気象学の道
3153年12月11日。気象学の権威である填予博士は今日も研究をしていた。今は新たな研究課題が出ており、研究に追われているという。
「なんでこんなにたくさんの研究課題が一気に積みあがるんだ。1か月前には一つも研究課題が無かったのに。国はどういう政策を取ってるんだ?」
そう言いながら、私は実験の用意をしていた。今一番重要な研究課題は、『レフリオン』についてだ。私はこの物質に強い関心を抱いていた。
「この物質が起こす現象は、時間を逆行させているかのようだ。」
そう、隆一博士が述べていた。時間を逆行させている可能性もあるのだ。これが意味するのは、空気中に散らばっている水蒸気。それを採取しレフリオンをかけると、3Dを超越したモデルができるのではないかと踏んでいる。もし、時間が戻るなら気象についての理解がより深まる。予測がしやすくもなるかもしれない。この物質一つに、気象の謎を解くカギ。そして、気象予測という二つの大きな大役を背負っているかもしれないのだ。
レフリオン――
隆一博士が発見した新物質。もともとは冷却用に開発された副生成物であった。しかし、その性質は単なる冷却剤ではなかった。原子レベルで物質を再構築するという、いまだ説明のつかない現象を引き起こす。物理法則の根幹、すなわちエネルギー保存の法則を破ることなく『等価交換』の原理で物質を修復する。ちぎれた紙に滴下すれば、すべての断片が消え、一枚の完全な紙として再構成される。
そして私にとって、この物質の本質は別のところにある。
――気象だ。
このレフリオンを大気中の水蒸気、あるいは粒子モデルに適用すれば、従来のシミュレーションを超えた気象再現が可能になるかもしれない。過去の気象データを『再構築』することで、未来予測の精度を飛躍的に高められる。もし空気の一滴に『時間の記憶』が残されているなら、それを読み解くことができるのは、レフリオンだけだ。灰にだって物体の情報は刻まれ続けていた。気象、いや水蒸気にだって情報が刻まれているはずなんだ。
私は、とある容器を取り出す。そこには蒼白い物質が納められていた。この物質こそが『レフリオン』だ。気象学のカギとなるであろう物質だ。慎重に取り出す。レフリオンは非常に不安定な物質だ。あまり安定しているとは言えない。
私は防護服に着替える。そして、エアロックを抜け実験場へ向かう。エアロックを用いる理由は気圧を操作できるようにするためだ。そして外気と触れずに全く別の環境を作り出すためでもある。レフリオンによる高度な粒子シミュレーションが可能になれば、需要はもっと高まるだろう。いつかは、このエリアに台風を発生させたりして危険性を計測することだろう。
私は既に、この中に1週間前の空気を充填してある。1週間前を選んだ理由は、降雨したからだ。果たして雲は生成され、当時の状況が再現されるのか?こちらの手元には既に当時のデータを保管してある。それと適合するかを測るのだ。
私はレフリオンの容器を開けレフリオンを空気中に放つ。蒼く光る粒子は空気中に拡散し、ほんのりと靄が掛かったかのようだ。ここからは経過観察だ。今この瞬間から一ヶ月間記録を付け続ける。何が起きるか、どんな変化があるかを24時間体制で、確認し続けるのだ。
私は、実験室を後にした。ガラスの向こうでは、青白いレフリオンがゆっくりと宙を漂っていた。それは霧でも光でもなく、記憶の残響のようだった。空気が、雲が、世界が、自らの過去を語り始めようとしている
――そんな錯覚に囚われる。
私は振り返らずに歩いた。だが、背後で確かに感じた。
あの空間の中で、レフリオンによって記憶が、情報が呼び起されていくような大気の変化を…
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