第22話 最高のオタ活は、最善の準備によって実現するのです!

 最寄駅からバスに揺られること1時間弱。クリーンランドのチケット売り場には、長蛇の列ができていた。

 遊園地を楽しむ一般のファミリーだけでなく、なりきり衣装を着た小さなプニキュアや、遠征と思われる屈強なオタクなど、同士の姿もチラホラと──さすがは大人気コンテンツだ。早く俺も真夏と合流しよう。


「おっ待たせ~天宮!」

「うわっ……お、おつかれ」

「も~。そんなに驚かなくてもいいじゃ~ん」


 いきなり肩を叩かれ、俺はビクッと振り返る。

 そこには、桃色のフリルに彩られたロリータっぽい装いで、ニヤニヤと俺を見る涼川真夏が。


「待った?」

「いや、今来たとこ」

「よろしい!」

 

 ……今日はやけにテンションが高いな。別に気遣いでも何でもなく、本当に今来たとこなのだけど。

 服装もかなり気合が入ってるし、オタクモード全開フルスロットルって感じだ。


「天宮の私服、だいぶ良くなったね」

「あ、うん。ありがとう」


 全身黒のスタイルで映画に臨んだ前回。さすがにまずいと反省し、俺は後日、無地の洋服を3着ほど購入した。

 ネットで調べたところ、初心者は変におしゃれを意識するより、シンプルな組み合わせの方がうまく行くらしい。付け焼き刃だけど、多少は改善されたみたいで一安心だ。


「真夏さんのお洋服も、すごい似合ってるね」

「へー。天宮も女の子の服褒めたりできるんだ」

「は、はい。できるはずです…」

「も~冗談だって。そんな悲しそうな顔しないでよ。ちょっとプニキュアも意識してみたんだ」

「あ、言われてみれば」


 真夏が纏うピンクのロリ服は、フリルたっぷりのスカートが大きく膨らんでいて、まさに女の子の憧れって感じ。顔が整っているからこそ、豪華な装いにも浮いた雰囲気はなく、本当にアニメの世界から飛び出してきたみたいだ。


「というか、早く列に並ばないと」

「チケットはもう買ってあります! じゃーん」


 向けられたスマホ画面には、『前売り券2名分』が表示されている。真夏はふふーんと得意顔。


「どうしたのこれ!?」

「昨日のうちにネットで購入したんだー。前売りだと100円安いしね」

「仕事が早いな……」

「ふっふっふーん。最高のオタ活は、最善の準備によって実現するのです! あっ、後でお金貰うね」

「うん、いろいろありがとう」

「おっけー、それじゃさっそくレッツゴー」


 そうして真夏はずんずんゲートに向かう。

 その背中が、とても頼もしかった。



「へぇー。今のプニキュアショーって、物販もあるんだね」


 屋外に設置された特設のステージ。

 その横にある、出店のようなスペースには、大小様々なプニキュアのグッズが並べられていた。


「オタクの英才教育って感じだな」

「だねー。こうやって、私たちの仲間が育っていくのか」


 真夏はしみじみと呟きながら、上から吊るされた、妖精のぬいぐるみを手に取る。


「こういうの、子どもができたら買ってあげたいなぁ」

「子ども、か」


 ずっと遠い未来のようで、そうでもない。

 俺も今年で17歳。来年はもう成人だし、5年もすればきっと社会に出るのだろう。俺が子どもとして過ごせる時間は、あまり残されてはいない。

 社会に支えられる側から、社会を支える側へ。近いうちに訪れるその未来が時々、すごく不安になる。


「……あの、天宮?」

「は、はい」

「別に変な意味じゃないからね?」


 真夏は訝し気に、眉間にしわを寄せている。 

 ……なんのことだ?


「変な意味って?」

「えっ!? あ、いや、違うなら別に……良いんだけど」

「何が……?」

「だって! 急に天宮が黙るから。私との子どもがとか、そういう……」

「──!? 違う違う違う!」


 俺が急に思索を始めるから、変な勘違いをさせてしまったらしい。

 焦りで全身から冷汗が噴き出てくる。


「そ、そうだよね!」

「そそそ、そうだよ!」

「だよねー、あははー」

「はははー」

 

 それから10分くらい。

 俺たちは互いに目を見ることができなかった。

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