第二戦 太陽系地区大会!



 戦艦学園競技会とは、銀河帝国軍が運営する戦艦学園グループの各校が校舎型宇宙戦艦で鎬を削る大会である。

 

 Aブロック決勝。白鷺高校しらさぎこうこうVSカイエン高校。


 冥王星南極側空域で行われたその試合。先に動いたのはカイエン高校からだった。


 白鷺高校の3Dディスプレイに映る機影は四つに増えていた。その全ての反応がカイエン高校校舎だと主張している。


「反応の分析!本体を炙り出したら、そちらへ突撃します!」


 漆黒の宇宙空間ではよく目立つ、真っ白でほぼ立方体の形の校舎の最上階、ぴょこんと頭一つ飛び出した部分に、放送室を兼ねた宇宙戦艦白鷺高校のブリッジがある。


 そのブリッジに艦長である2年生の如月弥生の声が響く。開戦に思わず拳に力が入った。小柄で童顔、髑髏の髪留めで二本縛ったおさげ髪がその幼さを強調している。


 白を基調として水色のワンポイントの入った白鷺高校の制服が少し大きい。これ以上小さい制服がなかったので仕方ない。それもまたより弥生を幼く見せる。


「結果出ました!こちらから見て左から二番目が本体、他は囮です!」


 インカムをつけてコンピューターを操作する門脇操が報告する。眼鏡をかけて、長い髪の毛を三つ編みにしている。


 操は素早く囮の表示を消去し、3Dディスプレイに映る機影は一つになっていた。


「了解!じゃあ凛ちゃん、敵機の上から突撃!」


「凛ちゃんはやめて下さい」


 弥生の呼びかけにバスタブのような操縦席に座る春山凛は無表情に抗議の声を上げる。しっとりとした和風美人だが、表情を変える事はほとんどない。


 抗議の声が受け入れられたかどうかは定かではないが、凛は両サイドの操縦桿を操作し、敵機上方へと軌道を変えた。白鷺高校の機首——中央玄関を敵機に向ける。


 近づいていくとセンサーで擬態していた囮の中のカイエン高校の校舎本体が外部モニターで確認できるようになる。


「公開されているデータによると、横幅は百二十メートル、高さは四十メートル。高さはうちと同じくらいだけど、横幅は倍以上ね」


 後ろで長い髪を一本で纏めた副館長の真島日菜子が腕を組みながらディスプレイに表示された情報を読み上げる。艦長が興奮しがちなので、自分は落ちつくことを心がけている。


 のっぺりとした茶色いカイエン高校校舎の両サイドには尖った屋根の塔が立っており、中世の城のような雰囲気がある。


 対する白鷺高校は横幅五十メートル、高さは四十メートル。カイエン高校の塔を除けば高さだけなら上回るが、ほぼ立方体の味気ない形をしている。その白い姿から、宙飛ぶ豆腐とも揶揄される。


 その宙飛ぶ豆腐——もとい白鷺高校の電子部を司る操が、カイエン高校の変化をキャッチした。


「艦長!カイエン高校の左舷の砲台にエネルギー反応!」


「了解、みっちゃん先輩!凛ちゃん!」


「凛ちゃんはやめてください」


「回避準備!」


 弥生が叫ぶと、カイエン高校の左舷の塔、白鷺高校から見て右の塔の砲台から、赤いカラーボールが発射された。


 左へ翻してそれを避ける。繰り返し撃たれるカラーボールを、しなやかなテクニックで回避する凛。


「兵装部!準備は出来ましたか?」


 校舎が安定するのを待たずに弥生がマイクに向かって言うと、2年B組と表示されたモニターにショートカットの大柄な少女が映る。


『悪い悪い。カラーボール生成機のアイドリングがようやく終わった。動かす前に暖気しとけって言ったんだけどね』


 佐久間千鶴は苦笑いを浮かべて頭をかく。


「ではもう動かせますね!」


『問題なし!準備オッケー!』


 ツナギの上半身を腰で結んだタンクトップ姿の千鶴はそう言うと、はちきれんばかりのその胸を張り、重機の操縦席のようなシートに座る。百八十センチを超える身長の彼女が座ると、そのシートは狭いかもしれない。


