第5話

 朝、いつもより早く家を出た俺は通学路の途中にあるコンビニに寄っていた。ネットで見掛けた今日が発売日のクリームたっぷりコッペパンがどうしても食べたくなったのだ。

 パンが陳列されてある場所の前に向かい、物色。

 お。あったあった。これだ。

 パッケージに堂々とクリーム量過去一、と書かれたパンを手に取る。見るからに甘そうなので、横にあったホットドッグも一緒に手に取った。甘い物だけじゃ飽きるし気持ちも悪くなるからな。

 そうして、会計を済ませて店を出る。無事に買えたことの喜びから自然と笑みが溢れた。さてと、学校に向かいますか。


 るんるん気分で歩き出し、コンビニの敷地内から通学路に戻った時だ。大きなあくびをしていた西宮とばったり遭遇した。

 西宮は俺の姿を捉えた後、目を大きくさせる。

 それから、頬を薄っすらと赤らめながら目線を忙しなく動かすこと数回。あっちを見たり、こっちを見たりしてようやく目が合った。


「お、おはよ、東野くん……恥ずかしいところ、見られちゃった」

「おはよう、西宮。朝は眠たいもんだしあくびが出るのも自然なことだ。俺だって気を抜けば……出ない」

「い、いいよ。無理してあくび出そうとしなくて」

「くっ……西宮だけに恥ずかしい思いをさせないようにしたかったんだけどな」

「その気持ちだけで嬉しいから」

「そうか」


 悔しがる俺を西宮が励ましてくれる。さっきまで俺が西宮のあくびを見てしまったせいで恥ずかしくなっていただろうに優しい奴だ。


「あの、よかったら一緒に学校まで行ってもいい、かな?」

「断る理由なんてないぞ」


 遠慮がちに聞いてきた西宮に答えたものの、女子と通学というイベントに俺の内心はドキドキ。


「う、うん。じゃあ、一緒に行こ……えへへ、嬉しいな」


 小さく呟いた西宮の声を拾った俺はさらにドキドキが増す。大して面白いことも言えやしない俺を相手にこんなに喜んでくれるんだ。どうしてかは知らないけど、喜ばれて緊張しない男なんている? いねえよなあ! せめて、西宮がつまらないと感じないようにしないと。

 そう思うものの普段から女子と話さない俺には女の子がされたら嬉しい話題を振ることが出来ない。一緒に歩いてるってのに会話なしじゃ流石にまずいだろ。

 西宮の方を見る。すると、西宮も俺の方を向いていて目が合った。すぐに急いで目を逸らされる。うっ。これは、あかんやつや。既に飽きられてる。


「西宮っていつもこの時間に行ってるのか?」


 飽きさせるよりはマシだと思ってどうでもいい内容を振ってみる。一応、質問だし西宮も無言よりは飽きないでいてくれるはずだ。


「うん、ボクはこの時間だよ。だから、いつもは会わない東野くんに会ってビックリしちゃった」

「今日は特別だ。普段はもうちょっと遅い時間に歩いてる」

「特別って何かあったの?」

「これ。これを買いたくて早く家を出た」


 コッペパンを見せながら説明する。


「うわ、すっごく甘そう。東野くんって甘い物が好きなの?」

「甘い物とか辛い物が特別好きってことはないな。ネットで見掛けたからどれだけ甘いのか気になって買っただけのただのミーハーなんだ俺は」

「自分のことをそこまで言わなくても……それに、この謳い文句だもん。ボクだってクリーム量過去一とか書かれてたらどれだけ甘いんだろうって気になっちゃうよ」


 西宮は興味深そうにコッペパンを見ている。


「昼休み、感想聞きに行ってもいい?」

「それは、もちろん」

「やった。ふふっ。どれだけ甘いのか楽しみだね」

「甘過ぎて死んでたら骨は拾ってくれ」

「任せといて」


 グッと親指を立てる西宮。これほどまでに頼もしい相手はいない。西宮になら安心して任せられる。そんな冗談も交えながら学校に向かう。

 なんだかんだ西宮と上手く話せてないか。楽しくなってきたぞ。


「なんか、楽しそうだね?」

「西宮と話すのが楽しくてな。実は、西宮から一緒に行こうって言われた時、すげー緊張してさ。女の子と通学とか初めてだし。西宮喜んでくれてたし。楽しませないとなーとも思って。でも、西宮が喜ぶ話題とか思い付かなくてどうしようって焦ってた」

「そ、そうだったんだ」

「捻って出せたのが通学の時間を聞く、だしな。我ながら情けねー。けど、西宮が上手に広げてくれたおかげですっかり楽しくなってさ」

「それは、東野くんのおかげだからだよ。ボクも何を話そうかなって考えてたから」

「あ、そうなの?」


 意外だな。普段、男子と話してる方が多いから西宮にとって男相手にする話題なんて腐るほど頭の中に入ってるもんだと思ってた。


「東野くんが相手だからだよ」

「なるほど……確かに、俺相手だと難しいよな。俺の反応って良くないし」


 自分で言うのもなんだが俺はノリが悪い。この前だって、ドッジボール終わりに西宮の話題で盛り上がってる中に入れなかった。何か話題を振ってもいい反応が返ってこなかったら誰だって不安にもなるもんだろう。


「ち、違うよ。東野くんを前にすると緊張するからだよ」

「俺に? ははは。俺だよ? 俺なんて緊張する必要ないって」

「む、無理なの!」

「あ、そ、そうか?」


 ムキになって言われたので退いておく。普段から大人しい西宮がこうもムキになるなんて珍しい。俺なんてそこらの雑草と変わらない感じで接してくれていいのに。


「その、西宮は無理してないか?」

「うん……緊張するけど、一緒にいたいから」

「お、そ、そっか……」


 まただ。たまに西宮はこうして俺を物凄くドキドキさせることを言ってくる。一緒にいたいってどういう意味だよ。そんなのまるで西宮が俺のこと好きみたいじゃん。


「……あ、友達。友達だから、一緒にいたい的な。そういう意味でちょっとしか変な意味はないから」


 身振り手振りで訳の分からないことを言い出す西宮。心なしか頬が赤くなってるような気がする。


「な、なるほど。友達。友達ね」


 そういう俺もよく分からないまま納得していた。


「って、友達!?」

「きゅ、急にどうしたの?」

「あ、いや」


 西宮がさらっと言ったから気付くのが遅くなったけど、友達って言ったよな。西宮に友達だと思われてることに驚いたけど、俺と西宮って友達だったんだ。いつから友達だったんだろう。ていうか、友達だと思っていいんだ。友達なんて言われたの何年もなさすぎて分からねえ。西宮に聞いてみるか? いや、やめておこう。そういうの気にするのなんか嫌だし。俺だって西宮となら友達で嬉しいし。


「め、めちゃくちゃ笑ってるけど、大丈夫? もしかして、ボク何か変なこと言った?」

「ううん。これは、嬉しくて頬が緩んでるだけ」

「そ、そうなんだ?」


 俺が喜んでいる理由が西宮は思い当たらないらしい。心配そうにしながら首を傾げている。

 そうこうしていると学校が見えてきた。

 高校に入って初めての友達との通学は楽しく終わった。

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