也、あーしのこと、わかる!?」
「あれ……? 俺……たしか……ダンジョンに入って……それで……? いって……!?」
紅マロは上体を起こそうとしたが、すぐに顔をしかめて動きを止めた。
その様子を見て、迅一郎は落ち着いた声で言葉をかける。
「傷が癒えたとはいえ、まだ完全ではありません。しばらくは動かない方がいい」
「え? そーり……?」
「救護チームがじきに到着します。君たちはそれまでここで待機してください。
「
紅マロは、いまだ自分の置かれた状況を理解できず、困惑したように声を漏らした。
「詳しいことは、彼女から聞くといい」
迅一郎はそう言って、まこぴーに視線を向けた。
「彼のことを頼みましたよ」
「うん……!」
まこぴーは涙をこらえながら何度も頷いた。
迅一郎はその姿にわずかに微笑み、踵を返す。
下層へ続くフロアゲートに向かって歩いていった。
「そーり、ありがとう!!」
その背中に、まこぴーの叫びが届いた。
迅一郎は、足を止めて振り返る。
紅マロをしっかりと抱きとめながら、涙と笑顔を混ぜた表情で大きく手を振るまこぴーの姿があった。
「助けてくれて、ありがとう! そーりがしてくれたこと……絶対に忘れないから……! あーし達……心を入れ替えるから!」
迅一郎は小さく息を吸い、その言葉を胸の奥で噛みしめた。
それは、どんな報酬よりも価値のある言葉だった。
誰かの心を変えること——
それこそ、政治の究極的な目的であり、彼の戦いの意味だった。
ゆっくりと右手を上げ、まこぴーたちに向かって大きく振り返す。
「生きているかぎり、失敗は失敗ではありません! なぜなら、失敗の中には必ず学びがあるからです。そして学びがあるということは、次に生かせるということなんです。私は、二人のこれからに期待しています!」
それは、回りくどくも、温かなエールだった。
:出たよ迅一郎構文www
:でもちょっと感動してるの俺だけ?
:誹謗中傷してた奴らは反省してどうぞ
:そーりの中…あったかいなり…
:俺も、無職童貞40歳だけど、やり直せるかな
:絶対にやり直せる
さっきまで誹謗中傷で溢れていたコメント欄は、今は笑いと感動で満ちていた。
迅一郎は振り返ってまこぴー達に背を向けると、自分の発言を自分自身で反すうする。
間違えたとしても、人は、生きていればやりなおせる。
それはきっと、国もまた一緒だ。
間違えて。
そのたびに立ち止まって。
少しずつ、よりよい形にみんなで直していく。
「……それが政治なんだ」
迅一郎はそう言い残して、下層へ続くゲートの中へと飛び込んだ。
***
それからおよそ一時間、迅一郎は慎重に探索を進めていった。
その後、夜叉以上の強敵と
そしてついに——エリクサーが眠る発掘ポイントへとたどり着いた。
命をつなぐ
こうして、恐山ダンジョンでの配信は幕を下ろした。
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