レフリオンの研究記録2
3153年12月01日。俺は今日もレフリオンについて理解を深めようとしていた。今までの実験などで分かった事は、
「冷却することができる。」
「物を復元できる。」
「それぞれの現象の因果関係は不明。」
こんだけしか分かってないし、そのうちの一つは疑問だ。分かったことではない。しかしこれを解明するのが俺の仕事だ。レフリオンを発明したものとしての、一つの使命だ。
今日は復元効果について研究を重ねる。
「どこまでの復元効果があるのか?」
「どれほどの距離のものまで復元できるのか?」
きっとこの二つが解明されることだろう。いや、それ以上の発見があるかもしれない。これによって分かる事実がどれほどの大発見か。この事実によってどのように変わってしまうのか?悪用されるか。それとも、医学や科学の分野に貢献されるか。はたまた、その双方が影響されるのか。その可能性は無限大のように広がっている。
今日も色々な物にかけてみる。復元できると言う特性を利用し実験を行う。今からやるのは、燃えた物体の復元だ。つまり、灰を紙にできるのかと言うことだ。
俺は燃えカスにレフリオンをかける。そして経過観察をする。レフリオンは全体に染み渡る。そして、摩訶不思議な現象が起きる。灰が消えたのだ。
「灰はどこに行ったんだ?消えたのか?なんで消えたんだ?復元効果が主反応ではなかったのか?これまでの研究記録が帳消しだ。」
俺はついつい慌ててしまった。見たことない現象を目撃してしまったから無理でもない。冷静さを取り戻すために深呼吸をする。その瞬間何処かから驚きの声が届いた。
「私の研究報告書が消えた。さっきまであって、この10秒間で無くなってしまったの。誰か知らない?」
「報告書が消えた?そんなバカなことあるはずがない。物理はどうした?どこかに置いていったか?物理法則が働いているこの世界で急に消えることはないはずだ。机の下にでも落ちたんじゃないか?見つからない?まさか、」
俺は実験テーブルに目をやった。そこが、淡く光っていた。いや正確には、光っているというより、レフリオンが反応しているように見えた。金属の天板が、鼓動のようにかすかに脈打ち、光が内側から漏れ出している。レフリオンの反応だ。いつもなら淡青色の冷たい輝きなのに、今日は違う。温度を感じる。反応しているからなのか。それとも、ただの物質でないからなのか?俺にはわからなかった。
光は静かに渦を巻き始める。そこから、微細な粒子がふわりと浮かび上がる。砂のようでもある粒子たちは重力を超越していた。そしてそれらは一点へ向かっていく。
俺は息を呑む。粒子たちは次第に秩序を持ち始めた。社会が作られていくように、バラバラな動きがそろっていった。無秩序の粒子たちが規則正しく並んでいく。それはまるで設計図があるかのように。細い線が現れ、曲線を描き、光の中に輪郭が生まれていく。
「紙」
だ。俺は直感的に思ってしまった。その形状薄さそのすべてがまるで紙を作っているようだった。
俺はその時に思い出す。実験の時に燃やした紙が。あれが今、逆再生のように再生している。俺はビデオを見ているようだった。
テーブルの上では、さらに異様な音がしていた。乾いた擦過音。それが何重にも重なり、やがて風のような音になっていった。音が生まれ、光が震え、粒子が繊維を成していく。繊維が面を作り、面が質量を持ちはじめる。
俺はその場から動けなかった。指先が震え、汗がにじむ。時間の感覚が崩壊していた。数秒なのか、数分なのか、もう分からない。ただ目の前で、物理法則の根幹が覆されていくのを見ていた。確実に見たことのない現象。そして崩壊したはずの紙の繊維。それらが復元されていっていた。
「こんな…馬鹿な。化学変化で紙は灰になってしまったんだ。可逆現象が発生しているのか?レフリオンは、復元、そして変わり切ってしまった物質でさえも修復できてしまうのか?」
呟いた声が、光に吸い込まれて消える。粒子の群れはついに輪郭を閉じ、空気が小さく弾ける音を立てた。そして紙がふわりと俺の手に乗る。
俺の手の上には、確実に燃やしたはずの紙があった。時間が逆行しているようだった。
乗っていたものを見る。一枚の報告書。研究所の透かし入りの白紙。いや、白紙ではない。文字がびっしりと印刷されている。誰かの名前、日付、署名……。
目を凝らす。見覚えのある筆跡。そうだ。これは――さっき同僚が「消えた」と言っていた報告書だ。つまり、レフリオンは灰から情報を得て、紙を吸収し、再生成したというのか?俺が燃やしたものとは別の内容が刻まれていた。
「信じられない。こんな現象が起こるなんて。なんて物質なんだ。レフリオンは。修復した。灰になっていた紙を。」
同僚に渡そうとする、その時もう一枚紙があることに気付いた。紙をめくる。そこにあったのは確かに俺が燃やした紙。それが復元していた。文面も変わっていない。まったく同じようにできていた。
報告書は、まだ微かに静電気を帯びていた。そして辺りには、あの時と同じ。電気が放電されたときに匂う。焦げたにおいがしていた。
レフリオンをかけた場所に目をやる。そこには、さっきまであった灰すら残っていなかった。跡形もなく、完全に消滅している。
灰は消え、報告書が復元された。同僚の報告書が型となり復元された。これは単純なものの復元効果では無いと知った。少し前の物をここにレフリオンで呼び込んだかのような。物の時間が逆行したかのような。そんな現象が起きた。
「…これが、レフリオンの『復元能力』なのか?」
声が震える。俺でも気づくほどだ。俺の頭の中で、常識と理論と恐怖がせめぎ合う。復元でも、移動でも、再生でもない。
「呼び戻し。コピーだ……」
レフリオンは、物質の構造を修復できる。そして、それがいかなる状態であっても。きっと灰がひとかけらでもあれば復元できるのだろう。
俺は手元に残った報告書を見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。レフリオンの光はすでに消え、テーブルは静まり返っている。
「灰の中にも情報は残る。物質はそれを忘れなかった。設計図・情報それが灰を紙へ戻したんだ。」
しかし、研究所の職員が驚いたことだろう。このこれまでの法則を凌駕したかのような、物質『レフリオン』の復元効果を…
俺は、報告書を書き始めた。書く手が震える。あんな現象を目の当たりにしたのだ。目の前で復元されていった、その瞬間を。冷汗が頬を伝う。
世界が変わる。この真実によって良くも悪くも。この事実は、禁断の果実だ。人々に教えてはならない。与えてはならないそんな真実だ。でも見てしまった以上、俺は書くしかない。この文字一つ一つが世界を変えていく。
そう思ってしまうと、手は震えるばかりだった。世界の大きな転換点だった。
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