徴兵の波
3154年3月8日。私は、窓から差し込む朝日で目が覚めた。朝起き、ニュースをチェックする。
「今日のニュースです。今日、首相が前線を下げる判断をなされました。それによりA地区は交戦状態に入ったとのことです。昨日の死傷者は5名。研究者各位は新たな武器の開発に着手しているとのことです。そして、これからは18歳以上の人も徴兵制度に適用されることになるとのことです。これにより18歳から25歳までの国民が対象になり、総勢900万人にまでさかのぼると言われております。」
私はニュースを聞きながら、指先の震えを抑えられなかった。昨日まで他人事だった「戦争」が、今日から自分の現実になる。徴兵通知が届くのも、時間の問題だ。いや今日には来てしまうかもしれない。産業を停滞させないために若者を戦場に駆り出すのだという。この国は終わってしまっている。
そう考えながら一枚の写真立てを見る。そこに映っていたのは彼女自身ともう一人。彼女の親友であろう人物が映っていた。それを見てため息をつきながら言う、
「ここ数年は良くないことしか起こっていないな。」
そう言う声が漏れていた。こんなことを言っても何かが変わるわけでもないのだがその何かが変わらないか。そう考えてしまう。一握りの希望。それがやってくると信じて…
そんな朝の雰囲気を裂くかのようにチャイムが鳴る。こんな時間に誰が来るのか不思議に思いながらも外へ出る。そこにいたのはもう顔なじみになった、いつもの郵便配達員だった。郵便配達員は一通の手紙を手渡す。そして去って行った。
わざわざ手渡ししないといけない手紙とは何だろうと思いながらも部屋へ戻り手紙の封を解いた。そこに書かれていたのは、
「徴兵令状」
そう書かれていたのだ。日常が崩れ去っていく音が聞こえた気がした。赤く書かれた文字のはずなのに視界が白黒になっていく。運命に見捨てられた気がした。親友は死に、そして戦争の徴兵令。それらが私の心を支配していく。
「守山希子様」
「あなたは徴兵されました。つきましては、3154年3月6日の夜8時に軍事演習場へお越しください。」
そう書かれていた。名前は間違っていなかった。間違いなく私の名前だ。これが意味するのは、戦場に駆り出されるということだ。しかし私は従う他なかった…
――夜八時・軍事演習場
「皆さんお集まりいただきありがとうございます。皆さんにはこれからの予定を説明したいと思います。まず、今から約2か月程かけ訓練をしていただきます。こちらは、戦況によって左右される可能性がありますが基本的には今開発中の武器が完成するまでは訓練ということになっています。それからはそれぞれ実践投入が行われるでしょう。兵役は約二年ほど、又は戦争が終わり次第終わります。以上です。」
猶予はたったの2か月。この時間だけがまだ生きていられる時間だ。不吉なことは言いたくないが、この後生きていられる保証はないのだ。戦況によってはさらに縮まってしまうのだ。この説明一つ一つが私の世界を壊してゆく。
――希子
この名前に込められた希望と言う意味。それははるか遠いどこかに消えて行ってしまった。希望は残されていない。生まれたころとは世界は打って変わってしまったのだ…
それから程なくして解散となった。明日からは宿舎で寝泊まりするのだという。だから明日には荷物をかたずけておかなければならないのだ。外に出ると空気は冷え切っていた。空は薄く雲に覆われており月がぼんやりと輝いていた。まるで自分の未来を映し出しているかのような景色だった…
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