実験2・レフリオンの真価
新物質『レフリオン』
3153年11月10日。実験書類を提出してから、まだ一週間も経っていなかったというのに、
――レフリオンは正式に認可された。
あまりにも早すぎる判断だった。
俺は最低でも数か月、下手をすれば一年以上は審査にかかると踏んでいた。それが、わずか数日で結論が出た上、今月20日には全国規模での運用が始まるという。
研究者として評価されたこと自体は悪くない。だが、この速度には、どうしても違和感が拭えなかった。
レフリオンは、世界が長年抱えてきたエネルギー問題を根底から覆す可能性を秘めた物質だった。
元々は、発電後の冷却効率を向上させるために設計されたものにすぎない。ところが今や、それは世界のエネルギー事情そのものを塗り替えかねない存在となっていた。
しかも誕生の経緯は、計画的な研究成果ではない。実験中に生じた副反応
――完全な想定外から生まれた偶然の産物だった。
だが世界は、その「偶然」を見逃すことは無かった。
レフリオンの存在が公表されるや否や、各地の研究所が一斉に解析と応用研究に乗り出した。論文、試作機、シミュレーション結果が雪崩のように発表され、技術の進歩は異常な速度で加速していった。
一方で、表に出ない視線もまた、確実に増えていた。軍関係者、巨大企業の非公式部門、そして裏社会の人間たち。彼らにとってレフリオンは、クリーンな未来を支えるエネルギー源などではない。戦場を一変させる新兵器、あるいは支配の道具としての「物質」だった。
その特殊な性質は、あまりにも都合が良すぎた。だからこそ、多くの組織の欲望を引き寄せてしまったのだ。
俺自身も、応用法の研究を続けている。レフリオンを発明した者として…だが正直に言えば、レフリオンの全容はまだ何一つ掴めていない。現在確認されている反応が、本質なのか、それとも表層的な副反応に過ぎないのかすら判断できない状況だ。
危険性の評価も不十分だ。
どれほどの効果を発揮するのか。そして暴走の可能性はないのか。極限状態で何が起こるのか。分からないことだらけだった。
現時点で確実に言えるのは、たったの二つだけ。
一つ、製作コストが異常なほど安いこと。
そしてもう一つ、熱エネルギーを吸収することで電気エネルギーへと変換する性質を持つという事実だ。
俺の研究所では、発電装置、輸送機器、防護材など、考えうる限りの物にレフリオンを組み込み、反応の確認を繰り返していた。数値は理想的で、結果だけ見れば「完璧」と言ってもいい。
だが、
――それが、かえって不気味だった。
あまりにも都合が良すぎる。まるで、人類が使うことを前提に設計されたかのように。
レフリオンの本当の真価は、いまだ闇の中にある。それが希望となるのか、それとも破滅の引き金になるのか。この時点では、まだ誰にも分からなかった。
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