第2話 現社で始める

1-2-1


「ああ~、暇だな。」


 いつも通り皇女様は退屈していた。


「愛ちゃん、何か楽しいことはない?」


 AIの愛ちゃんに尋ねてみた。


「は~い! 可愛い愛ちゃんです! 実は秘密兵器を持っているです!」


「ええっ!? AIって、武器を隠し持っているの!?」


「可愛さです! エヘッ!」


 今時の、AIは、顔が命らしい。


「ねえねえ。愛ちゃん。」


「愛ちゃんのエクレアはあげませんよ!」


「ズコー!?」


 皇女様は、ズッコケるしかなかった。


ピキーン!


「さあ! 後は私が現実世界に戻って、裏ポンをするだけね! アハッ!」


 チュートリアルを終えた皇女様は、呑気だった。


「皇女様!? 何を言っているんですか!? 既にサービス開始しているので、皇女様は周回遅れですよ!?」


「なんですと!? どうして私が帰るまで待てないのよ!?」


「そんなに怒らないでください!? 気が付いたら、勝手に始まっていたんです!? エヘッ!」


 ありますよね? ウトウトしていたら知らない間にスマホの知らないボタンを押していたなんていう、怖い出来事。アハッ!


「愛ちゃん! 責任取って、何かサービスして!」


「ええー!? ゲームは最初っから、自分で成長させた方が楽しいですよ?」


「いいわよ。何もくれないのなら、皇女剣と女魔王剣で無双してやる! うおおおおおー!」


「もう、それでいいじゃないですか?」


「えっ!? いいの? ラッキー! アハッ!」


 こうして、皇女様は、ポン皇女様カードを手に入れた。


「ただし、雑魚相手に使わないでくださいよ。発動条件は、強敵と戦う時だけですよ!」


「わかった。わかった。私を信じなさい。なぜなら私はポン王国の皇女なのだから! オッホッホー!」


「絶対に信用できないです・・・・・・。」


「さあ! これで裏ポンも、私の勝ちね! アハッ!」


 どこまでもマイペースな皇女様。


「ねえ、愛ちゃん。今度はロボットモノのゲームも作ってよ。」


「ロボットですか?」


「ナイト・ポン・ライダーみたいに、パイロットが私で、AIの愛ちゃんがロボットなの。」


 次回への布石です。エヘッ!


「巨人や、大きな鬼、ギガンテスと戦う時に、ロボットがあれば便利ですね。」


「でしょ? でしょ。面白そうでしょ! アハッ!」


 皇女様は、好奇心旺盛であった。


「じゃあね! 愛ちゃん! あっちの世界で遊んでくるわ! アハッ!」


 生き生きとしている皇女様。


「頑張ってくださいです! エヘッ!」


 ログアウト!


 つづく。


1-2-2


「ふあ~あ! 良く寝た!」


 皇女様は、現実世界では、鈴木スズ、10才の女の子である。


ピキーン!


「もう知名度のある人気作品にはなっているんだろうけど、映画版のスパイ・ポン・ファミリーを見た。キスシーンありで保護者が安心して子供に見せれないし、内容の3分の1がアーポンのうんピー・・・・・・もう、ネタがないなら終わっていいよ。」


 映画も無理やり派手な戦闘みたいな、まるで迷惑探偵コナポンと同じ内容で飽きた。それでも映画で儲けるために、テレビも同じことの繰り返しで続くんだろうな。3期の1話目ですら、後半はアーポンもでないし、面白くなかった。ガックシ。


 そのスズの様子を見る二人組がいた。


「ダメだ!? また発病してるぞ!? うちの娘は大丈夫か!?」


「だ、大丈夫ですよ! これが、いつものスズちゃんですよ! ・・・・・・たぶん。」


 スズの両親のスズ男とスズ子である。いつも不憫な娘を心配していた。


「おはよう! お父さん! お母さん!」


「おはよう! スズ! おまえ、健康診断に興味はないのか?」


「おはよう1 スズちゃん! 良かったら学校を休んでもいいのよ?」


「何を言っているんだい? 義務教育は受けないといけないんだよ。」


 たまに普通なことを言えるスズ。アハッ!


「スズ! お父さんは、娘と話すためにゲームを始めたぞ!」


「何のゲーム?」


「裏ポンだ!」


「う、裏ポン!?」


 出た! 裏ポンーーーーーー!


「俺は、もう10回くらい戦ったぞ。なかなか繋がらないんだ。サーバーくらい増強しておけってな! 俺でも分かるぞ! 運営の馬鹿野郎ー!」


「まあまあ、サービス開始したばっかりだし、仕方がないよ。」


(グサッ!? お父さんの言葉に胸が痛い!? 私も運営側ってことだね。アハッ!)


