組織の策略2

 3153年12月07日。「ボス。隆一博士と言う人物がレフリオンについて新たな発見をしました。レフリオンは、修復不可能な物質や化学変化してしまったものを、再生成し元の状態に戻せる能力を持っているのです。レフリオンは、不可逆現象を発生させれるのです。」


 「そうか。良い報告だ。レフリオンについての理解が深まってきた。レフリオンは時間を逆行及び修復、復元が行えるのだ。これを使えばどんなことにでも応用できるだろう。正義から悪まで幅広く。私たち組織が使うのは邪道。悪の道だがな。」


 「軍用化の研究を進めろ。脆いものを強化できる。長時間使えるようになる。発明すれば軍関係者は喉から手が出るほど欲しいだろう。」


 そう言って、一同は静かに散っていった。重い金属製のドアがゆっくりと閉まると、研究室には再び不気味な静寂が満ちた。空気は乾いて重く、微かなオゾンの匂いが漂っている。照明は白く冷たく、床にはそれぞれの機構につながる電源プラグが張り巡らされていた。


 壁一面にはモニターが並び、絶え間なく数値が流れている。実験結果などを可視化しているのだ。いくつかのモニターは砂嵐を映し、音もなくチリチリとしたノイズを撒き散らしていた。そしてある計器は針が止まることなく動き続けていた。その下には、


 「静電気・磁気検知計」


 そう書かれていた。この機器だけが絶え間なく動き続けていた。この周辺、いや実験室全体に静電気が散っているのだ。実験テーブルの横に置かれている小さな小瓶には、『レフリオン』とラベルが張られており、


 「危険物につき取扱注意。使用数などは明確に記入すること。体や物質に異変が発生した場合は必ず報告書を書くこと。」


 そう書かれていた。床には、先ほどまで行われていた実験の痕跡が残っていた。辺りは黒く焦げ、静電気が発生していた。それはレフリオンが残した『軌跡』だ。肉眼ではただの埃のように見えるが、特殊な装置を通せば光の線となって現れ、時間をなぞるように空間を走っていく。研究員たちはそれを「レフリオンマーカー」と呼び、どの素材を使い、どの瞬間を再生成したのかを解析していた。


薬品棚の奥からは、異なる匂いが混ざり合う。硫黄のような刺激臭と、どこか甘い香り。床に落ちたガラス片が照明を反射し、まるで星屑のように瞬いていた。空調は絶えず低い唸りを立て、わずかな静電気を部屋の隅々まで運んでいる。誰もいなくなった今も、研究所そのものが呼吸しているようだった。


レフリオンが反応している足跡──軌跡。それは確かに存在している。

この研究所の壁や床、空気の粒子にまで染み込むように、時間の痕が刻まれていた。ここでは時間と言う概念はない。昼夜問わず実験が続けられている。倫理の限界と狂気が入り混じるような、そんな研究室だった。


 

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