第25話 よかったら、俺も手伝いましょうか?

 月曜日。

 俺は学校の図書室で、未だ手つかずだった宿題を、必死の思いで進めていた。


 いかんせん時間がない。

 土曜日は遊園地のプニキュアショー、日曜日は一人で東京のライブに参戦と、週末はすべてオタ活で埋まってしまった。その資金を稼ぐため、平日はこれでもかとバイトを詰め込んでいるわけで、勉強するいとまなどあるはずがない。

 とはいえ、さすがに俺も危機感を覚え始めたので、今日は朝から図書室で勉強しているのだ。


 夏休み中にもかかわらず、想像よりも校内は賑やかだ。吹部の練習音は絶え間なく聞こえるし、体育館にもバスケ部やバド部の大きな声が響いている。図書室だって俺以外に4、5人は勉強してるし、精力的な生徒が多くて非常に感心だ。


「わからんなぁ……」


 ところで。

 かれこれ1時間ほど机に座っているが、数列がさっぱりわからない。

 うちの学校も精力的な自称進学校なので、宿題にも先取りの内容が容赦なく含まれる。それでも、微分積分まではぎりぎり食らいつけたんだけど……Σって何?


「こんにちは、天宮くん」

「あ、どうも。こんにちは」


 三つに編みこまれた黒髪と、ピシッと皺のない制服。そして、腕に光る生徒会の腕章。

 生徒会副会長の海原さんだ。

 

「隣、失礼していいですか?」

「はいっ。もちろん」


 海原さんが座ったことで、俺も背筋が自然に伸びる。

 けど……真夏のおかげだろうか。最初に会った時よりも、雰囲気がかなり柔らかくなった気がする。


「それ、宿題ですか?」

「あ、はい。数列が全然わからなくて……苦戦してます」

「わかります、難しいですよね。数列の種類を分類するところとか」

「そうなんです……! 公式を覚えるだけじゃ全然対応ができなくて」


 まぁ。難しいとは言いつつ、きっと海原さんならすらすら解いちゃうんだろうな。なんと言っても、学年2位だし。

 ……せっかくだから、ちょっと聞いてみようかな。


「あの、海原さん」

「はい。なんですか?」

「海原さんは普段、どうやって勉強しているんですか?」

「私、ですか」


 海原さんは難しい顔で、2、3秒宙を見上げ、やがてポツリと呟いた。


「……答えを写してます」

「えっ?」

「模範解答を、ノートにそのまま写してます」


 丸写しってこと!?

  始業式の朝、白紙の宿題に答えを写す中村と同じ……?


「す、数学ですよね。解かないんですか?」

「はい。まずは解法の暗記ですね」


 予想外だった。

 学年1位を争うような人は、問題を見るだけで勝手に答えが浮かぶものだとばかり。


「なんか……意外です」

「ふふ。頭の良いやり方ではないですもんね」

「いえ、そんなことは」

「私はあまり、器用な人間ではないんです。才能の無さを恨むことに意味はないけれど……やっぱり、悩んでしまいます。1位の方を見ていると、特に」


 海原さんの表情が、曇ったような気がした。

 学年2位を取る人でも、いろいろ考えるんだな。俺なんかよりずっと優秀な人だけど、少しだけ親近感がわいた。


「ごめんなさい。暗い話ばかりで」

「そんなことないです! 勉強法、すごく参考になりました」

「ふふっ、ならよかった。それでは、私は生徒会の仕事に戻りますね」

「夏休み中もですか……!?」

「えぇ。2学期はすぐにスポーツフェスティバルがあるし、他にも行事が多いから。今から準備をしないと間に合わないの」

「大変ですね……」


 そういえば最近、生徒会長が不登校になったらしい。副会長に負担が集中しているという噂も聞いたことがある。忙しさはかなりのものだろう……。 

 鞄に荷物をまとめ、立ち上がる海原さんに、俺は声をかけた。


「よかったら、俺も手伝いましょうか?」

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