異常

 3154年2月25日。最近はずっと具合が悪い。視界もぼやけたままだ。視界不良なのは片目だけだったので、研究は問題なくできた。しかしずっと具合が悪い。私の体はどうなってしまったのだろう?


 今日は発電機の定期検診を行う。この結果でパーツを交換したり。システムを一新したりする。壊れた個所はあまり少ないだろう。それは、レフリオンによって常に修繕が行われているからだ。発電機のコアや冷却パイプなど細部までチェックするのだ。国は戦争が始まったから発電量を上げろなんて言ってくるが命令を突っぱねた。これ以上上げればエネルギー暴走が起こりかねないし、常にオーバードライブ状態になるのだ。危険性や耐久性から考えてこれが最高効率だと言った。そうしたら何とか承諾してくれた。


 私は発電機内部へと入る。中はそこまで暑くはなかった。きっとレフリオンが冷却しているおかげだろう。機械と言う機械を点検する。しかし異常は見つからなかった。


 「レフリオンの力はここまで出来るのか。これだと点検日程を延ばせるな。」


 そのことをメモしながら、発電エリアから出ていく。そして報告書を書く。


 「3154年2月25日」

 「第269回・点検」

 「異常なし。」

 「レフリオンを足せば稼働を継続できそうだ。」

 「熱も問題なく処理できていた。」


 そう書き、助手に書類を渡す。届けてもらうからだ。渡して、


 「持って行ってくれないか。できれば今日中に。」


 「分かりました。今から行ってもよいですか。あと、質問なのですがコンタクトしたんですか?右目のカラーコンタクトレンズ似合ってますよ。」

 

 「コンタクトなんてしてなかったと思うけど…本当にコンタクトしてるの?」


 「蒼いコンタクトつけれるんじゃないんですか?じゃあ外し忘れですかね…鏡を見てみたらどうですか?」


 そう言われて手鏡を手渡される。それで私は自分の顔を見た。あまりにもの驚きで手鏡を落としそうになった。


 「目が。蒼くなっている?」


 右目が、まるで宝石のように蒼く染まっていた。確かに、朝までは普通の目だった。鏡で確認したはずだ。だが今は、見慣れたはずの顔がまるで他人のもののように感じられる。目の蒼さは全く別の人を想像させるかのようだった。


 その瞬間体に激痛が走る。私は膝から床に崩れ落ちた。視界が大きく揺れる。照明の光が何本もの線になって目の奥でちらつく。片目の世界は、蒼い光の粒子で満たされていた。まるで空気そのものが変質したようだ。右目だけが、別の波長で世界を見ている。粒子が可視化されている。まだ意識はある。だが、体が動かない。動かそうとしても動かない。


 「博士。大丈夫ですか……誰か、救急を――」


 助手の声が遠くで微かに聞こえる。声がすべてぼやけて聞こえる。電話の発信音。靴音。呼吸の音。そのすべてがクリアに聞こえなくなっていく。


 右目の奥が熱を帯び、視界に細い線のような文字列が走った。未知の記号、数列、波形。まるで世界そのものが解析されていくように、視界がデータ化されていく。頭に視界の情報が荒波のように流れ込んでくる。


 痛みが引いていく。だが、それは安堵ではなかった。感覚が消えている。

心臓の鼓動すら、もはや他人の音のように遠い。


 助手の叫び声が遠のいていく。私は、床に倒れたまま、意識が飛んでいった…


 最後に見えたのは、蒼く光る右手。レフリオンのように青白く光っている手には、生気が感じられなかった。冷え切った手かのように蒼い。


 そして、闇がすべてを包み込んだ。

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