第15話 いのりさんの水着は熱いだろ!!!

 木曜日の午前9時。

 俺が歩いて市民プールにやって来ると、入り口の前で、男女の愉快なやり取りが行われていた。


「ぷぷっ、あたしと付き合いたいんですか~?」

「はい! いのりさんを一目見た時から、これはもう運命だと思って──」

「お家に鏡はありますか?」

「か、鏡ですか?」

「いや~。その顔を見て、よくあたしに告白できたな~って。

「お、おさ……」


 公共の場でナンパをする中村と、それを完膚なきまでに罵倒するいのり。

 ……さすがにいのりは容赦がないな。フリルのついた紫色の日傘も相まって、悪役令嬢感がすごい。あの鋼メンタルの中村の目が死んでいる。


「あ、たっくん! おはようございま~しゅ♡」

「おはよう、いのり」

「たっくんが誘ったのって、このお猿さんでしゅか?」

「お猿……まあ、そうかな」


 日頃の中村の行動を鑑みると、あながち間違いとも言い切れない。猿に近しい面は多分にある。

 そして中村を呼んだのは俺だ。いのりと2人きりは怖いし、女子と遊ぶ時は誘えって言われたもんね。昨日電話をしたら即決でOKをもらったが、バスケ部の練習をどうしたのかは知らない。


「(おい、天宮)」

「(なんだよ)」


 中村は俺の肩を組み、耳元に話しかける。


「(おかしいだろ、振られたのだが)」

「(おかしいのはお前だ。なぜ初対面ですぐに告白する? せめて今日の帰りだろ)」

「(だって……顔がタイプだったし)」


 こいつの場合、ほぼ全ての女性の顔がタイプだ。

 ある意味紳士かもしれないが、いのりが最も嫌いなタイプなのも間違いない。


「何をコソコソ喋ってるんでしゅか♡」

「い、いのり。いや、その」

「たっくんがこ~んなお猿さんを飼っていたのはショックでしゅけど~、メスじゃないので特別に許しましゅ♡」

「あ、ありがと」

「日焼けしたくないし、早く入りましょっ」


 いのりは傘をたたみ、スタスタと建物の中に入っていく。


「(なあ、天宮。俺って猿なのか?)」

「(そうらしいな)」

「(まじか……)」

「あっ、そうだ!」


 だが突然、いのりはくるりと振り返った。

 水色のワンピースがふわりと風に揺れる。


「お着換え、覗かないでくだしゃいね♡」

「誰が覗くか」

「も、もも、もちろんでしゅ!」


 ……こっちのオス猿は怪しいな


 

 近所の小中学校も夏休みらしく、平日の割に更衣室はかなり混み合っていた。

 俺はかろうじて空いていた一番下のロッカーを使用する。


「いやー、楽しみだなー」

「あれ、中村ってそんなに水泳好きだっけ?」

「水泳も嫌いじゃねーけど、それより! いのりさんの水着は熱いだろ!!!」

「うん、通報しとくわ」


 この猿を市民のプールに放つのは、公益に反する気がしてきた。

 とはいえ、あの振られ方をされて未だこのメンタルなのは立派だ。

 

「俺、中学は水泳部だしさ」

「へぇ、初耳。なんでバスケ部に入ったの?」

「ほら、うちの高校って水泳の授業がないじゃん?」

「あー、そうだな」

「ならバスケが上手い方が、体育祭とかでモテるかなって」


 本当に女子受けだけで部活選んだのかよ……。

 だがそのメンタルでバスケを始め、強豪校のレギュラー取ってしまうのは、とんでもない努力と才能だ。認めるのは悔しいけど。


「よーし、天宮も着替えたな」

「お、おう」

「それじゃさっそく、水着のお姉さんたちを見に行こー!!!」

「うん。とりあえず口を閉じようか」


 俺まで性欲に溺れた猿だと誤解されたら溜まったものじゃない。

 少し中村と距離を取りつつ、俺がプールサイドに出た、その時だった。


「……あっ……星波……来た」

「えっ?」


 ──スクール水着の涼川深冬が、なぜか俺を待っていた。

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