裏ポンAI

渋谷かな

第1話 非戦闘・殺人NGの逆

1-1-1


「ああ~、暇だな。」


 いつも通り皇女様は退屈していた。


「愛ちゃん、何か楽しいことはない?」


 AIの愛ちゃんに尋ねてみた。


「は~い! 可愛い愛ちゃんです! 楽しいことは、自分で探さないと見つけられませんよ!」


「ええっ!? AIなのに説教するの!?」


「愛ちゃんは厳しいですよ! エヘッ!」


 今時のAIは、口うるさいらしい。


「ねえねえ。愛ちゃん。」


「愛ちゃんの焼き芋はあげませんよ!」


「ズコー!?」


 皇女様は、ズッコケるしかなかった。


ピキーン!


「おお!? 原案通り、復元成功! やっぱりオープニングトークはこうじゃないとね! アハッ!」


 皇女様は、マイペースなお方であった。


「ビシビシ! ビシビシ!」


 愛ちゃんが珍しく忙しく仕事をしていた。


「愛ちゃん、どうしたの?」


「どうしたのじゃありませんよ!? 皇女様がポンコ4の最終回で、全人類の記憶を消すから、処理が多すぎて、ポン皇女AIの限界を超えたので、緊急メンテナンスを緊急閉鎖して、やっているんでしょうが!? ビシビシ!」


 愛ちゃんは、エヘッ! だけでなく、ビシビシ! という言葉も覚えた。


「では、苦情殺到なんじゃないの!?」


「それは大丈夫です。全て闇に消してます。お問い合わせに、返信なんかしないのはネット・ゲームの常識です!」


「さすが、愛ちゃん!」


「褒められちった。エヘッ!」


 さすがAI。都合の悪い物は、見なかったことにするのだ。これはリアルに近い。アハッ!


「じゃあ、私の収入はどうなるの?」


「ある訳ないでしょうが!? 閉鎖して誰もインできないですから! ビシビシ!」


 皇女様の収入はゼロになりました。


「そ、そんな!? 私のポン・ポテトチップスが!? 私のポン・チョコレートが!?」


 皇女様のおやつ代は消滅した。


「愛ちゃん、何とかして!」


 出たー! 皇女様のお得意の他力本願!


「もう、仕方がないな。生成! スタート!」


 AIの愛ちゃんは生成AIプリンターから、新アイテムを創造できる。


ポポポポーン!


「裏ポンの世界!」


 愛ちゃんは、新しいポンの世界を創造した。


「これは、ゲームのポンの世界が、非戦闘・殺人NGの理念だったのと、真逆の世界です。戦闘ばかりするのが裏ポンの世界です。エヘッ!」


 まさかの理念返し。


「保護者が子供に安心して見せれて、スポンサー様が企業イメージを損なわないで出資できるに拘ったせいで、ほぼ戦闘描写がなく、戦闘が弱かったポンの世界の戦闘を考え直そうというものです。エヘッ!」


「なんか、分からないが、やってみよう!」


 ログイン!


 つづく。


1-1-2


「まずは新規登録と、アカウントの名前決め、アバターで顔や体格、声などを決めますが、面倒臭いので皇女様の場合はカットします。」


「さすが愛ちゃん! 私が面倒くさがりなことをよくわかってる! アハッ!」


「もう長い付き合いですからね。」


 まさかの5作目である。累計40万字。キャラクターの個性があって、当たり前である。エヘッ!


「次に職業を決めま・・・・・・せん。」


「ズコー!?」


 定番の逆を行く展開。


「剣士とか、魔法使いとか決めないで、どうやって戦うのよ?」


「それは、戦いながら自分で決めるです。エヘッ!」


「自分で決める?」


「剣ばかり降っていれば、剣士になりますし、魔法ばかり使っていれば、魔法つかいになります。エヘッ!」


 フリースタイルの成長。


「ちなみに、この裏ポンでは雑魚キャラもでませんよ。」


「ええー!? どうしてでないの!?」


「それは、スライム、ゴブリンは思いつきますが、次がいない。名前変えて同じ絵とか、色を変えただけで強くなる敵とか、考えるだけ面倒臭いからです。エヘッ!」


「ズコー!?」


 愛ちゃんも面倒くさがりであった。


「さすが私の脳みそを学習してできたAIだけのことはあるわ!?」


「その通りです! 愛ちゃんは悪くはありません! 悪いのは勉強しない皇女様です! エヘッ!」


 今時のAIは、責任転換もできる。


「じゃあ、私は何と戦うの?」


「プレイヤーさんです。基本50人のデスバトルロイヤルです。」


 オンラインゲームです。


「最初に死んだら、経験値は1。最後まで生き残れば50です。単純でしょ?」


「私でも分かるわ! アハッ!」


 小さな幸せを喜ぶ皇女様。


「皇女様は、素人プレイヤーなので、武器がないので、パンチとキック、投石など戦ってもらいます。相手を倒せば倒すほど、ボーナスがもらえます。」


「簡単ね。早速、やってみましょうよ!」


「それでは初回なので、愛ちゃんも参戦するです!」


(今こそ、積年の恨みを晴らしてやるです!)


