2章「日常の延長」

 他愛もない会話をしつつ、歩くこと数分。


 駅前で康樹と充晶の二人と合流し、遅めの昼食をはさんだ後、商店街をぶらぶらと歩く。


 文房具店に立ち寄り、新しいノートを数冊購入。


 これで今日の目的は終了だ。


 と、充晶が立ち止まる。


「あれ、こんな所にこんな店あったっけ?」


 彼が示した先には、いつからそこにあるのかわからないほど古めかしい佇まいの店があった。


「ホントだ。何だろ、古道具屋?」


 窓から中を覗いながら康樹。


「えーっと『胡蝶こちょうの夢』?」


 看板を読み上げたのは太壱だ。


「どうする?せっかく見つけたし、入ってみる?」


 そう言った充晶は満面の笑顔だ。


 彼の中ではすでに店に立ち寄る事は確定しているのだろう。


 これまでの経験から言って、充晶がこういう笑いかたをした時は、大抵ろくな目に合わない。


 そして、先程からの胸のもたれが、ずしりと重いものに変わるのをはっきりと感じ、彼は充晶を睨みつけた。


「……俺は入らねぇ。お前らもやめとけ」

「おれもやめたほうがいいと思う」

 

 半眼で清司が言うと、古道具屋ということもあってか、太壱も同意見で続けた。


 古道具屋は、良くも悪くも新旧問わず、人の念がこもった物や、何かしら力のある物が集まりやすい。


 家の歴史が古い太壱の家にも、来歴のわからないような古い物が数多くあるが、それらは水縹家現当主の彼の祖母が厳しく管理しているため、太壱に害が出るようなことはない。しかし、それらが危険なものであることは、太壱も幼い頃からの祖母の話と経験で熟知していた。