「では、2年A組砲、開門!」


『開門!』


 千鶴はシート前面のコンソールを操作する。


 千鶴の操作と共に、校舎前面、縦に三列並んだ教室のうち、真ん中の列の一番左側の教室、つまり2年A組の窓ががらりと開く。いや、実際には音など鳴らないが、普通に学校の窓を開けたような動き。


 だが普通の学校の窓から大きな砲身が伸びてくる事はないだろう。直径一メートルを超える砲身は、宇宙空間に向かってゆっくり伸びて、二十メートル程になった。


 戦艦学園共通の砲台。競技会のルールで、砲台は全校共通の物が使われている。


「えー、とりあえず試射を兼ねた威嚇射撃!一先ず校章を狙いましょう!」


『了解!適当でいいって事な!』


 言葉の趣旨を理解した千鶴はゴーグルをかけ、コンソールにあるバイクのようなハンドルを操作しながら、ゴーグルに映った照準をカイエン高校の正面玄関上にある校章に合わせる。銀河の前でイルカが跳ねる構図の、戦艦学園共通の校章。


 戦艦学園競技会の数ある競技の中でも花形とされている着色戦は、相手の校舎に取り付けられている学園戦艦の共通校章をカラーボールで染めれば勝利となる。校章を取り付ける場所は決められていて、どの学校も正面の中心に近い位置に取り付けてある必要がある。


『撃ちまーす!』


 緊張感のない声で2年A組砲から発射された白いカラーボールは、真っ直ぐにカイエン高校の校章に向かうが、カイエン高校の発射した赤いカラーボールで撃墜された。衝突したカラーボールは相殺反応で消滅する。


「2年D組砲も開門!」


『ちょっと待ってくれ、人手不足なんだ』


 千鶴は言うと、もう一つシートに飛び移る。


『準備が終わったら早く来いってい言ってあるんだけどねー。まーいいや。開門!』


 千鶴が叫ぶと、今度は2年A組とは反対側。二段目の右端の教室の窓が開き、砲身が伸びてくる。


 その間にD組砲担当でおかっぱ頭の西野律子が、千鶴ごめーんと言いながら入ってくる。千鶴はA組のシートに戻った。


「エレナちゃん先輩!起きてますか!」


 マイクに向かって弥生が叫ぶ。すると、理科室と表示されたモニターがつく。


『はいはーい。起きましたよー』


 猫のような癖っ毛の少女が寝起きの顔で答える。少し釣りあがたった猫のような目。年中理科室に住んでいると言う噂のある箕輪エレナのスカートは白鷺高校で一番短い。


「そろそろ出撃準備をお願いします!」


『はいはい。今準備するねー』


 エレナは言うと、操縦席を埋め尽くすお菓子の袋やジャンクフードの食べ残しをどかすと、操縦席に座った。


『寝起きだからほどほどにねー』


「容赦しません!理科室1号、発進!」


『はっしーん』


 エレナが言うと、豆腐のような白鷺高校校舎の後部中央あたりから、まるでジェンガのように小さな豆腐がするりと抜け出てくる。 


 白鷺高校の艦載機、理科室1号。もともと理科室だった教室を改造して作られたため、そう呼ばれている。


『んでー、何するのー?』


 間延びしたエレナの言葉に弥生はびしっと、


「理科室1号は、カイエン高校の正面に囮を撒いて下さい。出来るだけたくさん」


『はいよー』


 エレナは答えると、スムーズな操縦でカイエン高校の目の前まで飛んでいき、行く手を阻むかのように囮を撒く。理科室1号を狙ってカラーボールが何発も撃ち込まれるがそれを優雅に回避し、相手のブリッジに最接近して投げキッスを送る。外部モニターで確認出来ただろうか。