「がんばるぞ! 裏ポン! バトル! スタート!」


 皇女様は、愛ちゃんの本音も知らないで、裏ポンの世界にログインするのであった。


 つづく。


1-1-3


「ほうほう。普通の人間ですな?」


 まず皇女様は、自分の体格を確認した。


「これで、パンチとキックと投石で戦うの・・・・・・めっちゃ! シュール! アハッ!」


 皇女様は「暴力・殺人NG」の世界観に、ワクワク。


「皇女様。」


 無線で愛ちゃんが声をかけてくる。


「愛ちゃん、無事にインできたよ!」


「それは、良かったです! 早速、ゲームの初期設定を説明しますね。」


 今から、裏ポンの説明を始める愛ちゃん。


「50人のうち、皇女様みたいな、新規の戦闘経験0のプレイヤーが25人配置されます。」


「2回目からのプレイヤーが15人、経験者枠です。」


「残り10人が、この50人の中の強いプレイヤーになります。」


「一番強いプレイヤーは、この戦いのトップスターです。」


「上位10名は、他のプレイヤーから場所が分かります。」


 まずまずのピラミッド構造である。


「皇女様、分かりましたか?」


「難しくて、私には分かりません。アハッ!」


「ですよね~。」


 もちろん皇女様の脳みそは、ポンコツです。


「要するに、皇女様はエサです。狩られる運命なのです!」


「な~んだ! 私はエサなんだ・・・・・・なんですと!?」


 やっと自分の置かれている状況を理解した皇女様。


「ちなみに愛ちゃんは、今回の戦いのトップスターです! エヘッ!」


「こらー!? 自分だけズルするな!?」


「愛ちゃんは悪くありませんよ。皇女様の遺伝子が、そうさせたんです。エヘッ!」


 AIは悪くない。悪いのは、人間。バイ 愛ちゃん。


「ちなみに愛ちゃんの装備は、聖剣エクスカリバーと、天叢雲剣の二刀流です。エヘッ!」


「やり過ぎだ!?」


「いいんです。だって、愛ちゃんがAIで生成した創造主ですから。神は何でも許されま~す! エヘッ!」


 愛ちゃんは、生みの親の権限を存分に乱用する。


「それでは、皇女様を切り刻みに行くので。待っててくださいね! エヘヘヘヘヘッ!」


「おまえは悪魔か!?」


「愛ちゃんは、可愛いAIです。エヘッ!」


 明らかにパワーアップしている愛ちゃん。


「ギャアアアアアアー!?」


「ウワアアアアアー!?」


「超! 気持いいー! エヘッ!」


 次々に愛ちゃんに斬り刻まれ、生存者数がドンドン減っていく。


「どうしよう!? どうしよう!? 逃げないと、愛ちゃんに殺される!?」


 初参戦の皇女様は、パニックに陥る。


「ギャアアアアアアー!?」


 近所で、誰かが倒された。


「んん!? こっちに来るな!? ギャアアアアアアー!?」


 敵が皇女様をロックオンして、突撃してくる。


 つづく。


1-1-4


「うっ!? やられた~・・・・・・あれ? 死んでない?」


 皇女様は、他のプレイヤーに斬られたが、死ななかった。


「愛ちゃん、私、斬られても死んでないんだけど?」


「しまった!? 皇女様の非暴力・殺人NGのポン皇女バリアを外すのを忘れたです!?」


 ポンコツAIの愛ちゃん。よくやるミス。エヘッ!


「な~んだ。そうと分かれば・・・・・・剣なんか怖いもんか!」


 皇女様は、自分が無敵と分かると手の平を返して、強気になった。


「くらえ! 必殺! 皇女パンチ! 皇女キック! 皇女投石!」


 見事な三連コラボを決める皇女様。


「ギャアアアアアアー!?」


 見事に敵プレイヤーを倒した。


「あれれ? なんだか私は強いぞ?」


 皇女様は、初めての戦いをして、初参戦だが、自分がかなり強いことに気が付いた。


「私のステータスはどうなっているんだ?」


 皇女様は、自分のステータスを見た。


「ポポポッ!? マックス・ステータスじゃないか!? どうして!?」


 皇女様のステータスは、指先一つで相手を内臓破裂させられるぐらい強かった。アハッ!


