爪楊枝占い
「新木舞です。よろしくお願いします」
目の前にいる生徒は自己紹介した。まぁ事前に情報を仕入れているので名前くらいは分かる。
私は占い同好会の唯一のメンバーである。この学校には部活動しかない。
同好会はないのだが特例で作られた。それは私がお嬢様であり親のコネを使ったからである。
図書室の貸し出しカウンターには受付箱を置いてある。その箱に占いして欲しい人は名前と希望日時を書いて紙を入れる。
昨日覗いた時に紙が入っており、その紙に書かれていた名前が新木舞だった。
「私はサッカー部のマネージャーをしています。今日は恋の相談に来ました」
新木先輩はそう言った。私は1年生、新木先輩は2年生のため先輩になる。
「私には好きな人がいまして。それはサッカー部のキャプテンなんですが、そのキャプテンに告白したくて。
でもフラれるのが怖くてしたいけど出来ないんです。私どうすればいいのでしょうか」
私の占いに来る人は恋相談が多い。フラれるのが怖いって人も多いし告白するか迷っている人も多い。
「分かりました。ちなみになのですが、キャプテンに彼女がいるなんてことはないですよね。
もしそうなら勇気を出して告白したとしても無駄になってしまうと思いますので」
まぁそのキャプテンが女たらしで複数の女子と付き合うなんてことなら告白してもいい。
でもおそらくそのような人ではないだろう。私が勝手に思っているだけだけど。
「いないはずです。キャプテンは今サッカーに熱を注いでいて恋愛をしている余裕はないはずです」
ならあなたが告白しても意味ないのではと思ってしまったが黙っておいた。
せっかくのお客様だから。余計な一言は言わないでおこう。
「分かりました。では占い方法を教えます」
「はい。お願いします」
「新木さんはいつも食堂で販売されているお弁当を食べていますよね」
「はいそうですが、それが何か」
彼女はなぜそんなことを聞くのかと思っているだろうが今回必要な情報なので聞いた。
「いえ、その時いつも割り箸を貰うはずです。その割り箸は袋に入っている個包装タイプですよね」
「そうですが」
これも必要なことなので確認した。割り箸は個包装になっているものもあれば、なっていないものもある。今回は個包装になっていることが大事なのだ。
「その個包装タイプの割り箸にはですねタイプが2種類ありまして。まぁ簡単にいえば爪楊枝が入っているパターンと入っていないパターンなんですが」
「はぁ」
新木さんはこの人いつまで割り箸の話をしているのだろうと思っているだろう。多くの人にとって食堂の割り箸の話をすることはないだろうから。
「もし明日いつも通りに食堂で弁当を頼むのならもらった個包装タイプの箸に注目してください。
中に爪楊枝が入っていなかったら告白しても問題ないでしょう。もしも入っていたら告白しない方がいい」
「それはなぜですか」
まぁそう聞いてくるだろう。爪楊枝で占うなんて他で聞かないだろうから。
「爪楊枝の先端があなたのキャプテンへの想いが入ったハートを割ってしまうからです。
せっかく告白したのにハートが割れてしまっては届く想いも届きませんから。
だから爪楊枝が入っていたら辞めた方がいいと思います」
新木先輩は分かりましたと小さい声でいうと席を立とうとした。
「これはあくまで占いです。当たるかもしれないし当たらないかもしれない。
もしも私を信じられないのなら爪楊枝が入っていても告白したいと思うのならしてもいいと思います。
ただ失敗してとしても責任は取りません。後貰った箸を友達と交換するなんてことはしない方がいいです。意味がないので」
「やはり噂通りと言いますか、天海さんの占い方法は独特ですね。でも少し面白いかも。
私は箸を友達と交換したりしません。その時貰った箸、それが私の運命を決めるものですから。
交換したら意味ないことくらい分かりますから」
新木先輩はそう言うと図書準備室を後にした。
「お嬢様、サッカー部のキャプテンは同学年の3年生のサッカー部マネージャーに恋しています。またそのマネージャーもキャプテンに恋しているという情報が入ってきました」
帰宅してしばらくした後にメイドの如月がそう報告してきた。
「如月、ご苦労様です。明日は変装して新木先輩に爪楊枝入りの箸を渡して下さい」
「かしこまりましたお嬢様」
私はこのようにメイドから情報をもらう時もある。その情報はほとんど正しい。
今回は新木先輩に爪楊枝入りの箸を渡すことで新木先輩がフラれるしまうリスクをなくすことにした。
悲しい思いは極力しない方がいい。
後日相談箱に新木先輩からの手紙が入っていた。
爪楊枝入りの箸をもらったので告白するのを辞めたことが書いてあった。
良かった。
彼女はいつか知るかもしれない。サッカー部のキャプテンと3年生のサッカー部マネージャーが両思いであるということを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます