第4話 敢えていうなら・・・・・・魔ポンだ! ニッ!

1-4-1


「ああ~、暇だな。」


 いつも通り皇女様は退屈していた。


「愛ちゃん、何か楽しいことはない?」


 AIの愛ちゃんに尋ねてみた。


「は~い! 可愛い愛ちゃんです! 季節の変わり目は毛が抜けて心配です!」


「ええっ!? AIって、禿げるの!?」


「愛ちゃんは禿げても可愛いですよ! エヘッ!」


 今時の、AIは、やっぱり禿げるらしい。


「ねえねえ。愛ちゃん。」


「愛ちゃんの月見団子はあげませんよ!」


「ズコー!?」


 皇女様は、ズッコケるしかなかった。


ピキーン!


「ああああああー!? やることがいっぱいだ!? 頭がパンクする!? 体が一つでは足らなすぎる!?」


 皇女様は、発狂していた。


「ああああああー!? 皇女様!? いつになったら、冷蔵庫に入れておいた愛ちゃんのプリンを勝手に食べた分を返してくれるんですか!?」


「え? まだ覚えていたの?」


「食べ物の恨みは怖いんですよ!」


「アハッ!」 


 これでも皇女様と愛ちゃんは、ポンコツ姉妹で仲良しだった。


「愛ちゃん、剣の素材はどうしよう?」


「一番強いのは、オリハルコンですが、素材の下の方は、グチャグチャですね。」


「銅、銀、金の順番は、オリンピックのメダルで分かるよ。」


「とてもじゃないですが、調べていると時間がかかりますね。その間にアップデートがないと、プレイヤーが文句を言いだします。一種のクーデターです!」


 やることがないと、プレイヤーが離れていき、過疎ゲーになっちゃいます。


ピキーン!


「いいことを思いついた! 私たちが素材の勉強をしている間は、ゲストキャラクターに頑張ってもらおうよ!」


「おお! さすが皇女様! 目くらましですね! 悪知恵だけは、世界一です! エヘッ!」


「その通り! 悪いことを考えさせたら、私の右に出る者はない! なぜなら私はポン王国の皇女なのだから! オッホッホー!」


 これでも全世界に100億人のユーザーを抱えているポンの世界の皇女様である。


「で、誰を登場させますか?」


「こういう時にキャラクター人気投票1位に頑張ってもらわないとね。アハッ!」


 もちろん・・・・・・あいつだ。


「さあ、我々は剣の素材とか、エネルギー破の種類の、波動・ポンとか、ギャリック・ポンとか、もっと魔法も使ってもらわないとね。アハッ!」


「後、マップの水筒にオリハルコンが入っていると、フェイクニュースを流しておきますか? 上位者ほどチャレンジしますから、毒や眠りに襲われるでしょうね! エヘッ!」


 ポンコツ姉妹は、まるでジキポンとハイポンの科学者みたいだった。アハッ!


 ログアウト!


 つづく。


1-4-2


「ふあ~あ! 良く寝た!」


 皇女様は、現実世界では、鈴木スズ。10才の女の子である。


「・・・・・・。」


 スズは何もしゃべることがなかった。これがノーストレス! アハッ!


「おお! 母さん! 今日はスズが何も喋らないぞ!? きっと呪いから解き放たれたんだ! ありがとう! 神様!」


「何を言っているんですか? 喋っていないスズちゃんの方が病気ですよ!」


 朝からネジが2、3本外れているスズの両親のスズ男とスズ子であった。


「おはよう! お父さん! お母さん!」


「おはよう! おお! 俺の娘よ!」


「おはよう! スズちゃん! 私の愛ちゃんソードが消えちゃったの。シュン!」


(そりゃあ、バグだから消えるよ。アハッ!)


 家族の朝の挨拶を鈴木家は行う。


「おお! スズ! 裏ポンで新しいアイテムを手に入れたんだが、俺には、これがなんだか分からないから、教えてくれ。」


「いいよ。お父さん。」


「これだ。」


 スズ男は、スマホの画面をスズに見せる。


「ゲッ!? オリハルコン!? しかも、3つも!?」


 なんということでしょう!? スズ男は伝説の鉱石、オリハルコンを3つも持っていた。


「お、お父さん!? これどうしたの!?」


「拾ったんだ。マップのアイテムにオリハルコンが拾えるって、ネットニュースでやっていたから。」


(や、やりやがった!? フェイクニュースなのに、本当にしてどうするんだよ!? 愛ちゃん!?)


 愛ちゃん曰く。


「フェイクニュースって何ですか? エヘッ!」


 ポンコツAIなので分かるはずがなかった。


「お父さん! すごいね!」


「おお! お父さんはすごいのだ! ワッハッハー!」


(やったー! 娘に褒められたぞ! 嬉しい! アハッ!)