 本当は、10才で一番忙しい女の子のスズ。


「お父さん! ステータス見せて!」


「いいぞ!」


(おお!? これが親子の語らいって奴か!? 娘の病気は、お父さんが治してみせる! うおおおおおー!) 


 家族愛オーラ爆発のスズ男。


「う~ん。10回戦って、経験値が200くらいなんだ。まあ、普通だね。ありがとう! お父さん!」


「おお! これくらい任せておけ!」


(やったー! 娘に「ありがとう!」って言われた! 嬉しいー!)


 昇天するスズ男であった。


ピキーン!


「あ!? 学校に遅れちゃう!? スズ! 行きます!」


「スズ! がんばれよ!」 


 鈴木家は、今日も幸せだった。アハッ!


 つづく。


1-2-3


「おはよう! タナちゃん!」


「おはよう! スズちゃん!」


 スズは、教室にたどり着き、お友達のタナに挨拶する。


「ねえねえ、スズちゃん。もう裏ポンやった?」


「まだだよ。タナちゃんと一緒にやろうと思ってね。アハッ!」


 既に家庭だけでなく、学校でも話題の新作スマホゲームの裏ポン。


「私は戦闘とか苦手だから、早くポンの世界が直ってほしいな。」


「たぶん、直ぐには直らないんじゃないかな?」


 ポンの世界を、長期の緊急メンテナンスに追い込んだのは、スズである。アハッ!


「先生が来るまでに、1回一緒にやってみようよ。」


「いいね。タナちゃんは、私が守るよ!」


「ログイン!」


 二人は朝から裏ポンで遊ぶことにした。


「ポン・バトル! スタート!」


 こうして50人のオンラインでの対戦が始まる。


「おお!? 私の順位は最下位だ!?」


 初めて、現実世界で裏ポンするスズは、50人中、50番目だった。


「あれれ? タナちゃんはどこにいるんだろう?」


 スズは、タナと離れてしまった。


「スズちゃんは、大丈夫かな?」


 タナは、25番目だった。2回目以降の経験者枠であった。


「何とかして、生き残らなくっちゃ!」


 タナも奮闘を誓う。


「よし! ハンバーグを作りに行くぞ! アハッ!」


 スズは、いつもの調子で戦いに挑む。


「どりゃあ!」

 

 敵が現れて、スズに攻撃を仕掛けてくる。


「そんなもの、私に効かないのだ! なぜなら私には、皇女バリアがあるからな! ワッハッハー!」


 避ける気のないスズ。


「ギャアアアアアアー!? 痛い!? ダメージを食らっただと!? どうなっているんだ!?」


 個人、鈴木スズは、皇女様ではないので、ポン皇女バリアはなかった。


「不味いぞ!? このままダメージを受け続けたら、倒されてしまう!?」


 スズは危機感に苛まれる。


ピキーン!


「魔王眼!」


 スズは、第三の眼を開き、時間を止める。


「いでよ! 女魔王の剣!」


 そして、自分の愛刀を出す。


「くらえ! 必殺! 皇女・スラッシュー!」


「ギャアアアアアアー!?」 


 必殺技を繰り出し、動かない敵を倒してしまうスズ。


「魔王眼! 解除!」


 再び時間が動き出す。


「やったー! 一人倒したぞ! わ~い! わ~い!」


 疑われないように、子供らしく無邪気に喜ぶスズであった。これが記念すべき、スズの第一キルであった。アハッ!


 そして、制限時間が終了。


「やられちゃった。いきなりトップスターが現れて一撃でやられたんだよ!? 信じられる!?」


 タナは、あっさり1位の人に倒されたらしい。


「私も一人を倒したけど、後は、遠くから投石しかしていないよ。アハッ!」


 スズの嘘つき。


 つづく。


1-2-4


キーンコーンカーンコーン!


