『レフリオン』
化琉壮一
実験1・偶然の産物
新時代の物質
遠い昔、アルフレッド・ノーベルはニトログリセリンの液漏れに気づいた。それは、誰もが恐れていた「不安定な液体」だった。わずかな振動で爆発し、命を奪うその物質を、彼は『制御』しようとした。そして、砂と珪藻土を混ぜ、爆薬を「握れるもの」に変えた。それが、
——ダイナマイトの誕生である。
世界は彼を賞賛した。だが同時に、彼の発明は無数の命を奪った。科学は世界に革命をもたらした。しかしそれと同時に、破壊へも導いた。
「科学は人を救い、人を殺す。紙一重の境界の上で進化する。」
ノーベルが「平和賞」を創設したのは、自らの発明が生んだ矛盾を償うためだったという。だが俺は、その『矛盾』を嘲笑うことは出来ない。なぜなら俺も、彼と同じ過ちを——いや、それ以上の罪を、
——犯してしまったからだ。
俺の研究もまた、偶然から始まった。だが、偶然は祝福ではなかった。祝福であり、また世界の崩壊の始まりでもあったからだ…
3153年11月5日。今日も俺は、研究所で新たな発明に没頭していた。目的はただ一つ。次世代発電炉のための、全く新しい冷却液の開発。
現代の発電方式は、かつての比ではないほどの出力を誇る。それに比例して、吐き出される熱量もまた、もはや自然の摂理を超えた領域に達していた。
海水冷却など論外だ。一日で数千リットル、いや、それでもまるで足りない。
だから俺はここにいる。熱を制する、新しい物質を生み出すために。
すでに複数のプロトタイプは完成していた。そして今日は…
――それらの実証実験を行う日だった。
この時点で、俺はまだ理解していなかった。この実験が、ノーベルのあの日と同じ「越えてはならない一線」を、俺自身に踏ませることになるなどとは…
――同日。研究エリア内。
研究所にある実験エリアへと足を運ぶ、そこでは既に実験の用意が整っていた。一人の研究員が話してきた、
「実験の用意は出来ております、隆一博士。次のご指示を。」
「分かった。10分後に実験を開始する。そう言っておいてくれ。」
「分かりました。作業者各位には私が伝えておきます。」
そう言って研究員は走って行った。俺は、制御盤の計器類を念入りにチェックする。一つも逃さずに念入りに確認する。確認不足で事故など起こしたくはない。それに今回の実験は莫大な熱が生じる。少しでも異変が起こればすぐに中止しなければいけない。
すべての計器類をチェックし終えた。時計を見ると開始まであと二分ほど残っていた。実験手順をもう一度チェックする。
「実験計画書・使用試験」
「実験日・3153年11月5日。」
「実験内容・新たに作成した冷却用物質の試験。結果によるが、優秀な結果が残れば採用。計器類を確認すること。エリア内の温度上昇を検知した場合、速やかに実験は破棄、停止させてください。」
俺は計画書を閉じ、実験エリア内の研究者たちに指示を出す。
「実験開始。機械を作動させてください。炉内の温度が100,00℃に達した場合こちらに報告をしてください。」
大きな機械音が鳴り響く、炉が稼働を始めたようだ。こちらでも念入りにパラメーターをチェックする。
「炉内、目標温度100,00℃に達しました。」
「炉内、圧力正常。温度上昇、安定しています…加熱成功です。」
「今から、冷却液の試用を始めます。」
俺もサーモグラフィーで確認する。温度が下がって行っているが、スピードが遅い。きっと冷却速度が足りないのだろう。
「実験中止。二つ目の物を。」
そう言うと新たな冷却液がかかる、みるみると温度が下がっていく。最終的には目標温度まで約1分で下がった。冷却性能は確かなものだった。これは実用的なのではないだろうか。新たな冷却液として…
そう思った矢先、パラメーターに異常が出始めた。温度は下がっている、圧力は少し上がった。この部質の異常点はそこではなかった。実験エリア内でエネルギーが発生しているのだ。俺は何度も確認した、計器類の故障ではない。実験エリア内では放電していた。パラメーターも電気があるかのように反応を示している。空気が焦げるような匂いが立ち、青白い閃光が走った。壁の先、実験エリアでは今もなお熱を吸収し電気を生み出しているのだ。
この部質は特別なものだった。これを使えば発電でエネルギーを生み出しその熱を冷却するときに熱が電気になったのだ。この部質を用いれば冷却問題も解決し、さらに追加で電力を生み出せるのだ。
俺はこの実験の報告書を書きそこに「物質名『レフリオン』」そう書いた。レフリオンは冷却と共にエネルギーを生み出すまさに偶然から生まれた奇跡の産物だったのだ。レフリオンからは新時代がやってきたのを告げるように青白い光が輝いていた…
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