人肉ステーキ -最後の晩餐-

概要


◇◆◇


シリーズ完結編。

裏路地の洋食屋「ビストロ・ヒトミ」、

店主・日冨見臨ひとみのぞむは、狂気の頂点に達する。

かつての常連たちはすべて“素材”となり、最後にひとみ自身が皿の上に――。


愛と狂気が交錯する究極の晩餐、そして永遠に残る芸術の香りを描く。


◇◆◇


外は深い霧に包まれていた。

路地裏の灯りが、ぼんやりと濡れた石畳に反射する。


店内は、いつもと同じ香り――鉄とバター、そしてほのかな血の匂い。

しかし今夜は違う。

今夜、日冨見臨ひとみのぞむは、自らを素材にする晩餐を準備していた。


◇◆◇


「これが、私の最後の料理になるわ」


彼女は鏡に映る自分の姿を見つめる。

十数年間、包丁と火を通じて“人を味わう”ことを学んできた。

そしてついに、自らの命を、最後のステーキとして完成させる覚悟を決めたのだ。


◇◆◇


厨房の中央には、真っ白なテーブルクロス。


皿の上には、これまで仕込んだ“特別な肉”が並ぶ。

常連客――いや、“素材”となった者たちの名前札が、静かに光を反射している。


「みんな、ありがとう。あなたたちがいたから、私の味はここまで来られたわ」


ジュウ、と鉄板が鳴る。

臨は、自らの左腕をそっとナイフで切り、皿に盛る。


血がソースとなり、肉の香りを引き立てる。


その瞬間、過去の記憶がフラッシュする。

父の教え、母の味、初めて口にした温もり。


「これで、完璧……」


◇◆◇


客は、もう誰もいない。

いや、正確には、みんな“ここにいる”。


人間としてではなく、皿の上の芸術として。

臨は自分自身をも“食材”に変え、最後の晩餐を完成させる。


包丁で刻むたび、悲鳴は消え、笑みだけが残る。

火の赤が揺れるたび、彼女の顔は静かに輝いた。


◇◆◇


そして夜明け。


霧の街に静寂が戻る。

店の窓からは、朝の光が差し込む。


だが店の中は、永遠に止まった時間のまま――

“最後の晩餐”の宴席だけが、凍りついた微笑みとともに残されていた。




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