再生と異変
3154年01月13日。俺は観察を続けていた。もうそろそろ、実験は終了する。あれから一か月間、この細胞はダメージを与えても即時に回復した。生物が息をするように、細胞は息をするように回復していった。
「東二博士。どうしましょうか?」
「実験は大成功だ。一か月持った、いやもっと持つのかもしれない。予想していたよりはるかに、良い結果が出た。中和剤を、持ってきてくれ。実験はこれより終わりとする。レポートをしておいてくれ、この実験を世界に報告するんだ。医学にも応用できるはずだ。少ないが晴香博士への恩返しだ。」
そう言って、実験室へ入る。ゴム手袋をし、白衣を身にまとい、実験ゴーグルを装備する。レフリオンは、まだいまだに完全に判明した物質ではない。どんな危険性が潜んでるか分からない。だからこちらも最善装備で徹底している。
細胞を見る。細胞は既に蒼く染まり切っていた。その蒼さからは生命の息吹が感じられなかった。
「レフリオンの効果か。『Azure現象』とでも呼んでおくか。」
その瞬間目を見張るような光景が広がる。細胞が、端から崩壊していく。再生していた時と真逆の動きをしている。傷が生まれ、細胞は原子になり、そして最終的に粒子となって消えていった。
「消えた。崩壊したのか?まさか、寿命?これがレフリオンの副作用。絶大な力を手にするが、一か月で崩壊して消えて行ってしまうのか。桜が花びらを散らすように、細胞も粒子として散っていった。」
「皆に告ぐ。今すぐにこの事実を書き加えてくれ。最重要事項だ。絶対に忘れるな。これは副作用だ。これを知らずに使っていれば、一か月後には多数の死者が出るぞ。絶対にやめろ。この研究は世界のためなんかじゃない。崩壊の始まりだ。戦争が激化する。倫理的問題が止めれる域を超えてしまった。地獄が始まる、1900年の悪夢が蘇る。絶対に報告書を出すな。俺が報告書を書く、研究ノートを頼んだ。」
俺はそう言って慌てて走っていった。自室に戻り震える手で、報告書を書く。
「レフリオン再生実験・記録」
「レフリオンを細胞にかけると、驚異的な回復能力を得る。それと、細胞が蒼く変色する。この現象を『Azure現象』そう呼ぶことにする。投与から一か月が経つと、細胞が限界点に達し、崩壊。粒子となって散っていく。この状態を、『Azure:臨界点』そう呼称する。臨界点は一か月だ。投与から一か月、その瞬間に臨界点に達し、細胞は粒子状態にまで崩壊し消える。第一号より、10分後にレフリオンを投与した、細胞付近にレーダーを設置したところ、崩壊時に細胞はレフリオンとなることが分かった。つまり、レフリオンを使うと、一か月後に自らはレフリオンとなり散って無に帰す。これを止める術は今のところなし。」
俺は報告書を書きそのコピーを全分野の博士に送る。これは世界を揺るがす。初めてのレフリオンの弱点だ。やはり裏があった、万能物質ではなかった。代償はちゃんと支払われていた。物理法則が成り立ったのだ。この事実は一部の科学者を安心させ、そして一部を恐怖に陥れた。レフリオンを投与されると何があろうとも一か月後には死。しかも、自殺は出来ない。回復力が仇となり、死ねなくなってしまう。一か月のバーサーカー状態の後にやってくるのは死のみだった。
――再生の瞬間は美しい。しかし、限界を超えた生命は必ず、蒼く散る。
遺体は残らない。家族は死さえも実感できない。消えていった。無に帰した。その事実だけが淡々と告げられてしまうのだろうか?レフリオンは神の物質だ、現代の物理を凌駕した物質だ。神はいつも静かに見守っている。そして、必ず代価を払わせる。その代償は生の終焉。逃げることの出来ない死。それが追いかけてくる。
隆一博士も同じように感じていたのだろうか?この報告書が世界を変えてしまう。その実感を。この報告書は禁書だ。世に放ってはいけない代物。しかし世界はそれを許さない。隠し事がばれれば、非難され立場のなにもかもが崩壊するだろう。報告したとしてもそれは世界の命を縮めてしまっているようなものだ。いつかきっと戦争が起きる。死なない兵隊。蒼き兵によって…そのとき、空は蒼く染まり、誰も生と死の違いを見分けられなくなるだろう。レフリオンと言う悪魔の物質によって。
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