第16話 ハーレムを金で買いたくなる日もあるよな

 俺がプールサイドに出た途端、テテっと歩み寄ってきた涼川深冬。学校指定っぽいスク水だけど、うちの高校に水泳の授業はないので、たぶん中学時代のものだろう。

 そして後ろには、上下に別れた橙色の水着を纏う、涼川真夏も──。


「あの、どうして2人が?」

「……お姉ちゃんと……プールに来たら……星波が……いた」


 深冬は無表情にコクっと首を傾げる。その陰に隠れた真夏は、俺と目が合うと、小さく会釈をしてすぐに顔を背けた。……やっぱり俺、嫌われたのかな。

 突然現れた双子の美人姉妹に、周囲の人々はチラチラとこちらを見ている。


「……星波は……その人と……2人?」

「えっ、いや、2人じゃなくて──」

「深冬さん! 俺のこともぜひ、名前で呼んでください!」

「……あなた……誰」

 

 その提案は華麗にスルーをされる。一応クラスメイトだが、深冬の記憶に中村の存在はないらしい。

 そしてよく考えてみたら、中村の下の名前は俺も知らない。


「……お姉ちゃんも……星波に水着……見てもらお」

「わ、私は別に──キャッ!」


 渋る真夏の身体を、深冬は強引に、俺たちの前に押しだした。

 真夏の水着は布面積が少なく、そのへそと胸の谷間に、俺の目はどうやっても吸い寄せられてしまう。もちろん中村の目はギンギンだ。


「……何か言いなさいよ」


 真夏は顔を赤らめながら、俺を睨み付けている。そう言われても……。


「に、似合ってます」

「変態」


 真夏はプイッと後ろを向き、そのままプールに飛び込んでしまった。俺の目線、バレバレだったかな……。


「……お姉ちゃん……水着決めるのに……2時間かけてた」

「そうなの?」

「……うん……夏休み……星那と海……行きたいって」


 ほんとかな……?

 最近の真夏には、明らかに距離を置かれてたし。にわかには信じ難い。


「おっ待たせしました~、た~っくん♡」


 ピンクのワンピース型の水着を着たいのりは、更衣室から上機嫌にピョンっと現れる。

 だが涼川姉妹の存在に気がくと、その表情は即座に曇った。


「──はっ? なんでたっくんが、胸でかビッチたちと一緒にいるんでしゅか!?」

「……あっ……久しぶり……脈無しの人」


 深冬が馬鹿にしたように鼻で笑うと、いのりの眉間にはさらに皺が寄った。両者の間にバチバチと火花が散る。

 ただでさえ注目されるのに、修羅場はどうか勘弁──いや、待て。こういう時のために、俺は中村を呼んだんんじゃないか。


「頼む中村、なんとかしてくれ」

「──すまなかった」


 だがなぜか。

 中村は俺を助けるでもなく、頭を深く下げている。


「すまなかったって、何が?」

「言わなくてもわかるさ。あぁ、わかるとも」

「だから何がだよ」

「お前は俺に、見栄を張りたかったんだよな」

「……は?」

「独り身は惨めだもんな。ハーレムを金で買いたくなる日もあるよな」


 中村は何か、大きな勘違いをしているらしい。

 なぜ金を払ってまで、俺が修羅場に巻き込まれにゃいかんのか。


「大丈夫。俺も彼女をレンタルしようとしたことはあるし、何も恥ずかしいことじゃない」 

「いやレンタル彼女はしてないし──」

「もういいんだ天宮、何も言わなくていい。俺には、全部わかるから」


 中村が一人で勝手にうんうんと頷いている。

 彼は一体何がわかったのだろう。

 

「ごめんな。天宮に延長料金払わせるわけ行かないし、俺は上のジムでトレーニングして待ってるわ」

「は、はぁ」

「時間が来たら呼んでくれ、じゃあな」

「ちょっ……!」


 中村はくるっと更衣室の方に踵を返した。

 結局何も助けてはくれず、謎の誤解をされただけ──いつもはダルいぐらい絡んでくるのに、なぜなのか。


「たっくん♡ あたしの水着、どうでしゅか~?」

「……一緒に泳ご……星波」


 じりっ、じりっと、距離を詰める2人。

 その圧から逃げるように、俺もまた、プールに飛び込んだ。

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