第3話

○基子の家の前


基子:っく、不覚だわ、図書館からあたしの家が一番近いだなんて。いーい夕実、女狐が一樹お兄さまに手を出したら噛み付くのよ?

夕実:う? うー、うん!

基子:分かってないわね。あんた

夕実:う? うん!

基子:はー

一樹:じゃね、基子ちゃん

基子:はい、送ってくれてありがとう、一樹お兄さま、と……雪菜

雪菜:はい、また図書館にきたらよろしくお願いしますね

基子:う……よ、よろしくしてあげてもいいわよ!

雪菜:はい

夕実:ばいばーい


 三人は並んで歩いている


一樹:もうすっかりクリスマスイルミネーションですね

夕実:キラキラしてて綺麗ねー

雪菜:そうですね

夕実:雪菜お姉ちゃんはクリスマスなにするの?

雪菜:え? 家の掃除?

夕実:えー、クリスマスなのにおうちの掃除なの? 夕実はね、クリスマス会するの!

雪菜:クリスマス会ですか?

夕実:パパとママとカズにぃと、あ、あとモトちゃんと、モトちゃんのパパとママと、むっくんのママと――

一樹:夕実の通ってる風見幼稚園の園児は保育園でクリスマス会があるんですよ

雪菜:……いいですね、沢山の人とパーティですか

夕実:雪菜お姉ちゃんもおいでよ!

雪菜:え? いや、私は部外者だし

夕実:ぶが?

一樹:関係ない人だってことだよ

夕実:そんなことないよ、雪菜お姉ちゃん、夕実のお友達!

雪菜:お友達、ですか?

夕実:うん! カズにぃのお友達だから夕実のお友達!

雪菜:いつの間に私は貴方のお友達になったんです?

一樹:(苦笑)僕も知りませんでした。けど、友達って勝手になっちゃうものじゃないですか? 僕と友達は嫌ですか、雪菜さん

雪菜:そう聞き方は卑怯――


 おばさんが慌ただしく雪菜たちに駆け寄ってくる


おばさん:雪菜ちゃん!

雪菜:おばさん?

おばさん:(息切れ)よかったわぁ、雪菜ちゃん

雪菜:どうかしたんですか?

おばさん:ほら、このごろ噂してた不審者、また出たんですって。雪菜ちゃん一人暮らしだし、あたしもう心配で心配で

雪菜:(顔色が悪くなる)そう、ですか

おばさん:ほら雪菜ちゃん、この前も変な人につけられてたし

雪菜:おばさ――!

一樹:それ、どういうことですか?

おばさん:ん? アンタ誰だい? 雪菜ちゃんの彼氏かい?

雪菜:違います、バイト先で一緒の高校生の男の子で

一樹:おばさん、雪菜さん、不審者につけられたって

雪菜:ちょっと!

一樹:はいはい、雪菜さんは少し黙っててくださいね

雪菜:(口を塞がれる)むむむ~っ!

おばさん:そうなのよ。雪菜ちゃんの部屋覗いてたり、あとつけてきたりって、そりゃもう気落ちが悪くてねぇ

一樹:そんなことが

雪菜:む~(一樹の手を噛む)あぐ!

一樹:いったっ! 雪菜さん、今僕の手噛んで

雪菜:私、一人で大丈夫ですから

おばさん:でも雪菜ちゃん

雪菜:大丈夫です! 沖野さん、今日は送ってくれてありがとう。私の家そこだから、それじゃあ


 雪菜は走って行ってしまう


夕実:あ、雪菜お姉ちゃん!

一樹:痛いなぁ、まさか、噛まれるとは思ってなかったぁ。ふふ、可愛いなぁ

夕実:カズにぃ?

一樹:ん、なんでもないよ

おばさん:心配だわ

一樹:そうですね、一人で無茶しなきゃいいんですけど


○沖野の家


 一樹はソファーのベッドで寝転がっている

 夕実は一樹の上で寝転がっている


一樹:あー

夕実:あー?

一樹:あぁあー

夕実:あぁあー?

一樹:うーん

夕実:うーん?

一樹:やっぱり気になるよね!


 一樹は起き上がり、夕実は転がってソファーの上に落ちる


夕実:わ!? もー、カズにぃ動いちゃだめ!

一樹:カズにぃはカズにぃの上で寝転がる子の言うことなんか、ききませーん!

夕実:む~!

一樹:夕実、ちょっとお留守番できる?

夕実:お留守番? できるよ! おいで、ララ!

猫:にゃー


 一樹は玄関で靴をはくと、父親が顔を出す


父:一樹、どこかに行くのか?

夕実:ん~、雪菜さんに会いに

父:ま、待て一樹、それは新しい彼女か? いや、パパは一樹の恋愛に口出すことなんてしたくないんだがな、ほら、その、やっぱりな、お前はまだ高校生なんだし、もう少し誠実なお付き合いというものをだなぁ

一樹:(ため息)うっとうしいよ、父さん

父:ぐは、う、うっとうしい!?


 父は雷に打たれたように打ちひしがれて床に倒れる


一樹:うん、うっとうしい。じゃ、ちょっと行ってくる、すぐ戻るから

夕実:行ってらっしゃーい。……パパ、じゃま

父:邪魔!? しくしくしくしく


○道路


一樹:確かこっちのほうだったはず……ん? おばさん?

おばさん:あ、アンタはさっきの。いいとこにきたよ、あのね、さっき雪菜ちゃんのアパートに不審者が入っていったんだよ。アンタ、見てきてくれないかい?

一樹:わかりました


 一樹は急いで老朽化した金属階段を上がる

 と、雪菜の家のチャイムをずっと鳴らしている男を発見する


不審者:おーい、出ておいで~。おーい、おーい

一樹:ねぇ、お兄さん、なにしてるの? そこに住んでるの、僕の知り合いなんだけど、お兄さん、だれ?

不審者:? っち


 不審者は一樹を見て逃げる


一樹:あ、逃げた。待て!


 一樹は追いかけるが、既に不審者の姿はなかった


一樹:あーあ……逃げられちゃったか


 迷いながらも雪菜の安否を確認しようと再び金属階段を上り、ノックをする一樹


一樹:雪菜さん。……雪菜さん? 沖野です。……雪菜さん


 急に扉が開き、雪菜が飛び出て一樹にしがみつく


一樹:わ?! 雪菜、さん?

雪菜:沖野さん……沖野さん、沖野さ、っ


 雪菜をギュッと抱きしめる一樹


一樹:大丈夫ですよ。もう大丈夫だよ、雪菜さん

雪菜:うぅ……

一樹:ね、雪菜さん、僕の家に来ませんか? 僕の父、警官なんです

おばさん:そうしなよ、雪菜ちゃん

雪菜:でも、迷惑

一樹:迷惑なんかじゃありません

雪菜:沖野さん?

一樹:迷惑じゃありませんから、僕の家においで?

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