第19話 みんなでプリクラ撮ろっ

 ファミレスを出て左に曲がると、すぐにエスカレーターが現れる。そこで俺たちは一列に並び、下への流れに身を任せていた。

 不思議なもので、他に乗っている人がいなくても、なぜか右側は開けちゃうんだよね。


「皆さん、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」

「あれ。海原先輩、もう帰っちゃうんですか?」

「はい。午後は学校に戻って、生徒会の残務整理をしようと思います」

「……副会長……忙しい」


 エスカレーターに乗りながら、いのりと深冬は海原さんとの別れを惜しんでいる。みんな仲が深まったようで何よりだ。

 それにしても、生徒会は夏休み中も仕事なのか……俺たち一般生徒は頭が上がらない。いつもありがとうございます


「ねぇ、瑠奈ちゃん」


 一階に着くと、先頭にいた真夏がクルッとこちらを振り返る。


「はいっ、なんでしょう」

「もう少しだけ時間貰えないかな?」

「え、えぇ。構いませんが」

「やった!」

「……お姉ちゃん……何かしたいこと……あるの?」

「うん! みんなでプリクラ撮ろっ」



「地下にこんな施設があったんですね……!」


 まるで秘密基地を発見した小学生みたいに、海原さんが目を輝かせている。地下一階に広がる、大きなゲームセンターだ。

 たしかにゲーセンって興奮するよね。大きな音や光に判断力が鈍らされ、普段は数十円をけちる俺が、百円玉を惜しげもなく投入してしまう。本当に不思議だ。


「瑠奈ちゃんは学校帰りに寄り道とかしないの?」

「普段は遅くまで生徒会があるので、中々難しくて……」

「あ、そうだよね。というか今日も忙しいのに、無理言ってごめんね」

「そんなことないです! こういう場所は初めてなので、すごくワクワクしてます……!」

「ふふっ、よかった」


 なんだか姉妹みたいで微笑ましい。

 俺も放課後フラッと立ち寄って、太鼓を叩いたりはするが、もちろんプリクラは初めてだ。そもそもあそこに集まる人間は皆キラキラしているので、あまり近づきたくはない。


「そういえばたっくん」

「ん?」

「今朝の猿はどこに行ったんでしゅか?」

「猿? ……あっ」


 中村のことか。

 完全に存在を忘れてた。


「さ、先に帰ったみたいだよ」

「あ~、そうなんでしゅか」


 別にいのりも大して興味はなかったらしい。俺も興味はないけど、まだジムにいるのかな……?

 とりあえず今日のことは、中村には黙っておこう。一連の流れを説明したら、グダグダ文句を言われることは間違いない。


「見て天宮、あのガシャポン!」

「おお……!」


 今月発売の、プニキュア第四弾のラバーストラップ。もう出てたのか。

 夏祭りイメージの新規イラストで、プニクローバーのひまわり柄の浴衣がとっっっても可愛い! 絶対に欲しい!!!。


「一回300円で全8種だから。コンプには最低2400円か」

「そうね。とりあえず5000円札を崩して──」

「……2人とも……今日はプリクラが……先」

「「あっ」」


 深冬といのりが、じとーっと真夏と俺を見ている。

 いかんいかん。嫁を前にしてつい我を忘れてしまった。後でゆっくり全員をお迎えしよう

 

「これがプニキュア、ですか」


 そう呟きながら、海原さんもしげしげとガシャを眺めている。……もしやまた、校則違反を疑われてる?


「──天宮さん」

「は、はいっ」

「先日は……ごめんなさい」


 海原さんは突然俺に正対し、深々と頭を下げた。

 えっ、どういうこと?


「天宮さんの好きなものを、私は何も知らずに、否定してしまいました。許されないことだったと思います」

「で、でもあれは。校則を破った俺が悪くて」

「校則違反に関係なく、個人の趣味嗜好は尊重すべきだったと思います。天宮さんにも、それにプニキュアにも、大変失礼なことをしてしまいました。本当にごめんなさい」

「ちょっ、海原さん! 頭を上げて」


 そう謝られても、俺もどんな顔をしていいかわからない。

 元はと言えば俺が廊下を走ったのが悪いわけで。


「……すごいね、瑠奈ちゃんは」


 そんな海原さんを見て、真夏はしみじみと呟いた。


「すごい、でしょうか?」

「うん。自分の正しさを追求できる瑠奈ちゃんは、本当にかっこいい」

「う、嬉しいです」


 照れくさそうに顔を伏せる海原さんに、真夏は小さく微笑む。

 なんだか見てるこっちまで温かい気持ちになるな。


「そんなことより~、早くプリクラ行きましょうよ~」

「……私も……ぷりくら……初めて」

「だね! いこっ、瑠奈ちゃん」

「はい!」


 そんな女性たちの後を追いながら、俺は叩きなれた太鼓を横目に、陽キャの巣窟へと向かうのだった。

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