第20話 あたし以外の女は、全部削除しましゅ♡
各々が100円ずつを投入し、バチバチに化粧がキマった女性の暖簾をくぐる。
──中に入るのは初めてだ。それなりにスペースはあるものの、さすがに5人だとぎゅうぎゅうになる。隣の真夏と手が触れかけたので、慌てて俺は身体を縮こませ、腕を前で組んだ。
「……やっぱり……一列だと……狭い」
「ですね~。あたしとたっくん以外、外で待ってもらっていいですか?」
「は、はいっ。わかりました」
「出ようとしないで瑠奈ちゃん! とりあえず前列2人、後列3人にしよっか」
「……それ……良い」
混雑緩和のため、女性陣が話し合いを行っている。たしかに2列なら、写真にも綺麗に収まりそう。
「じゃ、あたしはたっくんの隣にしま~しゅ」
右腕に絡もうとするいのりを、俺はヌルリと躱した。……こいつだけ話し合いを放棄してるな。平和的解決への意志を感じない。
「瑠奈ちゃんは私と前に座ろっ」
「はい、わかりました」
真夏は海原さんの手を取って前側にしゃがみこむ。そして顔だけくるっとこちらに向けた。
「3人は後ろ側ね」
「……わかった」
「天宮もそれで良いかな?」
「──!? お、おう」
急に目配せとかやめて……心臓が止まるかと思った。
「ふ~ん、そうでしゅか」
いのりは訝し気に、真夏と俺を交互に見比べた。
そんな目をされても、俺だって真夏との距離感を測りかねている。逆に教えて欲しい。
「……お姉ちゃんは………それで……いいの?」
「うん。今日は瑠奈ちゃんと楽しむ日だからね!」
「あんまり近づかれると──は、恥ずかしいです」
「ふふっ、ごめんね」
「……そっか」
そうして、深冬は遠慮がちに俺の隣に立つ。
その様子には、少し違和感を覚えたけど──それを考える暇は、俺にはなかった。
♪まずは小顔ポーズー♪
プリ機から流れる甘ったるい女性の声。
俺の苦行が、始まった。
※
「いやー、楽しかったねー」
「とっても貴重な体験でした……!」
落書きタイムを無事に終え、出てきたシールを真夏と海原さんが切り分ける。そして仲睦まじい2人の横で、いのりと深冬は火花を散らしていた。
「深冬先輩はたっくんに近すぎです。ちょっとは立場を弁えてください」
「……それは……こっちの……セリフ」
「あたしは良いんですよ~、実質彼女ですから」
「息を吸うようにデタラメを言うな」
いのりの彼女面はさておき、とても苦しい時間だった。
俺の指ハートとか、あっかんベーとか、頬を伸ばされた顔とか。どこに需要があるんだよ??? あれはキラキラした顔整いがやることでかろうじて見られるのであり、陰キャのそれはただの地獄絵図だ。
「後でみんなにデータ送るね。瑠奈ちゃんはインスタしてる?」
「いえ。LINEならやってます」
「追加してもいいかな?」
「はい……! もちろんです」
「ありがとー。じゃあちょっと借りるね」
真夏は海原さんのスマホを慣れた手つきで操作する。
いいなぁ、友だちって。俺の周りはいつもギスギスしてるから、心が癒される。
「ほら、天宮も」
「えっ?」
「LINE、追加して良いよね?」
「あぁ、うん」
流れのままにスマホを委ねると、真夏はすぐにQRコードを呼び出し、10秒もしない内に読み取った。
「はい。これで友だちだね」
「う、うん」
LINEの友だち欄に加わる涼川真夏の文字。さっそくアイコンが今日のプリクラになっている。仕事が早い。
「た~っくん?」
「な、なに」
「あたしにもスマホ渡してくださ~いっ」
「いや、いのりは俺のLINEは持ってるだろ」
「はい! なのであたし以外の女は全部削除しましゅ♡」
「怖い怖い怖い」
何その激重彼女ブーム。ついでに母親のLINEまで消されるやつじゃん。そもそも交際もしてないし。
「……自称彼女……必死すぎ」
「深冬先輩うるさいです♡」
まぁ、相変わらず空気はギスギスしてるけど。
俺のリアルがちょっとだけ充実した気がして、なんだか嬉しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます