朝日発電所
3153年11月23日。朝日発電所内部。
今、私は発電所の冷却システムを一新している。国が予算を出してくれるというのだから、断る理由はない。老朽化が進んでいた設備が丸ごと更新され、性能も効率も大幅に向上する。技術者として、これほど胸の躍る仕事はそう多くない。
長年使い込まれた配管を外しながら、私は思わず独り言を漏らした。
「この冷却液……レフリオンで作られてるんだっけ。熱を吸収して、なおかつ電気まで生み出す。ほんと、都合がよすぎる物質だな」
熱を奪い、エネルギーに変換する。理屈としては理解できる。だが、理論と実物の間には、普通もっと多くの『無駄』や『制限』があるはずだ。それが、レフリオンにはほとんど感じられない。
「まあ、この物質のおかげで発電所をここまで刷新できるんだ。感謝するしかないか。」
そう言いながら、部品を一つずつ取り外し、新しいユニットへと交換していく。今回導入するシステムは、従来の冷却方式とは根本的に異なる。冷却液タンク自体は流用できるが、冷却エリアには新たに『吸電用モジュール』を埋め込む必要があった。レフリオンが吸収した熱エネルギーを、即座に電力として回収するための装置だ。
設計書を思い返す。
理論上は、避雷針のような仕組みでも代用可能だとされていた。
「……いや、それはさすがに物騒すぎるだろ。」
雷用の設備を、常時稼働する発電システムに組み込むなど、正気の沙汰とは思えない。導線や変電所モジュールの強化も必要になるし、コストもリスクも跳ね上がる。結局、最も無難な選択として吸電用モジュールが採用された。
今は、古い冷却パイプを一本ずつ分解している。この内部にも、小型の発電ユニットを埋め込まなければならないからだ。スペース、耐圧、メンテナンス性。考慮すべき制約は多く、好き勝手に設計できるわけではない。
「まあ、好きにやれたら事故が起き放題になるか……」
自嘲気味に笑い、作業を続ける。
久しぶりに、本格的な機械いじりをした。時間の感覚が薄れ、気が付けば外はすっかり暗くなっていた。照明に照らされた配管と制御盤だけが、無機質な影を落としている。
私は今日の進捗を端末にメモし、工具を片付けた。主電源を落とし、非常灯だけが点る中を歩き、発電所を後にする。
振り返ったとき、ふと目に留まった。
暗い施設の奥、透明な配管を満たすレフリオンが、ぼんやりと淡い光を放っていた…
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