 それはさておき。


 今問題なのはこの目の前の店だ。


 清司の睨みを気にもせず、依然として満面の笑みを浮かべて充晶が言う。


「いやいや、入ってみようよ。いい出会いがあるかもしれないよ?」


 数多くの人の手を渡ってきたであろう古い物が、清司にとってろくな物であるはずも無く、よしんばそれが良いものだったとしても、関わりたいとは微塵も思わない。


 そして、古い物であればあるほど、力も強い事が多いのだ。


「だよな!よし!入ってみようぜ‼」


 二人が止めたのも虚しく、康樹が意気揚々と店の引き戸を開けたのを見て、


「……俺は止めたからな」


 清司はボソリと呟いた。



 店内に入ると、所狭しと商品が入った棚とショーケースが並んでいる。


「い、い、い、いらっしゃいませ」


 店の奥からそう声をかけられる。


 見ると、銀灰色の髪をした少年がレジのあるカウンターから顔を出していた。


 透けるような肌とはまさにこの事だろうか。


 陽の光の入らない店内で、一見病的にも見えるそれは、薄暗がりの中で際立って赤く見える瞳と相まって、一層引き立って見える。


 人見知りする質なのだろうか。


 彼は言いながらも、それ以上出てこようとはしない。


 明らかにサイズの大きい臙脂色のトレーナーの袖をもじもじとさせながら、おどおどとこちらの反応を伺っている。


「店員さん?少し見てもいいですか?」

「は、は、はは、はい!」


 充晶がそう言うと、少年はコクコクと頷いて返した。


 すると、更に奥から足音が聞こえる。


「坊、お客さんか?」

「う、うん!」

「よしよし、あとはワシがやるから、お前は奥からアレを持ってきておくれ」

「わ、わかりました!」


 言われて、少年はやはり不自然にぶかぶかなズボンの裾を引きずるようにして奥へと引っ込んだ。


 そして、よっこらせと呟きながら、住居なのであろう奥の部屋から姿を見せた声の主は、白髪頭に深いシワの刻まれた、柔和な印象の高齢男性だった。


 会話の内容からして、彼がこの店の店主なのだろう。


「あの、オレたち店の中のもの見せてもらおうと思っただけなんだけど……」

「ああ、構わんよ。ゆっくりしていきなさい」


 康樹の言葉に笑顔で答える老人は、ゆっくりとした動作でカウンターの後ろから椅子を引き出すと、これもまたゆっくりとした動作で腰を下ろした。


「……太壱、どう見る」


 店に一歩足を踏み入れてから身動きが取れなくなっていた清司は、隣で同じ目にあっているであろう太壱にそう声をかけた。


 というのも、ショーケースに入れられているモノ達が、大小問わず人の形を取り、じっとコチラを凝視しているのだ。


 中には、清司の顔を、息がかかるほどの至近距離でのぞき込んでくるモノさえいる。


 ただ、それはどれも「興味津々」といった面持ちで、敵意や悪意は感じられなかった。


 しかし、それは単に清司と太壱が「微動だにしない」からという理由が大きいと思われる。


 アチラ側からすれば、自分たちを見ることができる人間が、自分たちを見ても全く動じないというのは、ことのほか不思議かつ面白いことなのだろう。


「まぁ、どれも今すぐどうこうってことでもないと思うから、様子見でいいと思うよ」


 清司の問いに太壱が小声で答える。


 確かに。

 

 この調子であれば、二人が何かに魅入られるような展開でもない限り、放っておいても問題はなさそうだ。


 そう思い直し、清司は少しだけ肩の力を抜いた。


 と、その時だった。 


「もも、持ってきました!」


 先の少年が、何かの箱を持って奥の部屋から戻ってきたのだ。


「おぉ、ありがとさん。奥でおやつ食べてて良いぞ」


 老人がそう言いながら少年の頭をなでてやると、少年は嬉しそうに奥へと戻って行った。


 箱は赤い木箱で、それ自体が価値のある高級品と言われたら信じてしまいそうなほど、繊細で細やかな彫り物が全体に施されている。


 しかし、箱からは何も感じられない。


 それがこの、人の目には見えないモノ達がひしめき合う空間においては明らかに異質でしかなく、清司は身体を強張らせた。


「さて。お前さんら、ちょっとこっちに来てくれんか」


 言いながら柔和な笑顔を崩さず、老人が手招きをする。


「え、なになに?」


 それにホイホイと招かれる康樹。


「康樹、待て」

「え、何だよ」


 すかさず前に出て、康樹の肩を掴んで引き止めた。


「あんた、俺達に何を渡そうとしてる?」


 康樹の前に立ち、老人にそう尋ねる。


 それは、今は老人の目の前のカウンターの上に置かれており、その周りのモノ達は、カウンターを取り囲むように退いて、視線をこちら四人へ送っていた。


 囁くようなモノ達の声の中には、『あの子達が主なの?』『まだ幼い』『アレでは扱い方など解るまい』など、明らかに自分たちの事を揶揄するものも混じっている。


「……これをな。持ち主であるお前さんらに渡さねばならんと思ってな」


 そんなことを知ってか知らずか、老人は言いながら箱の蓋を開けてみせた。


「うわ!なにそれ、宝石?」


 後ろから顔を覗かせていた康樹が興味津々に言う。


 木箱の中には、装飾のない四色のガラスのような玉が、真ん中にある馬のような動物と思しきものをかたどった彫刻を囲うように、四方向に嵌められていた。


 真上が黒。


 右側が青。


 下が赤。

 

 左は白だ。


 大きさは五百円玉より少し大きいくらいか。


「宝石とはちと違うかの。これは大昔のとある国で作られたぎょくだ」


 言いながら老人は笑みを崩さず清司を見やる。


「へぇー」


 言いながら箱をのぞき込んだのは康樹だが。


 清司は掴んだままの康樹の肩を、さらに強く掴んだ。


「何だよ、痛いって!」


 康樹が反発して手を払うが、清司はその康樹を睨みつけて黙らせた。


 流石に察してくれたか。

 

