第2話

○図書館 本棚の前


一樹:お話会を手伝うとは言ったものの、さて、どの本にしようかな


 夕実は本を選んでいる一樹の服を引っ張る


夕実:カズにぃ

一樹:「かいじゅうたちのいるところ」「こんとあき」「きいろいのはちょうちょ」「スノーマン」「おふろだいすき」、うーん


 夕実が一樹の服を引っ張る


夕実:(ちょっと強く)カズにぃ

一樹:ここはやっぱり「14ひきのさむいふゆ」かなぁ

夕実:(心細くなる)……にぃ

一樹:あー、でも

夕実:(気づいてもらえず悲しくなる)う、ふえ、ふっ……

一樹:あれ、夕実? どうしたの、泣きそうな顔してるよ?

夕実:カズにぃの意地悪! 夕実、ずっと、呼んでたの!

一樹:知ってたよ、ごめんね夕実。夕実が可愛いからちょっと意地悪しちゃった。一人で来たの?

夕実:ううん。モトちゃんと一緒

一樹:基子ちゃんと?

夕実:モトちゃんは今、トイレな――むぐ?


 基子は急いで走ってきて夕実の口を塞ぐ


基子:ばかばか、ばか夕実! 一樹お兄さまになんてこと言うの! 基子はお手洗いなんて行かないの!

夕実:え? でもおしっこ――

基子:素敵なレディはトイレになんて行かないの!

夕実:えぇえ!? ど、どうしよう! カズにぃ、夕実、おトイレ行っちゃった。素敵なレディになれない?

一樹:大丈夫、夕実はずっと素敵なレディだよ

夕実:ホントに?

一樹:うん。もちろん、基子ちゃんもね

基子:(照れる)う、うん

一樹:あ、そうだ、ねぇ二人とも、本を読んでもらうならどんな本がいい?

夕実:ご本? 夕実、楽しいご本がいい!

一樹:楽しい本かぁ。基子ちゃんは?

基子:あたしは、お姫さまが出てくるお話が好き!

一樹:お姫さま、「シンデレラ」とか「白雪姫」とか?

基子:うん!

一樹:んー。日本の童話も外国の童話も捨てがたいなぁ


 4時のベルが鳴る


一樹:あ、まずい。4時になっちゃった。夕実、基子ちゃん、急ぐよ、駆け足!

夕実:図書館は走っちゃダメなんだよー?

一樹:緊急事態だからいーの!

基子:お兄さまが急ぐなら基子も急ぎますー!


○遊戯室


 扉を開けて、一樹たちが入ってくる


一樹:すみません、遅れました!

雪菜:沖野さん、5分の遅刻ですよ

一樹:はい、ごめんなさい

雪菜:? その子たちは?

一樹:僕の妹の夕実と、友達の基子ちゃんです。お話会に一緒に参加してもいいですか?

雪菜:構いませんが

子供A:おそいぞー!

子供B:早くご本読んでー!

一樹:ちょーっと待っててね。えっと、本は

基子:はい、一樹お兄さま、これが基子の愛読書です

一樹:ありがとう基子ちゃん。えっとこれは「美しき美魔女になる方法」? これは30代奥様方に大人気のファッション雑誌

基子:何事も早目が肝心なの!

一樹:うーん、はや過ぎないかなぁ

夕実:夕実も持ってるよ、はい、カズにぃ

一樹:ホント? 「THE 男の筋肉祭」。……夕実、これ、どこから持ってきたの?

夕実:む? あっち!

一樹:うーん、どっちもお話会向きじゃないなぁ

雪菜:本がないんですか?

一樹:あはは、でも大丈夫ですよ。おーい、みんな、お話会を始めるよ~

雪菜:え? 本は?!

子供A:いぇーい!

子供B:まってましたぁ!!

一樹:昔々、あるところに、一樹という少年がいました

夕実:カズにぃのことだ!

基子:しー!

一樹:一樹には好きな人がいました。それはとても冷たい心を持った雪菜という女の子

雪菜:え?

一樹:実は雪菜は悪い魔女によって、心を凍らされてしまい ――間―― そうして、雪菜は無事、温かい心を取り戻し、一樹と幸せに暮らしました、めでたしめでたし

子供A:うぉー、すっげぇー、竜出てくるとか

子供B:うんうん、実は王様が魔女に頼んで雪菜の心を凍らせてたとか

子供A:面白かったぁ。ありがとー、お兄ちゃん

一樹:うん、ばいばーい

子供B:兄ちゃん、次は俺が主人公の話考えてよ

一樹:暇があったらね

子供B:約束な! じゃあ、姉ちゃんもバイバイ

雪菜:はい、気をつけて帰ってくださいね

一樹:ふー、なんとかなった

雪菜:なんなんですか、あのお話は

一樹:え? 僕が昔考えてた物語ですけど

雪菜:どうして登場人物の名前が沖野さんと私なんです!

一樹:いや、ストーリーは考えてあったんですけど、名前決めてなかったので

雪菜:勇者とか姫とかでいいじゃないですか!

一樹:あ、そうでしたね

夕実:カズにぃ、すごいの! 夕実ね、ぎゅーってなったり、わーってなったりしたの!

一樹:ありがとう夕実、ほめてくれるの? 嬉しいなぁ

基子:さすがは一樹お兄さま、夕実の読解困難な言葉を正確に理解するなんて

一樹:あ、もうこんな時間。ほら夕実、もうこんな時間だし、家に帰らないと

夕実:えー、やだ、夕実、カズにぃと一緒に帰る!

一樹:でも、僕はまだ帰れないからなぁ

夕実:やぁだぁ!

一樹:うーん。困ったなぁ

雪菜:……夕実ちゃん?

夕実:なぁに?

雪菜:お兄ちゃん、あと30分くらいで帰れるから、それまで待っていられますか?

夕実:うん! モトちゃんも一緒だもん

基子:当然よね

雪菜:図書館は閉めますが、牧本さんに言って、いさせてもらったらどうでしょう

一樹:いいんですか?

雪菜:この子達だけで家に帰すのは危ないです

一樹:それは、そうですね

夕実:あ、じゃあ、雪菜お姉ちゃんも一緒に帰るの?

雪菜:え? 私は一人で帰れるから

基子:家はどこなの?

雪菜:原町(はらまち)だけど

基子:なら同じ方面ね。仕方がないから基子が送ってあげる!

雪菜:いや、別に私は一人で

一樹:送りますよ。雪菜さんだって一人で帰るのは危ないですから

雪菜:別に貴方に送ってもらわなくても

一樹:俺が送りたいんです

雪菜:(ため息)好きにしたらいいんじゃないですか

一樹:はい

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