第4話
西宮と昼飯を一緒にしてから、西宮と話す機会がやたらと増えた気がする。というのも、西宮の方から頻繁に声を掛けてくるのだ。
朝、教室に入れば「おはよう」と言われ、休み時間になれば「さっきの授業、難しかったね」と話し掛けられ、放課後になれば「ばいばい、また明日」と手を振られる。
ほんの数日前までは学校にいる間、誰とも一言も話さずに家に帰る日を送っていたというのに劇的な変化である。
そして、そんな変化を俺は嬉しいと感じていた。
基本的に人付き合いが苦手な俺がなぜか西宮と過ごす時間は苦にならない。西宮のことを女子として見てるから相変わらず緊張はするけど、それが、不思議と嫌にならない。女の子とはいえ、西宮が明るくて接しやすい――いわば、男友達のような雰囲気を放っているからだろうか。よく分からない。
そんな疑問を少しでも解消するために俺はここ数日、気が付けば西宮を目で追うようになっていた。今だってそうだ。
「うーん……もう、ちょっと……っと。よし、届いた」
西宮は今、黒板消しをしていた。状況としてはこうだ。さっきの授業で先生が黒板のかなり上の方にまで文字を書いた。それを、消さずに先生は教室を出て行ってしまい、今日の日直が仕事内容として含まれている黒板消しを行う。が、しかし。今日の日直である
それを見かねた男子が西宮に手伝ってやれよ〜と声を掛け、西宮は快く引き受けた、というのが現状だ。
西宮でも背伸びをしているあたり、日直の女子もそうだがクラスメイトのほとんどが消せずにいただろう。
「はい、綺麗になったよ」
文字を消すことに成功した西宮に黒板付近で西宮を見守っていたクラスメイトが拍手を送る。
「ありがとう、西宮さん」
「どういたしまして。また何かあれば手伝うから。大きいのが取り柄だし」
「そーそー。西宮がデカいのはこういう時のためだもんな」
「困った時は西宮を頼るのが一番だよ」
バシバシと男子が西宮の背中を叩いてまるで自分の手柄のように威張る。
「なんで、何もしてないあんた達が威張るのよ」
「ほんとそれー」
西宮の取り巻き男子と南條の取り巻き女子が言い争い始め、中心で西宮が困ったように苦笑して仲裁に入っている。頬にはチョークの粉を付けたまま。
「西宮って相変わらず男っぽいよなー」
「あの身長だしな。羨ましい」
そんな姿を俺と同様、遠巻きから眺めていたクラスメイトが口にした。
確かに、西宮は大きい。文字を消せたのも大きいからだ。言われてすぐに手伝えるのも優しくて素敵だ。誰にも出来ないことをやってのけるのはカッコいい。でも、だからって、男っぽいと思うものだろうか。あの頬が白くなってる姿とか抜けてて可愛いだろ。
「ぷっ。西宮、頬っぺた白くなってんぞ」
「えっ、本当!? わ、本当だ。恥ずかしっ。洗ってくる」
スマホのインカメで自分の姿を確認した西宮は照れたように足早で教室を出て行った。ほら、あの反応とか女子そのものじゃん。っていうか、汚れてるって気付いてなかったのかよ。抜けてるなあ。可愛いなあ。
あれ。俺、西宮のことめちゃくちゃ可愛く見えてないか? んんー? ま、いっか。実際、可愛いんだしな。
可愛いものを可愛いと思うのはなんてことのない普通の感覚だ。周りと違って俺の感覚がズレてるってことでもないだろう。
よし、トイレでも行きますか。俺は教室を出た。
近くのトイレに向かう途中で西宮と遭遇した。
「よ、西宮」
「東野くん。どこ行くの?」
「トイレだ。西宮は汚れ落ちたか?」
「え、なんで知ってるの?」
「見てたし」
「え、え〜東野くんにも見られてたんだ。それは、恥ずいかしいなあ」
照れからか西宮は自分の黒髪を手にすると汚れていた方の頬を隠すように押し付けた。
「別に、何も恥ずかしいことはないぞ。西宮が頑張った証しだ」
「そ、それでも、東野くんに見られることが恥ずかしいの。うう〜」
「そうか……悪い。そんなにも見られたくないことだとは思わなかったんだ」
「東野くんに間抜けの馬鹿だって思われたくないからだよ」
「あー、悪い。ちょっと思った。抜けてて可愛いなあって」
「かっ……ま、また、そーやってボクを女の子扱いするんだから」
「あと、誰にも出来ないことをやってカッコいいとも思った。感心した」
「あるからね、背が」
「ああ、違う。違う」
頭のてっぺんに手のひらを置き、身長が高いことを表現する西宮に俺は首を横にした。
「俺が西宮をカッコいいなって思ったのは人を助けてたからだよ」
「あ、あれくらいのことで大袈裟だよ」
「内容は些細でも誰かに手を貸せるのってそう簡単に出来るもんじゃないはずだからな。だから、スゲーよ」
「あ、ありがとう……東野くんに褒められると大きくて良かったって思えるよ」
はにかんで照れくさそうに頬をかく西宮。
「……えへへ」
そんな西宮を見ていれば目が合い、西宮が小さく笑いかけてくる。はい、可愛い。優勝。そんな姿がいちいち可愛く思えて俺はまた緊張しそうになる。
「んんっ。じゃあ、俺はこれで」
「あ、うん。また教室でね」
ひらひらと手を振って西宮は教室へと戻って行った。その後ろ姿を見送ってから、俺は廊下の壁に背を預けてその場にしゃがみ込む。
たぶん、これは、俺が女子への免疫がなさすぎるからだと思うけど、西宮と話す度に緊張が増している気がする。いつまで経ってもドキドキせずに会話出来る気配がない。
「あんな風に笑いかけられてドキドキしない方が無理だってーの」
結局、どうして西宮と過ごす時間は苦にならないのか理由は分からなかったが一つだけ分かったことがある。
今日も西宮は可愛いってことだ。
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