 康樹は何も言わずに数歩下がる。


 これでおさまってくれればよかったのだが、


「これをお前さんらに一つずつ渡そうと思っての」


 老人は構わず続けた。


「え、いいの?僕達金ないよ?」


 康樹の後ろにいた充晶が身を乗り出す。


 その目は箱の中身に釘付けだ。


 堪らず太壱に目配せするが、太壱も「ムリ」と肩をすくめて見せた。


 確かに。今までこうなった充晶を止められたためしが無い。


「なぁに。この店はちょいと特殊でな。ワシが持ち主を選ぶこともある。お前さんらにはこれらを渡したいと思ったのだ」

「ちょっと待て!充晶、頼むから落ち着け。こんな上手い話あるわけ無いだろ!さっきの話が本当ならかなりの年代物だぞ⁉」

「それなら今の話も本当じゃない?」

「ぐ……」


 確に、老人の話が本当であれば、どういう理屈があるかはともかく、この玉の持ち主は自分達という事になるが。


「じゃあ遠慮なくもらっちゃうよ?」


 そこに反論できる言葉を考えているうちに、充晶と康樹が清司の前に出る。


「好きな色を選びなさい」

「じゃあオレはコレ!」


 そう言って康樹が手にしたのは下の赤い玉。


「僕はこっちかな」


 充晶は上の黒の玉だ。


「……えーっと……」


 清司と同じく玉の異様さに気付いている太壱は、手にすることに抵抗を感じているのか、どう断ろうか迷っている様だ。


「俺はいらない」


 そんな中、清司はそうスッパリと断った。


 が。


「そう言わず受け取りなさい。コイツはお前さんに必要になるものだから」


 老人は残り二つの玉を手にカウンターから出てくると、半ば強引に二人の手を取り、それぞれに玉を持たせた。


「……ちっ」


 思わず舌打ちして、清司は握らされた玉に目をやった。


 その時だった。


「——!?」


 視界が暗転したかのような感覚。


 周りから一切の光が無くなった。


 ただ、自分の体は見えている。


 今の今まで様々なモノに囲まれ、すぐ側に老人と三人がいたはずなのに、それらがいっぺんに消えてしまった。


 明らかに異空間に放り込まれた形になった清司は、どちらに進んでよいのかも、このままここにとどまって良いのかもわからず立ちつくす。


「だから嫌だったんだよな」


 そう毒づいて、握らされた玉に改めて目をやる。


 と、玉が消え、目の前に白い虎が姿を現した。


『我が主』


 虎の口が動いたかと思うと、そんな言葉が発せられた。


 虎は、実在する猛獣のトラではないだろう。


 その証拠に後ろに見え隠れする尾は二本あるし、虎の縞模様は薄い青緑色。

 

 眼は金ではなく青でもない。

 

 宝石の様な緑色だ。


 虎は頭を垂れると、再び言葉を発した。


『我が主となりし者。我に名を授けられよ』


 何でこんなことになったんだよ。


 そう胸中で毒づく。


 コレはよくありがちな契約というやつだろう。

 

