犠牲
3154年3月1日。戦時中の世の中。それは絶望しかなかった。それぞれが正義を掲げぶつかり合う。市民であったとしても、何もやっていなくともそこの国民だということだけで無残に殺されてしまう。トップの発言一つが世界を大きく変えてしまうのだ。そんな世の中で俺は発明、いや発見してはいけないことを発見してしまったのだ…
俺の発見は世界を変えた。血の流れない時代が来る。死にはしない、一か月後に粒子となって散ってしまう。そんな時代が来てしまった。やってきてしまった。
静かでまとまった雰囲気の研究所内に一筋の声が響く。
「東二博士。実験完了しました。結果は良好とのことです。あと、国から催促のメールが来ております。」
「国からか。そんなに急がせて何になるって言うんだ。早く研究から降りたいのに。実験結果を…」
手渡してくれた実験データには事細かにシミュレーション結果が並べられている。
「シミュレーション結果」
「回復速度・計測不能(規定値10,000を超えたため)」
「回避速度・常人の6倍」
「攻撃能力・握力60キロ」
「視力・10.0」
「視認範囲・10キロ」
「脚力・10,000n」
「跳脚力・20m」
「速度・50m3秒」
「感覚拡張・可能」
とてつもないデータばかりだ。
「はるかに常軌を逸している。完全にだれも止められないだろう。唯一互角に戦えるのは同じやつらだけか…これじゃあ歩く兵器じゃないか。命を燃やす力か…本当に必要なのだろうか?」
レフリオンを投与された生物は驚異的な力を手に入れる。圧倒的な回復力に、視認力。脚力や速度も段違いだ。
――たったの一か月のバーサーカー
それと引き換えに起こることは、人間と言う生物の域を超えた兵器だった。心も宿し、考えれるが、後戻りはできない。死に逝くだけなのだ。
「命は短くとも、燃え盛る瞬間に価値がある。」
そう思ってきたが、本当にそうなのだろうか?一か月、国に身を捧げて死ぬのを価値のあることと言えるのか…
「レフリオンは意図的に命を最高火力で燃やさせる物質だ。一か月。このタイムリミットと引き換えに。」
レフリオンは世界を崩壊へ導く悪魔なのか?それとも、人が堕落していってしまったからなのか…その真相は明らかにはなっていない。
俺は報告書を手に取り、実験データを綴る。夜の誰もいないこの部屋には、ペンと紙がこすれ合う音が響き渡った。
その音一つ一つが世界を変えていっているような気がした。静寂の中で、紙の上を走るインクが、世界の未来をゆっくりと染めていく。
科学は救いであり、同時に最も冷酷な刃でもある。救いの手とも滅びの刃ともなりうるのだ。その事実を、俺は今日ようやく理解した気がした。そしてその音が止むころには、この手が生み出したものが、どれほどの命を奪うのか
――その答えは、闇に落ちていった。紙の上に現れた黒きインクの海へと…
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