橘さんの髪占い

「立花隆っす。よろしくっす」


目の前に座る生徒はそう答えた。立花隆、事前の情報によると帰宅部らしい。そのため部活がらみの相談ではないだろう。


「実は相談がありまして」


そりゃそうだろう。でなければなぜこの生徒はここにいるんだって話だ。受付箱に紙を入れたのはあなただろう。


「同じクラスにいる橘さんって子がいるんすが、その子に恋してまして。どうすればいいでしょうか」 


どうすればいいか。一体何をどうすればいいのだろうか。告白の手伝いか、告白するための勇気を与えることか。なにをすればよいのだ。


「ちなみに何についての相談ですか。そこを具体的に話してくれないと、私も占うことが出来ないのですが」


「何についてって。そんなの決まっているだろ。付き合いたいんだよ。橘さんと。上手くいくか占ってくれよ」


どうやら話を聞く限り告白することは決まっているらしい。その結果が上手くいくのか。それを占ってくれとのことだ。


おそらく立花は告白してもうまくいかない。直感がそう言っている。しかしそういったとしても立花には伝わらないだろう。


「念の為に聞きますが告白することは決めているのですよね」


「あぁ、そうだよ。するよ」


「ちなみにどのように告白するか教えてもらってもいいですか。それも占いに必要な情報でして」


ちなみに今回は聞かなくてもいいのだが、あえて聞く。どう考えても立花が橘さんと上手くいくとは思わない。橘さんと立花は立場というかタイプというか、位というか。とにかく釣り合っていない。


「明日体育館裏で告白するつもりだ。朝下駄箱に手紙を入れてね。放課後体育館裏に来てくださいってね。どう、イケてるでしょ」


なるほど。放課後に体育館裏に来てくださいか。告白や果し状の定番パターンだ。私は少し古い告白の仕方だと思ってしまった。まぁいいか。そんな方法でも。上手くいかないはずだけど占うか。


ちなみになぜさっきから上手くいかないと私が言っているのか。それは橘さんには好きな人がいる。その人は立花ではないという事実を知っているからだ。 


この情報はメイドの如月が持ってきたわけではない。私が仕入れた情報だ。女のコイバナで知った。


私には如月以外にも情報網を持っている。女のコイバナ。そこからの情報は正しい場合もあるがガセもある。


ふざけた情報、面白がった噂を流すことによって相手の立場を危なくするなんてことは学校内でも起こっている。


今回の橘さんに好きな人がいる。それは今目の前で私に相談をしに来ている立花ではないという情報も正しくないかもしれない。しかしそれでもいい。立花は橘さんが好きになる相手ではない。


「まずですね、あなたが書いた手紙。それはいたずらと受け取られる可能性はないとは言えないです。もしもいたずらと思われたら放課後にあなたが体育館裏で待っていたとしても彼女は現れないと思います。だから手紙で言うのはやめた方が良いと私は思います」


立花は無言で聞いていた。


「私の忠告を聞かずにその方法で行うなら一つだけ占い結果を伝えます。明日橘さんが髪を結んでいなかったら橘さんに言いに行ってください。今朝下駄箱に入れた手紙はいたずらだったと。橘さんと話したいためにしたんだと。


髪を結んでいたら計画の通りに告白してください」


「髪を結ぶか結ばないかの占い。あんた馬鹿なのか。橘さんは長髪だぞ。この学校では長髪は結ぶ。結んでいないと先生に注意される。そういう校則だろ。橘さんが髪を結んでいないなんてありえないだろ」


そう、長髪は結ばなければならない。それは私も知っている。


「あんたに相談したのが馬鹿だった。俺は計画通りに告白することにするよ。じゃあな」


立花は馬鹿にしながら図書準備室を後にした。



「お嬢様、本日予定通り橘さんが美容室で長髪をお切りになられました。おそらくお嬢様が聞いた通りイメージチェンジしたかったのだと思います」


メイドの如月がそう報告してきた。以前橘さんはイメージチェンジをするために近々美容室に行くと言っていたのを盗み聞きした。


それが今日だというのも知っていた。そのため立花にはあの占いを提案したのだ。


明日橘さんは髪を結ばない。なぜなら長髪ではないから。短髪なら結んでいなくても教師には注意されない。なぜなら校則違反にならないからである。


「如月、ありがとう。確認しに行ってくれたことにもこの報告にも」


「いえ、お嬢様の頼みですから。可能な頼みなら応えますよ」


「ちなみに如月、橘さんは○○君に好意をいだいているとの情報の方は」


「あー、その情報なら前は正しかったと伝えておきます。今はその方ではなく別の方に好意をいだいているらしいですよ」


「それってもしかして立花」


私は慌てて如月に聞いてしまった。


「いえ、違います」


それは良かった。もし今橘さんが立花に好意をいだいていたら私は余計なことをしてしまったことになるからだ。



「天海、お前のいう通りだった。お前が怖い。橘さんはショートにしたんだな。あの髪を見て鳥肌がたったよ。鳥肌がたっていたずらだっていうことも出来なかったから予定通り放課後に体育館裏に行ったよ。そしたら橘さん来てくれてさ。ショートヘアー似合っているよって伝えた。ありがとうだって苦笑いされながらいわれたよ」


立花にこう報告を受けたが、私にはどうでもいい報告だった。ちなみに立花は手紙に(好きです。放課後体育館裏に来てください)と書いたらしい。体育館に呼ぶ必要性を感じないのは私だけだろうか。

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