とある組織の策略1
組織の人間たちは、今日も研究に没頭していた。白衣に身を包んだ研究者たちが行き交う広大な施設の中央には、机という机に書類が積み上げられている。天井まで届きそうなそれらは、単なる事務作業の結果ではない。無数の失敗と再試行
――つまり、実験の回数そのものだ。
書類の束から滑り落ちた一枚が、床に広がる。その表紙には、無機質な文字でこう記されていた。
「レフリオン・兵器的利用価値」
この組織が、レフリオンを単なるエネルギー資源としてではなく、兵器として評価しようとしていることは明白だった。それが自らの戦力として使われるのか、それともどこかの国家、あるいは軍需企業へ売り渡されるのか…
――そこまでは分からない。だが、いずれにしても、倫理や安全性が最優先事項ではないことだけは確かだった。
実験室の奥で、ボス格と思しき人物が足を止める。年齢は五十前後、鋭い目つきで研究員たちを見渡し、低い声で告げた。
「実験はどうだ。何か知見は得られたか。」
誰もすぐには答えない。沈黙に苛立ったのか、彼は続ける。
「今は開発論争の真っただ中だ。同業者も、軍も、同じようなことを始めている。もたもたしている暇はない。速やかに成果を出さなければならない。」
言葉を切り、わずかに口角を上げる。
「この論争に勝った者が、世界の覇権を握る。そういう時代だ。」
そう言うと、彼自身も白衣を羽織り、実験台の前に立った。かつては静まり返っていたこの施設は、今や騒音に満ちている。機械音、指示の声、焦燥を孕んだ足音。まるで巨大なショッピングモールのような喧騒だ。
原因は明白だった。レフリオンの設計図は公開されていていたからだった。
「共有は進歩を生む。」
そう信じた者たちの理想は、裏切られた。情報は瞬く間に拡散し、研究機関だけでなく、軍関係者や民間の武装組織にまで渡った。それは組織を活気づける一方で、制御不能な競争を生み出してしまった。
皆が血眼になって探している。本当に存在するのかも分からない『兵器的価値』を求めて。
だが、誰もが直感的に理解していた。この物質が、世界の力関係を根底から覆しかねないことを。
物理法則を嘲笑うかのような性質。エネルギー保存すら怪しくする挙動。
レフリオンは、希望であり、同時に爆弾だった。
この研究の先にあるのが、繁栄なのか破滅なのか。その答えを知ろうとする者は、まだ誰もいない。
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