実験7・再生と崩壊

世界大戦の始まり

 3154年2月20日。この瞬間世界は変わってしまった。世界が変わったことを知ったのはそばに置かれてあったラジオから。


 「緊急ニュースです。世界は、大戦状態に入りました。この時をもって世界とは常に交戦状態にあるということです。」


 俺はそんなことを告げているラジオの電源を切る。こんなことを聞いていたって仕事が終わることは無い。そしてまた、仕事場に戻っていった。


 事務所に戻ると、机の上に山積みになった書類が目に入った。ページをめくる手が止まることはない。戦争だろうが、災害だろうが、俺にはやるべき仕事があるだけだ。

 

 窓の外では灰色の空が広がっていた。先ほどのニュースが告げられて、皆がそれぞれ思っていることだろう。しかし、変化が現れることは無かった。いつものように、スクランブル交差点は人で埋め尽くされていて。活気が灯っていた。ただ、それでも少し、世界の空気が重く、硬くなっていることだけは確かだった。


 「こんな時でも仕事かよ。うちはブラック企業なのか?」


 そう愚痴をこぼしながら俺に向かって言う、


 「ちょっと休憩行かね?」


 同僚の声に、俺は一瞬手を止めて窓の外を見た。灰色の空の下、街はいつも通り忙しく動いている。だが、その静けさの裏に潜む不穏さは、否応なく俺の胸に重くのしかかっていた。


 「…行くか」


 俺は重い腰を上げ、同僚と一緒に事務所を出た。外に出ると、微かな風が冷たく頬を打つ。人々の笑い声やスマートフォンの通知音が交差する雑踏の中、俺はふと、自分が何か重要なものを見逃しているような気がした。


 「でもさ、ニュースで言ってたじゃん。世界は常に交戦状態だって。俺たち、本当に今まで通りで大丈夫なのか?」


 同僚の声には、普段の軽口にはない不安が混じっていた。俺も答えに詰まる。目に見える戦争はまだこの街には届いていない。しかし、ニュースの言葉は確かに現実を突きつけていた。


 「大丈夫だ、たぶん…いや、分からないけど、今できることをやるしかない。」


 俺はそう呟き、街路を歩いた。そして、同僚はあきれながら言った、


 「お前は熱心だな。マジで政府は何を考えてるんだか。というか、戦争してることなんて知らぬが仏だろ。まだそこまでやばくないのに何で言ったんだろな。」


 そして、俺たちはコンビニの自動ドアをくぐった。目の前には、変わらぬ日常が広がっている。しかし、その光景の奥には、誰も予測できない戦いの影が確かに落ちていた。


 この世界は、もうあの頃のような笑いや雑談で溢れていた世界は戻ってくることは無いのだろう。だが、俺のやるべきことは、何も変わってはいなかった。

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