クラスのクール美少女が、俺の弁当以外は食べないと宣言した件について
もかの
第1話 クラスで宣言した
四限目が終わり昼休みが始まると、クラス中がざわめきだす。
彼らの視線は、一人の女子生徒に集中していた。
「おい……綾乃さんが弁当取り出してるぞ……」
「しかもあれ、手作りじゃね……!?」
女子生徒の名前は
入学当初から「とんでもない美少女がいる」と、学年を超えて話題になった人物だ。
彼女の背中まで届くツヤサラストレートの黒髪。
綺麗に整えられた髪に端正な顔立ち、女の子らしく大きな目。
けれどそれに対し少し低めで透明な声と素っ気ない態度から、彼女は『クール美少女』と密かに囁かれていた。
ここに文武両道まで加わるのだから、そう呼ばれるのも仕方がないというものだ。
そんな彼女にクラス中が驚いたのには、綾乃の食の細さが関係していた。
「す、澄香ちゃん……今日はお昼食べるの!?」
昼休みはいつも綾乃と一緒に過ごしているクラスの女子が驚くように聞く。
いや、実際に目を見開いて驚愕の表情を浮かべていた。
綾乃は入学して一ヶ月近くが経った今日まで、一度も昼食をとったことがない。少なくとも高校でその姿は目撃されたことがなかった。
理由を聞いても「私、あまり食事を食べられないのです」としか言わない。それでも完璧美人の振る舞いをするものだから、クラスの誰も疑うことはなかった。
だからこそ、手作り弁当を取り出したことに衝撃が走ったのだ。
「私だって、お食事をとらないと死んでしまいます」
「いやそうだけど……そうなんだけど! 澄香ちゃんはその限りじゃないというか何て言うか……」
綾乃のごもっともな返しに、女子生徒もごもっともな言葉を返す。
「まぁそれはいいや……でも、澄香ちゃんっと料理もできたんだね。ほんと、何でもできるっていうか。私にもその才能の一部がほしいよぉ」
「別にこれ、私の手作りじゃないです」
綾乃の昼食デビューにぞろぞろと群がる女子生徒と、傍から眺める男子生徒という異質なクラス。
そんな中、皆が心に秘めていたその才能を羨む気持ちをポロッと口にしてしまった女子生徒の言葉を綾乃は真っ向から否定した。
「「「…………え?」」」
遠くから眺めていた男子生徒を中心に、困惑の声が漏れる。
「そもそも私は料理が不得手ですし」
自分の弱い一面を打ち明けて恥ずかしそうに照れる綾乃。とは言っても僅かに俯く程度で、表情にはあまり変化がないが、それすらも滅多に見せない姿であった。
しかしクラスメイトたちは、そんなことよりも弁当の作ってあげたのが誰なのか気になって仕方なかった。
綾乃が一人暮らしであることは年度初めの自己紹介で知られている。
ということは、もしや彼氏が出来たのではないか、と……。
整った容姿に恋心を抱く男子生徒は少なくない。
さらに綾乃を取り巻く女子生徒たちですら男の影は一切感じていなかった。
「じゃ、じゃあ誰の手作りなの……?」
女子生徒が核心の迫る質問をする。
男女問わずクラス全員が綾乃の答えに耳を澄まし、突如として静寂が訪れた。
「誰、って…………」
しかし綾乃はそんな異質な空気をものともせず真横を向き指を指すと――、
「ここにいる彼ですよ? ね、桐原くん」
直前で寝たフリを始めた俺の名前をハッキリと口にした。
絶対に顔を上げられないが、クラス中の視線が澄香から俺に移ったことはひしひしと伝わってくる。なんなら鳥肌まで立ってきた。
クラスメイトが綾乃の言葉を理解するまでじっくりと数十秒。
「おいどういうことだよ!!」
「桐原くん!? 起きてるんでしょう桐原くん!?」
「おい被告! 裁判中に寝るな!」
「え、え、どういう関係なの!?」
「オレの……オレの綾乃さんに何をしたアアァァァ!!!」
一斉に静寂から解き放たれたクラスメイトによる質問攻めが開始された。
顔を伏せている俺の耳に届くのは、興奮した様子で質問してくる声や罵詈雑言。いや、ほとんどが罵詈雑言な気がしてきたぞ……?
だが、一瞬にして喧騒に包まれたクラスではそのほとんど聞き取れなかった。
(あー……やらかした…………)
今すぐ帰りたい気持ちを必死に抑えながら目を閉じ、綾乃と初めて会話をした五日前のことを思い出した――――
次の更新予定
2025年12月23日 19:02
クラスのクール美少女が、俺の弁当以外は食べないと宣言した件について もかの @shinomiyamokano
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