 年頃の娘との会話に、ゲームを始めたスズ男は、家族愛を取り戻す。


(修正だ! 修正してやる! いや、愛ちゃんを粛清してやる! うおおおおおー!)


「トイレ。」


 スズは、トイレに入り扉を閉めたら、スマホで電話する。


「私だ。」


「は~い! 可愛い愛ちゃんは、山に薪を拾い、川で洗濯するので、電話に出られません。御用の方はメッセージをどうぞ! エヘッ!」


「ズコー!?」


 愛ちゃんの留守電は昔話風だった。


「スズ! 学校に行きます!」


 つづく。


1-4-3


「おはよう! タナちゃん!」


「おはよう! スズちゃん!」


 スズは、学校の教室にやってきて、お友達のタナに朝の挨拶をした。


「ねえねえ、スズちゃんはオリハルコンを拾ったの?」


「ええー!? タナちゃんも拾ったの!?」


「うんうん。私は0だよ。そう簡単には拾えないよね。」


「おお! 私も0で一緒だよ! ただ・・・・・・お父さんがオリハルコンを3個も拾って自慢していたよ。まったくいい年して娘として恥ずかしいよ。」


「3個!? すごいね! スズちゃんのお父さん!? オリハルコンを見つけて、倒されないで、必死に逃げたんだね。」 


 倒されると、ドロップは没収である。


「絶対に生き残って! スズに自慢するんだ! うおおおおおー!」


 傷だらけでスズ男は戦場を駆け抜けた。アハッ!


ピキーン!


「あっ!? 確かにお父さんのアバターのステータスで、逃げ足だけ、異常に成長していたような!?」


「スズちゃんのお父さんは、将来、シーフか、忍者だね。ニコッ!」


 これも、スズ男が逃げ続けたからである。意外にタナには好印象のスズ男。


ポポポポーン!


 その時、スマホに、緊急イベントの告知のベルが鳴る。


「なんだ!? 敵襲か!?」


「いやいや。スズちゃん、ここ学校だよ?」


「そうでした。アハッ!」


 そそっかしい、ポンコツなスズであった。


「なになに? 戦闘のトップスターに・・・・・・ま!? ま!? 魔ポン!? が現れます!?」


「魔ポン様!?」


 レイドのボス戦ではないが、通常の裏ポンバトルに、世界の正義のヒーローの魔ポンが登場するというものだった。


「すごいね。タナちゃん。魔ポンが出るんだって?」


「魔ポン様! タナと結婚してください! ラブ~!」


 普通少女タナは、正義のヒーローの魔ポンの大ファンであった。


「た、タナちゃん!? ・・・・・・おのれ!? 許さんぞ! 魔ポン! 私のタナちゃんに手を出すなんて!?」


 別にタナは、スズのものでもない。アハッ!


「しかし、敵は、あの魔ポンだ!? 私の最大の一撃で倒すしかない!?」


 スズのは、とっておきの必殺技があった。かつて、ポン魔王を倒した必殺技だ!


キーンコーンカーンコーン!


 1限目の始業のベルが鳴り、ナカ先生が教室にやってきた。


「はい! みなさん! 今日の国語の授業は・・・・・・自習です!」


「やったー!」


 いきなりの自習宣言をするナカ先生。


「なぜ! 自習にするかというと・・・・・・魔ポンを倒さないといけないからです! 何回も、何回も、何回も戦いを挑んで、魔ポンを倒して、魔ポンカードをドロップするまで戦い続けるので、授業なんかしている時間がありません! シャキーン!」


「いや~。ナカ先生は、話の分かる先生だよ。アハッ!」


 動機は不純だが、生徒には人気のあるナカ先生であった。


 つづく。


1-4-4


「裏ポン部! 集合!」


 ナカ先生が顧問として、部員のスズ、タナ、タカ、サトを招集する。


「これから魔ポン討伐クエストに挑む! みんな! 私のサポートをよろしく!」


「はい! ナカ先生!」


 顧問の命令は、内申点に響くので絶対であった。


 裏ポン・バトル! スタート!


「あれ? 何も起こらないぞ?」


 しかし、戦いが始まっても、何の演出もなかった。


「トップスターは、魔ポンじゃないのか?」


 スズは、戦場のトップスターを覗いてみた。


「む、無ポン!?」


 事実上の外れであった。無ポンは、喋らないし、動かない。魔ポンと同じPPSS(ポン・皇女・シークレット・サービス)のメンバーであった。元ポン魔王四天王でも魔ポンと同じである。


「わ~い! 無ポン地蔵様だ! お参りしよう!」

 

 普通少女タナが、無ポン地蔵の魅力に負けて、戦場を堂々と歩いてしまう。


「ギャアアアアアアー!?」


 即座にランカーに狩られてしまう。


「ああ!? タナちゃん!? ・・・・・・君の死は、無駄にはしない。」


 スズは、ゲーマーとして、不用意な行動はしない。


「でも、無ポンが出現するということは、悪ポンや暗ポンタンも登場するんだろうな~っと。アハッ!」


 悪ポンと暗ポンもPPSSに所属。共に、元ポン魔王四天王である。


タイム・アップ!