 この展開で言えばこの虎に名前を付ければ契約は成立。


 晴れて元の場所に戻れるだろう。


 付けなければ永遠にこの空間をさまようことになるか、はたまたこの虎に何かされるのか。


 さて。


 そうとなれば確認したいことはごまんとある。


 幸いこの虎は人間の言葉を理解しているし、態度も友好的に見える。


「お前に名前をつけるかどうかの前に、聞きたいことがいくつかある」

『何なりと』

「まず、お前は何だ?」


 そう聞くと、虎はその場にぺたんと座り、じっと清司を見つめた。


『我は古の頃。国を護る術として造られた者。それ以上でも、それ以下でもない』

「この国のモノか?」

『我はこれ迄眠っていた。故に、時が過ぎているのは理解しているが、主の国が何処かは解らぬ』

「そうかい。じゃあなんで眠っていたんだ」


 そう聞くと、虎はそれまでじっとこちらに向けていた瞳を下げた。


 虎の表情など分かりはしないが、心なしか悲しげだ。


『……あるじが身罷みまかった故に』

「みまか?死んだって事か?」

『あるじは国を守るために、最期まで我を振るった……』

「あー、わかった。そこはもういい。辛いことを聞いたみたいだ。悪かった」


 そこまで聞いて、虎のあまりの悲しげな様子に清司は居た堪れなくなり、思わず謝った。


『主が謝られることは無い。いずれは語らねばならぬこと』


 清司の言葉に虎はぱっと顔を上げ、再び清司をみつめる。


「そうか。じゃあ質問を変える。お前に名前を付けたら何が起こる?」

『契約は更新され、主は我が力をその身に宿し行使することができる』

「契約の更新?」


 その言葉に、清司は首を傾げた。


 契約ならわかるが、なぜ更新なのか。


『魂の契約自体は既に成されている。故にこれは更新となる』

「魂?どういうことだ。俺はお前と会ったのは、今が初めてだぞ」


 またも首を傾げる。


 この虎との契約が魂ベースの契約というのはなんとなく理解できるが。


『我が造られしときに、契約はすでに済んでいる。主は前のあるじの魂の転生者であるゆえに』

「転生?……生まれ変わりってことか?」


 またも新しいワードが出てきたことに、清司は少しめんどくささを覚え始めた。


『そう捉えられてもかまわぬ……今は』

「……ややこしいな……まあいい。で、力ってのは何だ?」

『消滅の力』

「消滅?」

『この世のすべての物、事を消滅させる力』

「……とんでもない力だな。俺はそんな物は要らないんだけどな」


 ずいぶんと物々しい力だなと、正直に拒否をする。と、虎は目を伏せ


『なれば我はただ御身の側にあろう。主が我を呼ぶその時まで』


 そう言ってその姿を歪ませると、玉に戻ってしまった。


 空中に浮いていたそれは、すぐに力を失ったかのようにストンと落下し、コツンと硬い音を立てる。


 転がったそれを拾い上げると、先程まで真っ白だった玉が無色透明に色を変えていた。


「まさか契約進んだんじゃねぇだろうな?」

『我が力を振るうには名が必要。それなしには更新は成り立たぬ』


 清司の呟きに答えるように、頭の中に先の虎の声が響く。


 これもありがちな展開か。


 そう思いながら今日何度目かのため息をつく。


 念話と言うやつだろう。


 どうやら契約はしなくても、会話は可能にはなったらしかった。


 と、程なくして世界に色と音が戻り始める。


「——じ!清司‼」


 呼びかけていたのは太壱だった。



「お?あ、あぁ」


 彼の声掛けに、清司がぱっと顔を上げた。


 二人、周囲を見渡して先の店の中であることを確認する。


 そんなに時間は経っていないのだろうか。


 戻ったのはほんの少し自分のほうが早かったようだ。


 突然周りが真っ暗になったかと思えば、目の前に青い龍が現れて契約を迫られた。


 契約のあかつきには「ありとあらゆるモノの流れを止め、封印する力を得る」と言われたが、正直そんなものは必要なかったので、丁重にお断りした。


 そうして戻ってきたのだが、隣で放心したように立ち尽くす清司を見て、すぐに声をかけたのだ。


 店の主の老人はニコニコとこちらを見ているし、モノたちも相変わらず遠巻きにこちらを見ている。


 が、心なしかガッカリした様子なモノもいるのは気のせいだろうか。


「大丈夫か?」

「ああ。大丈夫だ」


