第26話 ……私だって、天宮くんとなら喜んで付き合います
ガタゴトガタゴトガタゴト。
シュレッダーの裁断音が、生徒会室に響き渡っている。
「すみません。天宮くんもお忙しいのに」
「気にしないでください、今日は特に予定もないですし。これくらいしかできませんけど」
「いえ! 手が回っていなかったので、本当に助かります」
海原さんを手伝うと意気込んだものの。一般生徒の俺には、行事運営に関わる権限がない。そのため俺は、生徒会で不要になった書類を、無心でひたすら裁断していた。
その間。海原さんはパソコンを睨みつけながら、目にも止まらなぬ速さで何かを打ち込んでいる。当然ブラインドタッチ。まさに仕事人って感じだ。
「シュレッダー、終わりました」
「ありがとうございます……! 整理が追い付かないので、ずっと困ってて」
「こちらこそ、お役に立てたなら嬉しいです」
海原さんはパタンとパソコンを閉じると、裁断した紙を大きな袋に移し替えていった。紙だけでもかなりの重量感がある。
「他に生徒会の人は来ないんですか?」
「えぇ。書記と会計の1年生は吹部と掛け持ちで、休み中も毎日練習があるし……生徒会長はここ1ヶ月、学校に来ていないので」
「それは、大変ですね」
「1人の方が気も遣わないし、楽なこともありますよ?」
だが海原さんの乾いた笑顔は、とても楽な人には見えない。
生徒会長ってたしか、あの爽やかなイケメンの3年生だよな。生徒会選挙の演説で、女子から黄色い歓声が上がっており、ケッと思ったのを覚えている。なんで不登校になったんだろう。
「どうぞ座ってください。今、飲み物用意しますので」
「ありがとうございます」
「私も少し休憩しますね。天宮さんはコーヒーとカフェラテ、どっちが好みですか?」
海原さんは冷蔵庫から1Lのボトルを取り出し、来賓用っぽい長机に置いた。そして速やかに紙コップをセッティングする。準備が早い。
「じゃあ、コーヒーを頂いてもいいですか?」
「ふふっ。大人ですね」
「からかわないでくださいよ。アイスコーヒーが美味しい季節ですし」
「たしかにそうですね。でも私は苦いものがあまり得意ではないので、カフェラテにしますね」
そう言って、海原さんは俺の正面に座ると、紙コップにアイスコーヒーを注いでくれた。
学校がエアコン代をけちっているので、冷えた飲み物が身体に染みる。
「すごく美味しいです」
「ふふっ、喜んでもらえて何よりです。ところで天宮くん?」
「はい、なんですか?」
「……好きな人って、いますか?」
「──ゲフンッ!」
唐突な質問への動揺でコーヒーが鼻に入り、涙が出そうになる。
こういう類の質問は最近よくされるけど……まさか海原さんにまで聞かれるとは。
「ごめんなさい、急にこんな話」
「い、いえ。大丈夫です」
「純粋に気になってしまって。プールの時も、みんな天宮くんに好意を寄せてるように見えたから」
海原さんは喉を鳴らしながら、カフェラテをゴクリと飲む。意外と豪快な飲みっぷりだ。
「俺とみんなとじゃ釣り合わないでしょ、どう考えても」
「それは天宮くんが決めることではないですよ。……私だって、天宮くんとなら喜んで付き合います」
「──!? からかわないでくださいよ」
「ふふっ、どうでしょうか」
そうして海原さんは、カフェラテを一気に飲み干した。
本気……ではないよな。普段が真面目だから、冗談か否かの判別がつかない。
「そ、それより・他に何か手伝えることはありますか?」
「そうですね──あっ。天宮くんにスポフェスの実行委員長を引き受けてもらえたら、私としてはすごく嬉しいです」
「いや、俺は長って柄ではないですよ」
「私は向いてると思いますけどね? 何事も経験ですよ」
生徒会の副会長にそう言われると、返す言葉がない。
でも人付き合いは得意じゃないし、ましてや組織をまとめるなんて、向いているとは到底思えないけど。
「……少し考えてみます」
「ふふっ、期待してますね」
その海原さんの微笑みは、どこか妖艶な雰囲気を纏っていた。
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