「あれれ? 生き残ったのは、私だけ?」


 スズを含めて、4人しか生き残らなかった。ナカ先生や3人の部員は倒されてしまった。


「スズちゃん、すごいね。良く生き残れたね。」


「私は、かくれんぼしていただけだよ。普通に戦っても、課金しまくりのお金持ちには適わないからね。」


 意外に、リアリストなスズであった。


「でやああああー!」


「そいやー!」


 スズたちは戦った。授業中ということも忘れて。


「クソッ!? 魔ポンが出ねえ!? うおおおおおー!」


 授業をサボってなので、10回くらい、まとまってゲームをする時間が確保できた。


「スズちゃん、結構、私たち強くなった気がするよね?」


「そうだね。一番効率がいいのは、動かないで、かめはめ・ポンを撃ち続けてるだけの方がいいかも?」


 少しずつだが、ゲームの攻略法を編み出していくスズであった。アハッ!


 つづく。


1-4-5


ピキーン!


 授業を自習に切り替えて、37回目の裏ポンだった。


「暗雲が我が道を覆い隠すって?」


 突如、画面が暗くなり声が聞こえてくる。


「暗い雲は、君の心だ! 私が晴らしてあげよう! どりゃあああああああー!」


 黒い雲は二つに引き裂かれ、神々しい光が大地に降り注ぐ。


「どうだ? 心のモヤモヤが吹き飛んだだろう?」


 そして、一人の神が舞い降りてくる。


「感謝? 別に要らないぜ! なになに? 私が何者かって? 名乗るほどの名前はない。・・・・・・敢えていうなら、魔ポンだ。ニッ!」


 魔ポンが名前を名乗ると暗雲は完全に吹き飛ばされ、ゲーム画面が明るくなる。


「魔ポンだ!?」


「正義のヒーロー! キター!!!!!!」


「うるうる!」


 ポンバトルのプレイヤーたちが涙を流しながら、魔ポンの登場の奇跡を拝んで動けない。


「なんて、迷惑な奴なの!? 登場シーンだけで、5分の戦闘時間のうちの2分も使いやがった!?」


 これもキャラクター人気ランキング1位の特権である。


「やはり、魔ポンは倒さなければいけない敵だ!」


 1位を奪われたスズの復讐心が燃えあがる。


「だが、おまえの長い登場シーンのおかげで、私も必殺技の用意ができたよ!」


 スズの上空には大きなエネルギーの塊が太陽の様に出来上がっていた。


「全世界! 全宇宙! 全異次元! のポン信者たちよ! みんなのポンを私に分けて頂戴! アハッ!」


 スズは、皇女として、全ての生きとし生けるもの、人間、草、水、火山などから、心の結晶であるポンを分けてもらう。


「ああ! なんて温かくて! 優しい光なんだ! みんな! ありがとう!」


 皇女様は、一撃必殺の縦鼻が整った。


「あの光はなんだ!? まさか!? 皇女様!? しまった!? させるか!? うおおおおおー!」


 さすがの魔ポンも太陽ポンには気が付き、スズに突進する。


「さすがに気づいたか!? だが、遅かったな! くらえ! 我が最大の必殺技! みんなのポン! ポポポポーン!!!!!!」


 スズは、大地ごと全てを吹き飛ばす気だ。


「させるか!? 私が皇女様のみんなのポンを頂きます! どりゃああああああ!」


 魔ポンがみんなのポンを吸収していく。


「そんなことができると思っているのか?」


「できる! なぜなら! 私は正義のヒーローだからだ! みんなの私を信じる心が私を強くするんだー!!!!!!」


 魔ポンが、スズのみんなのポンを押し返し始める。


「私は、おまえが善意を行うのは、光ポンを吸収して、闇ポンを生み出す糧にしているって、知っているんだよ。この偽善ポン。」


 魔ポンの善意は、光ポンを集めて、闇ポンに変えるためだった真実。


「知ってたら、対策も考えるよね。」


「ん!? つ、月!?」


 皇女様の後ろに、もう一つの眩い輝きを放つ月ポンが現れる。


「太陽と月の二つも吸収しきれるかな? アハッ!」


 笑顔でスズは、容赦なく月も落とす。


「ギャアアアアアアー!?」


ドカーン!


 全てが吹き飛んだ。


 つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る