 そんな会話を交わす。


 と、康樹と充晶がいない事に気がついた。


「二人は?」

「わからない。おれも今戻ってきたんだ」


 清司の問いにそう答えると、彼は深く息を吐いた。


 そして老人に向き直り、尋ねる。


「あんた……二人をどうした」

「あの二人は契約をしたんじゃろう。店の外におるよ」


 こともなげなその返答に、清司は唸るように低い声で言う。


「——っ。あいつらは……普通の人間だぞ」

「そうじゃな。であるが選ばれた。今は普通の人間でも、過去はそうではなかったのかもな」


 明らかに怒気を含んだ清司の言葉に、やはりどうということもないように返す老人の表情は、ピクリとも変わらない。


「おじいさん……それはどういう——」

「過去なんざ関係あるか!『見えない』人間を巻き込むな‼」


 太壱が問いただそうとしたところで、ついに清司が声を荒らげる。


「清司!落ち着けって!」


 これはまずい。


 彼は咄嗟にそう言って清司の腕を掴んだ。


 しかし、


「落ち着いてる!落ち着いてなきゃ……ぶん殴ってる‼」


 言いながら彼の手を振りほどいた清司の表情は、今にも老人に噛み付きそうなほど凶暴なものになっている。


 普段そんなに仲が良いとは言い難いようにしか見えないが、彼なりに二人の事は友人として大事に思っているらしい。


 語尾の「ぶん殴る」という言葉に、太壱は思わずたじろいだ。


「ほぉほぉ、流石じゃ。わしの正体が見えるか」

「最初っから怪しいと思ってたんだよ」

「清司、おれには何がなんだか……」

「コイツが人間じゃねぇってことだよ!」

「はぁ⁉」


 カウンター越しの老人を睨みつけたまま清司が言う。


 この店の中にいてあの少年とこの老人は、人間だとばかり思っていた太壱は、思わずすっとんきょうな声を上げた。


「どういうことさ!説明‼」

「なぁに、簡単な話じゃ。種明かしをするとな、わしはこの店の付喪神よ。あれはネズミじゃな」


 太壱の反応が愉快だったらしい。


 老人の姿をしたそれはハッハッハと笑いながらそう言った。


「待って待って、話が急展開すぎる!」

「急展開も何も、最初から俺は——」

「そうさなぁ。お前さんは初めから、ここのモノ以外に、ワシのことも警戒しておったなぁ。鋭い子よなぁ」


 清司の言葉をさえぎり、笑いながら言う老人の言葉に納得して、太壱は思わず頭を抱えた。


 清司は依然として老人——もはや老人と言って良いものか——に対して、全身の毛を逆立てて威嚇する猛犬の様になっているし、おそらくはこの店主の味方であろうモノ達は、清司を警戒してか先程より視線が鋭くなっている。


 しかし、どれだけ清司が怒り狂って暴れたところで、ここのモノ達には敵わないだろうし、下手をすれば自分たちの命が危ういという状況なのは目に見えていた。


 太壱は努めて冷静に、清司に声をかける。


「清司、落ち着けって。二人は外にいる。別にとって食われたわけじゃない」

「……コイツのやり方が気に食わねぇ」

「それはおれも一緒だよ。でも契約自体は断る事もできた。選んだのはあいつらだよ」

「………………」

「選択肢はあったんだ。それをあいつらは選んだだけだよ。じいさんはその選択肢を見せただけだ」

「……畜生!分かってるよ‼」


 怒鳴るようにそう言って、清司は老人に背を向けた。


 太壱が言ったことは本人も分かっていたのだろう。


 落とし所がつけばあとは落ち着くのを待つだけだ。


 清司は一度大きく深呼吸をして店を出ていった。


 残された太壱も後を追おうと踏み出したが、


「待ちなさい」


 何故か老人にそう引き止められる。


「……何でしょう?」


 そう言って振り向くと、老人は深々と頭を下げていた。


「え?」

「此度のことは悪気あってのことではない。それは分かってくれんかの」


 老人の申し訳なさそうな言葉に、太壱はどうしたものかと頬をかき、


「わかってますよ。きっと、あいつも」


 そう言って少し笑ってみせた。


 そうかと納得しながら老人が続け、


「それとな。あの子が持つ玉だが、あれは四つの中で一等力が強い。どうか支えてやってくれ、水縹の子」


 言い終わると同時。


「……え?」


 太壱は店の外にいた。

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