第19話 みんなでプリクラ撮ろっ
ファミレスを出て左に曲がると、すぐにエスカレーターが現れる。そこで俺たちは一列に並び、下への流れに身を任せていた。
不思議なもので、他に乗っている人がいなくても、なぜか右側は開けちゃうんだよね。
「皆さん、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
「あれ。海原先輩、もう帰っちゃうんですか?」
「はい。午後は学校に戻って、生徒会の残務整理をしようと思います」
「……副会長……忙しい」
エスカレーターに乗りながら、いのりと深冬は海原さんとの別れを惜しんでいる。みんな仲が深まったようで何よりだ。
それにしても、生徒会は夏休み中も仕事なのか……俺たち一般生徒は頭が上がらない。いつもありがとうございます
「ねぇ、瑠奈ちゃん」
一階に着くと、先頭にいた真夏がクルッとこちらを振り返る。
「はいっ、なんでしょう」
「もう少しだけ時間貰えないかな?」
「え、えぇ。構いませんが」
「やった!」
「……お姉ちゃん……何かしたいこと……あるの?」
「うん! みんなでプリクラ撮ろっ」
※
「地下にこんな施設があったんですね……!」
まるで秘密基地を発見した小学生みたいに、海原さんが目を輝かせている。地下一階に広がる、大きなゲームセンターだ。
たしかにゲーセンって興奮するよね。大きな音や光に判断力が鈍らされ、普段は数十円をけちる俺が、百円玉を惜しげもなく投入してしまう。本当に不思議だ。
「瑠奈ちゃんは学校帰りに寄り道とかしないの?」
「普段は遅くまで生徒会があるので、中々難しくて……」
「あ、そうだよね。というか今日も忙しいのに、無理言ってごめんね」
「そんなことないです! こういう場所は初めてなので、すごくワクワクしてます……!」
「ふふっ、よかった」
なんだか姉妹みたいで微笑ましい。
俺も放課後フラッと立ち寄って、太鼓を叩いたりはするが、もちろんプリクラは初めてだ。そもそもあそこに集まる人間は皆キラキラしているので、あまり近づきたくはない。
「そういえばたっくん」
「ん?」
「今朝の猿はどこに行ったんでしゅか?」
「猿? ……あっ」
中村のことか。
完全に存在を忘れてた。
「さ、先に帰ったみたいだよ」
「あ~、そうなんでしゅか」
別にいのりも大して興味はなかったらしい。俺も興味はないけど、まだジムにいるのかな……?
とりあえず今日のことは、中村には黙っておこう。一連の流れを説明したら、グダグダ文句を言われることは間違いない。
「見て天宮、あのガシャポン!」
「おお……!」
今月発売の、プニキュア第四弾のラバーストラップ。もう出てたのか。
夏祭りイメージの新規イラストで、プニクローバーのひまわり柄の浴衣がとっっっても可愛い! 絶対に欲しい!!!。
「一回300円で全8種だから。コンプには最低2400円か」
「そうね。とりあえず5000円札を崩して──」
「……2人とも……今日はプリクラが……先」
「「あっ」」
深冬といのりが、じとーっと真夏と俺を見ている。
いかんいかん。嫁を前にしてつい我を忘れてしまった。後でゆっくり全員をお迎えしよう
「これがプニキュア、ですか」
そう呟きながら、海原さんもしげしげとガシャを眺めている。……もしやまた、校則違反を疑われてる?
「──天宮さん」
「は、はいっ」
「先日は……ごめんなさい」
海原さんは突然俺に正対し、深々と頭を下げた。
えっ、どういうこと?
「天宮さんの好きなものを、私は何も知らずに、否定してしまいました。許されないことだったと思います」
「で、でもあれは。校則を破った俺が悪くて」
「校則違反に関係なく、個人の趣味嗜好は尊重すべきだったと思います。天宮さんにも、それにプニキュアにも、大変失礼なことをしてしまいました。本当にごめんなさい」
「ちょっ、海原さん! 頭を上げて」
そう謝られても、俺もどんな顔をしていいかわからない。
元はと言えば俺が廊下を走ったのが悪いわけで。
「……すごいね、瑠奈ちゃんは」
そんな海原さんを見て、真夏はしみじみと呟いた。
「すごい、でしょうか?」
「うん。自分の正しさを追求できる瑠奈ちゃんは、本当にかっこいい」
「う、嬉しいです」
照れくさそうに顔を伏せる海原さんに、真夏は小さく微笑む。
なんだか見てるこっちまで温かい気持ちになるな。
「そんなことより~、早くプリクラ行きましょうよ~」
「……私も……ぷりくら……初めて」
「だね! いこっ、瑠奈ちゃん」
「はい!」
そんな女性たちの後を追いながら、俺は叩きなれた太鼓を横目に、陽キャの巣窟へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます