第5話 博打の真相
「キョウスケ!どうしよう?いや、どうして?私は確かに真ん中にコインがあるのを確認したのに…」
俺たち二人はさっき大負けした賭場を後にして、安宿で過ごしていた。
「今頃は大金を手に入れて、豪華なホテルに泊まるはずだったのに…絶対イカサマだよ!」
アリスは拳を握りしめて怒っている。
あの場に遠目だが俺もいた。店主が怪しい素振りを見せてはなかったが、現実、アリスが確認したカップにはコインは入っていなかった。
アリス、聞きたいことがある。
「なんだよキョウスケ、私は今からヘブンズドアに行ってイカサマの証拠を暴いてこようと思ってるんだ。」
この世界には魔法というか、例えば物を消したり、違う場所に手を触れずに移動させたりとか、そういう力がある人間ってのはいるのか?
「キョウスケ、何をバカなことを言ってるんだい。そんな力があったら、博打でやりたい放題じゃないか。少なくとも、この国ではそんなおかしな力を持ってるなんて噂は聞いたことがないね」
なるほど・・それはもっともだ。
アリスはあきれた様な顔をして、
「とりあえず私はちょっと出てくる。イカサマだって事を証明しないと大損だからね。今日は先に寝といて」
と言い残し、宿屋を後にした。
特殊な力でもなく、妙な動きもしなかった。とすると答えは限られてくる。俺はため息をついて外に出て行った。
俺は、しばらく歩くと目的地にたどり着いた。そこは、さっき博打で大負けしたヘブンズドアの裏口で、アリスとオーガの店主が話していた。
アリス、イカサマの証拠は見つかったか?
俺はアリスに声をかけると、少し驚いたような顔をして
「キョウスケ!どうしてここに?先に寝といてって言ったのに」
相棒を一人で頑張らせるのも寝つきが悪い。それに俺も大損してるしな
「そうか、でもイカサマの証拠は…」
見つからなかったんだろう。そのオーガにもしらを切ってるみたいだし、
今まで、黙っていたオーガが少しムッとしたような顔で
「だから、何度も言ってるだろう?俺はイカサマなんかしてない。こんな夜中におしかけやがって、さっさと帰りな」
でもお前たち、さっきから随分和やかに談笑してるみたいだったな。とても言い争ってる雰囲気じゃなかった。
「なにが言いたい…」
オーガが俺を睨みつける。
グルなんだろう?二人とも…考えてみれば単純な話だ。カップにコインがあるのを確認したのはアリスしかいない。そのアリスが大金をかければ、だれも疑わない。
大金を賭けたことで、ほかの客もそれに乗るやつは多いだろう。そして、あとで大金は山分けって寸法だ。俺がアリスの方を向くと、アリスは目を伏せてこちらを見ようともしない。それがなによりの証拠だった。
次の瞬間、オーガの手の平がアリスの頬を打った。
「この役立たずが!下手を打ちやがって、だがな兄さん、だまされる方がこの国じゃ悪いんだ。ケガしたくなかったら、とっとと帰りな。アリス、山分けの話は無しだ。テメエのせいで、種がばれたんだから当然だ」
「そんな、親方!話が違うじゃないか。」
おいおい、何を言ってるんだ。俺が決定的に怪しいと思ったのは、あんたのせいなんだぜ。あんた、アリスが賭けた時にこう言ったよな?『お嬢ちゃん、こんな大金大丈夫か』って、どうして布袋に入っている金が大金だって分かったんだ?金貨じゃなく、銅貨の可能性だってあったのに。この事で俺は二人が裏で口裏を合わせてるんじゃないかと疑った訳だ。
「兄さん、ご説明をわざわざどうも。だが、この布袋の金は返さないぜ。さっきも言ったがだまされる方が悪いんだからな」
そんなはした金が、欲しければくれてやるよ。俺はそう言ってズボンのポケットから金貨5枚を取り出した。
「どういうことだ、じゃあこの布袋は…」
オーガが乱暴に布袋を引きちぎると、銅貨が数枚音を立てて床に転がっていった。
その金は勝負の前に腹ごしらえした時のつり銭だ。いくら上手い話しでも、いや上手い話しだからこそ命銭を人に預ける気はない。ギャンブラーってのは用心深くないとやっていけない商売だからな。アリス悪かったな。まぁお前も俺をだまそうとしていたんだからお互い様だ。俺はその場を後にしようとした。
オーガは怒りが収まらないようで、その矛先はアリスに向かったようだ。
「アリス、この落とし前は分かっているだろうな?お前は明日にでも奴隷商か博打の商品として競売行きだ。覚悟しておくんだな」
吐き捨てるようにオーガが言うと、アリスは顔を青くして
「親方、それだけは勘弁してくれ。今まで以上に働くから」
「うるせぇ!金貨5枚も儲けそこなったんだ。勘弁ならねぇ」
アリスはがっくりと首をうな垂れて、目に涙も浮かべている。
アリスは俺をだまそうとした。それは間違いないし、助ける義理も無い。
ただ、この国に来て、俺を信用させるためだとしても、色々世話になったのは確かだし、一時でも俺の初めての相棒だった。
俺は向き直り、
オーガのおっさん、そんなにこの金貨が欲しいか?だったらギャンブルで決めようじゃないか。ここは博打国家ブリングなんだろ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます