第6話
いつの間にか俺と西宮は友達になっていた。
交流関係がなさすぎて知らなかったけど、友達ってのは知らない内になっているものらしい。何をして、どれくらいの関係になったらそう呼べるのか。そんなことはいちいち気にしないようだ。
ということで俺と西宮は友達だ。
しかし、だからといって学校にいる間、四六時中一緒にいる訳じゃない。休み時間になれば相変わらず俺は席に座って過ごしているし、西宮はクラスの男子達と談笑している。
俺には友達と呼べる相手が西宮しかいないが西宮にとってはそうじゃない。男子女子の両方に友達と呼べる相手がたくさんいる。俺はその中の一人でしかない。
だから、友達が出来たといっても俺の学校生活に大きな変化が生じたりはしないのだ。
そんな俺は今日も今日とて一人で過ごしていた。
ふーん、なるほど。こうくるか。へーへー。ほおー。読んでいたラノベの衝撃的な展開に驚きを隠せない。一旦、ページを閉じて落ち着こう。ふぅ。いやあ、それにしても驚いた。びっくりだ。
今読んだ内容を目を閉じて思い返していると肩を叩かれた。目を開ければ西宮が俺の顔を覗き込むようにしている。
「どうしたんだ?」
「それは、こっちのセリフだよ。東野くんが真剣な顔してたからどうしたのかなって」
「それだけでわざわざ来てくれたのか。優しいな、西宮は」
さっきまで男子達と談笑していたはずなのに。自分の楽しいを犠牲にして俺の元へ来てくれるなんて西宮はなんて優しいんだろう。俺だって西宮が困ってたら必ず助けに行くからな。
「優しくなんてないよ。東野くんと話す口実が欲しかっただけだもん」
「それじゃ、西宮は悪だ」
「ええっ!?」
「うそうそ。冗談だよ。俺からすれば西宮は優しいからそんな風に思うわけねえだろ」
「き、嫌われたかと思って本気で怖くなったんだからね!」
「わ、悪い……友達の西宮と軽口を叩きたたくて」
「と、友達……も、もう。それじゃあ、しょうがないなあ」
チョロい。西宮も本気で怒っていた訳ではないだろうがあまりにも許すのが早すぎてチョロい。しかも、なんか嬉しそうだし。口が笑ってるんだよな。
「あ、そ、それで、東野くんは何ともないの?」
「これ読んで驚いてただけだから無事……とまでは言い切れないな。何ていうか、こう言葉では表せない気持ちになってる」
「あ、ラノベ?」
「そう……って、知ってるのか?」
「うん。お兄ちゃんがよく読んでるから。ボクはあんまり読まないから内容までは詳しくないけどね。それで、東野くんがそこまで驚く内容ってどんななの?」
「長い時間を過ごしてようやく結ばれた主人公とヒロインがいるんだけど、主人公がヒロインのことを大事にしすぎてキス以上のことは高校を卒業するまでしないとか言ってたんだよ。ヒロインも誘ったりするんだけど、大事にされてるんだって受け入れてまあ幸せに過ごしていくんだと思ってたらヒロインが寝取られた」
「……え。え?」
「驚くよな」
黙って俺の話を聞いてくれていた西宮もあまりの急展開に驚いたのか聞き返してくる。
「その、寝取った相手っていうのはずっと登場してた誰か、なの?」
「ずっとってほどじゃないんだけど、少し前からやたらと登場してきた新キャラだ。てっきり、付き合ってからはずっとイチャイチャしてるだけでつまらなかったから、展開を動かすためのキャラだと思ってたのにまさか寝取りキャラだったとは……オタクとしてまだまだレベルが低いと気付かされた」
「このキャラがヒロイン寝取ります、なんてなかなか気付けるものじゃないよ。ボクだってマンガはよく読むけど新キャラが出てもそんなこと微塵も思わないもん」
「西宮は優しいな……心が癒される」
「東野くんはヒロインが好きだったんだね……だから、寝取られる展開に傷付いて」