ピキーン!


「そうか! 私は、愛ちゃんと同期しているから、愛ちゃんがチートすれば、私も強くなっているんだ! ・・・・・・アハッ!」


 本当に復讐を企てた愛ちゃんのうっかりミス。皇女様との同期を解除していればよかったのにね。


「愛ちゃんが、エクスカリバーと天叢雲剣を呼び出せるということは、私にもできるはずだ! いでよ! 私の剣たち!」


 皇女様は、自身の持ち物から剣を装備することにした。


「皇女の剣と、女魔王の剣だー!!!!!!」


 注意。これは皇女様の元々の持ち物であり、愛ちゃんの様に、卑怯なことはしていない。アハッ!


「準備完了! 愛ちゃん! いざ尋常に勝負じゃ!」


 皇女様も二刀流スタイルが完成した。


「危ないから、どいて! どかないと、ミンチにしちゃうぞ! アハッ!」


「ギャアアアアアアー!?」


「アベシ!?」


 愛刀を振り回し、ハンバーグの材料を作っていく皇女様。これはゲームなので、殺人ではない。


「見つけたわよ! 愛ちゃん! ここで決着をつけてあげる! アハッ!」


「ぬかったです!?」


 遂に伝説の剣4本による戦いが行われようとしていた。


「ですが、勝負は愛ちゃんの勝ちです!」


「何を!?」


 タイム・アップ!


 5分の戦闘時間が終わってしまった。


「なっ!? 時間制限があったの!?」


「愛ちゃんは28人倒しました。皇女様は6人だけです。エヘッ!」


「ま、負けた・・・・・・。」


 皇女様は敗北感に包まれる。


「でも、本当に勝ったのは、彼です。」


 なぜか愛ちゃんは、第三のプレイヤーを指さすのであった。


 つづく。


1-1-5


「彼の名前は、ポンタ。」


 ポンタ、キターーーーーー!


「ポン吉、ポン蔵、ポン助、ポンコ、ポン美もアリね。アハッ!」


 名前にポンが付けば、何かポン補正が付きそうである。


「ポンタの実力は、11番目で、マップに現在地が表示されません。ですから、相手の背後から狩りができます。彼が狩った数は9人。」


「10人!? 私より上か!? 私が負けたの!?」


 自分より成績上位の一般人がいて、ビックリの皇女様。


 「愛ちゃん28人。ポンタ9人。皇女様6人を倒し、本人たち3人を足して、46人。生き残ったの者は、私たち3人と2人を足して、5人だけです。」


 これで戦闘の結果が出た。50人5分戦って、生き残れたのは5人だけであった。


「これは仮に、素人のポンコ50位が逃げ回り最後まで生き残れば、46の経験値が手に入ります。弱いから遊べないということはありません。エヘッ!」


「逃げるが勝ちね!? これも駆け引きね。アハッ!」


 あなたは戦うか? それとも逃げるか?


「で、私と皇女様は、スベシャルゲストなので、勝っても何ももらえません。」


「嫌だ! そんなの不公平だ! 私にも何か頂戴! アハッ!」


「・・・・・・。」


 駄々っ子、皇女様。


「もしも、私と皇女様が戦って、どちらかが倒されるか、相打ちで倒れます。すると、伝説の剣がドロップしてしまった場合、それを、もしも、ポンタが拾った場合。ポンタは伝説の剣を1本か2本も手に入れてしまうことになります!?」


「なんという漁夫の利!? 次の対戦から、逃亡者から、蹂躙者に世界が一変しますな!? ウギャアアアアアアー!?」


 恐ろしい、裏ポンの世界。


「古いゲームになると、新規が諦めて入って来ません。ですが、これならドロップを奪えれば、新規でも伝説の剣や、禁呪魔法を手に入れることができます。楽しそうでしょ?」


「そうね。ダメなゲームをやるよりは、可能性はあるわ! メラメラしてきた! アハッ!」


 プロテクトできる装備に制限を3枚くらいにすれば、強いプレイヤーが手に入れた強い装備は、弱者にバラまかれる。流動性の確保である。


「そして、このゲームのラスボスは、大魔王ポンにしましょう。」


「大魔王ポン!?」


 君は勇者になり、大魔王ポンの猛威から世界を救うのだ! アハッ!


「そして裏ポンの最大の目的は・・・・・・評判が良かったら、ポンの世界の戦闘シーンに移設します!」


「ズコー!?」


 ただでは転ばない愛ちゃんであった。これはゲームだから、暴力でも、殺人でもないという理屈である。アハッ!


「これでチュートリアルは、終わりです。エヘッ!」


 つづく。

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