 お昼休み。


「我が、ポンカード部は、裏ポン部に変更します!」


 イト部長の号令から、部名が変更された。


「ポンの世界が、メンテナンス中で、ログインできないからね。」


「ええー!? ワタ先輩!? 頭を転がしてなくていいんですか!?」


「失礼な! 先輩を、頭転がし芸人みたいに言うな!」


「すいません!」


 ワタ先輩。正体は、アンドロイドである。


「俺様の親のクレジットカードが火を噴く時がきたぜ!」


 お金持ちのタカ。


「おお!? すごい!? なんか知らないけど、おまえだけ武器を持っている!?」


「昨日から、一睡もせずガチャしまくっているからな! タハッハー!」


「どうせ、後から強いアイテムが追加されるのに。最初に、ガチャしたって無駄だよ。」


 庶民のサト。


「何を!? いいだろう! 裏ポンで勝負を着けてやる!」


「受けて立つ! おまえを倒して、おまえの装備を頂いてやる!」


 お約束の庶民と金持ちの意地の張り合い。


「どうでもいいから、早く始めましょうよ!」


「ゲッ!? ナカ先生!? なんで、いるんですか!?」


 ライトニング・ナカ。ベルと共に去る部の顧問。


「私、格ゲー専門だし、それに裏ポンは50人まで参加できるから、7人で一緒に戦った方が勝つ確率が高くなるでしょ?」


「おお!? さすが大人!? 策士だ!?」


「伊達に、教師はやっていません! ナハッ!」


 要するに、一人で裏ポンすると直ぐに倒されちゃうので、小学生を頼りにしている大人ということである。


「よし! それでは、みんなで、裏ポン・バトル・スタート!」


「おお!」


 裏ポン部の友情の絆の実力が試される。


 ゲーム・スタート!


「よい、しょっと。まずはマップ確認。はい、強い敵はいない。・・・・・・でも2回目の私が50人中、25位って!? ゲーム・バランスが悪いな。後で、愛ちゃんに電話しなくっちゃ。アハッ!」


 正に運営の手先のスズ。


「まずはタナちゃんを探そう。タナちゃんも経験者ランクだから、近くにいるはずだ!?」


 スズは周囲を伺う。


「おお!? 敵だ!? まだ私に気づいていないな!? よ~し! 遠くから石を投げてやる!」


 スズは投石をしようとする。


ピキーン!


「もしも!? 裏ポンの投石ブームの性で、実際の世界で投石事件が起こったらどうしよう!? それならマップに睡眠薬入りの水筒を置いて、眠った敵をフルボッコする方がいいのだろうか!?」


 水筒睡眠薬は小学校事件の史実である。


 つづく。


1-2-5


「よし! 奇跡的に、みんな、揃ったな!」


 裏ポン部の6人が誰かに倒されずに一か所に集まることができた。


「部長! ワタ先輩がいません!?」


「やられちゃったのかな?」


「いや。ワタのことだから「あなたはロボットではありません?」の問いに、ロボットですって答えて、弾かれた可能性がある!?」


「おお! 納得!」


 アンドロイドのワタ先輩あるあるである。アハッ!


 しかし、事実は・・・・・・。


「頭!? 頭ちゃん!? 転がらないで!? ゲームするんだから!?」


 正解は、ゲーム開始前に頭が転がり、バトルに参加できなかったのである。アハッ!


「よし! まずは高い位置に移動して陣を敷くぞ!」


「どうして? 高い所なんですか?」


「高い位置から投石すると、重力がかかり、より大きなダメージを相手に与えられる。それに敵が攻めてきても、上る道が狭いので、一度に大量の敵を相手にしなくていいだろ?」


「おお! さすが部長! 肩書だけじゃなかったんですね!」


「こらこら、おまえは私のことを普段どんな目で見ているんだ?」


「こんな目です! ギラン!」


「ズコー!?」


 部長もズッコケさす、スズの大きく見開いた鋭い眼光。アハッ!


「一斉射撃だ!」


「おお!」


 移動中も6人同時の投石が、現れた敵を倒していく。


「たいして、ドロップもしませんね?」


「まだ、開始したばかりで、課金していない人は、剣すら持っていない素手だからね。」


「将来は、必殺拳法時代がやって来そうですね。アハッ!」


 スズは気軽に言っているが、そのうち、拳一つで剣を砕き、蹴り一つで魔法を切り裂くプレイヤーが現れるかもしれない!?


 タイム・オーバー!


「やったー! 私たち生き残りましたよ!」


「9人しか生き残っていないから、たくさん経験値が貰えるね! ニコッ!」


「これも私の作戦のおかげだ! ワッハッハー!」


「投石だけで勝てるなら、俺の高額ガチャはいったい!?」


「僕なんかでも、勝てた! すごい達成感だ! やったー!」


「みんな! これからも一致団結して、戦うわよ!」


 部員たちは勝利で友情の絆を強くした。


(この子たちを利用して、私は裏ポンで強者になって、大会に出て賞金をガッポリ稼ぐんだ! ナホッ!)


 ライトニング・ナカ。逃げ足だけでなく、ずる賢いことを考えるのも頭の回転が速かった。


「よし! 二回戦だ!」


「おお!」


 盛り上がってきた裏ポン部。


キーンコーンカーンコーン!


「授業のベルなんか気にするな!」


「おお!」


「いけません。私の教員評価に差し障ります。」


チーン!


 つづく。

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