「いや、好きではなかった。というか、主人公が苦手だったな。言動も性格も俺は好きになれなくて。ヒロインがせっかく勇気出して誘っても断るし。だから、主人公が不幸になるのはいいんだよ。ただ、何ていうかあ、そうなるんだあ、っていうか……あー言葉が出ねえ」
上手く説明したいのに自分でも自分の気持ちがどういうものなのか整理がつかない。頭を抱えていると頭の上に西宮が手を置いた。そのまま優しい手付きであやすように撫でられる。
「……え、に、西宮?」
「あ、ご、ごめんね」
戸惑いながら声を掛ければ西宮は慌てて手を引っ込めた。
「つい、いつもの癖で……撫でられるなんて嫌だったよね」
「嫌というか驚いたというか……」
「おばあちゃんの家で猫を飼ってるんだけど、遊びに行った時はいつも撫でてるからその癖が出ちゃって……」
「そ、そっか。その、何ていうか、びっくりして逆に落ち着けたからありがと」
「ひ、東野くんが落ち着けたならよかった。うん」
照れくさいのか西宮は頬を赤らめながら居心地悪そうに体を揺らしている。長い腕を伸ばしてスカートの前で組んだ手は指が動いていた。
恥ずかしいのはこっちなんだが。
高二にもなれば親から頭を撫でられたりすることもない。というか、最後に頭を撫でられたのなんて何年も昔のことだ。だからなのか。恥ずかしいと共に無性に気持ち良くて安心出来たのは。
「あ。ていうか、ごめんな。西宮相手に寝取られたとか話して。女の子相手にべらべら話していい内容じゃなかった」
「ボクから聞き出したんだし気にしないで。……あの、一つ東野くんに質問してもいいかな?」
「何でも聞いてくれていいぞ」
「じゃ、じゃあね。その、東野くんはそのラノベの主人公みたいに彼女から誘われたらする? それとも、しない?」
「それって、そういうことを、だよな?」
「そ、そうなるね」
「女の子相手に答えていい内容なんだろうか」
「ボクから聞いてるから気にしないで」
西宮が物凄く真剣な目で見てくる。そんなにも俺の行動が気になるものなんだろうか。不思議だ。しかし、西宮が気になってるならちゃんと考えよう。
「彼女とかいたことないから分かんないけど、たぶん、する」
「そ、そうなんだ」
「……引いたりしてないか?」
「してないよ」
「一応、補足しておくとそういうことをしたいから付き合うんじゃないぞ。まあ、多少は存在するだろうけど。好きな人とはしたいって思うだろうし……ってのは置いといてだな。思うんだよ。本気で好きな相手を大事にしたいってのは立派だって。でも、性欲ってのは誰にだってあるもんだからさ、節度を持ってちゃんと話し合っていけばいいんじゃないかって。まあ、この作品はそれをして寝取られてるんだけどな」
彼女と付き合うのは体目当てと西宮に思われたくなくて早口でそれっぽい理屈らしきものを並べる。オタク特有の気持ち悪さを曝け出してしまっていると自覚したらなんだか消えたくなってきた。
「なんか、よく分からん感じになったけど、気に召したか?」
「うん。東野くんのこと知れたから」
「そうか……なんか、女の子とこういう話とかしたことないから無性に恥ずかしいな」
居た堪れなくなって頬をかいてしまう。
「ボクも恥ずかしくなってきたよ」
「今になって? 西宮から聞いてきたんだぞ」
「そういう意味でじゃないよ……言っておくけど、無自覚なのは罪なんだからね」
「どういう意味だ?」
指を向けてくる西宮に俺は首を傾げた。
やっぱり、女の子相手に下ネタ系の話はし過ぎない方が良かったのだろうか。みんなは気を付けてくれ。
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