「あとはその辺で撹乱してもらえれば」


『りょーかーい』


 エレナはそう言うと、艦載機をカイエン高校校舎ギリギリまで下降させ、わざと目立つように動き回る。


 艦載機に攻撃手段は無い。役割としては囮を撒くか、撹乱するかしかない。ただ、それもカラーボールで撃ち抜かれると行動不能判定される。


「じゃあ凛ちゃん!」


「凛ちゃんはやめて下さい」


「このまま囮にまぎれてカイエン高校の玄関先かすめて下へ抜けます!その時正面同士を向あわせにする事はできますか?」


「短い時間ですが。出来ます」


 静かに答える凛。無表情な彼女からは、仄かな自信が感じられる。


「ではD組砲は最短距離で校章を狙ってください!そうすれば相殺するためにカラーボールが発射されるはずです。その砲台をA組砲で狙って、まずは左舷の砲台を無力化します!」


「ちょっと待って。まずはA組砲が近い右舷の砲台を狙った砲がいいと思うんだけど」


「なるほど。では日菜子の言う通り、右舷の砲台を狙います。だから、十メートル右舷の砲台寄りを通り抜けます」


「了解」


 凛は無表情に答え、操縦桿を操作する。そしてスピードを上げてカイエン高校の玄関先より十メートル右舷側を通り過ぎる瞬間に、スラスターを操作して正面を向かせる。


 カイエン高校から見れば、複数ある白鷺高校の反応の分析をしている間に、目の前に窓のついた豆腐のような白鷺高校校舎が現れた形になる。


『D組砲発射!』


 律子の声と共に発射された白いカラーボールは、校章に直撃する直前に右舷の砲台から発射されたカラーボールで相殺された。


 一度砲台からカラーボールが発射されると、チャージの為に一瞬の間が開く。


『今だっ!』


 千鶴が言うと、A組砲から発射された白いカラーボールが右舷の砲口に吸い込まれる。


『よしっ!狙い通り!』


 砲口から入り込んだカラーボールは、チャンバー内のカラーボール全てを相殺して消滅させてしまう。再起不能ではないが、再び使えるようにするにはしばらく時間がかかる。試合時間内に出来るかどうか。


「さっすが千鶴ちゃん!名砲手!」


 言われた千鶴は律子とハイタッチした。


『じゃあこいつはもう役立たずだ。やーい』


 見ると右舷の砲台辺りで理科室1号が飛び回っている。今なら撃たれる心配はない。


「あっ」


 ふいにカイエン高校がUターンを始める。砲台を一つ失った今となっては、圧倒的に不利。一旦離脱して時間を稼ぐつもりか。


「追いかけます!」


 弥生が言うと、凛が機を操作してカイエン高校を追いかける。スピードと機動力なら白鷺高校にかなう者はいない。


 するとカイエン高校の艦載機が前に飛び出してくる。囮をばらまきつつ、自らも囮として白鷺高校の行く手を阻む。


「こんなものは分析しませんよ」


 操が言うはもっとも。カイエン高校は外部モニターで確認できている。

 

「正面突破です!」


 弥生の声に凛はそれらを網の目を縫うように回避する。小型のドローンのような物だが、接触すると多少なりともダメージがある。


「A組砲もD組砲もじゃんじゃん撃っちゃって!」


『はいよ!』


 千鶴と律子は声を揃えてカラーボールを連射すると、カイエン高校の茶色い校舎に白い斑点ができる。校章以外をカラーボールで染めたとしても判定には関係無いが、相手のセンサーを殺す事が出来ればより有利な状況に持ち込める。


 白鷺高校はぐんぐん距離を詰めてゆく。


「それ以上は逃げられないわね。境界線スペクターラインにひっかかる」


 3Dディスプレイを見ながら日菜子は言う。


 試合をするために設定された百キロ四方の立方体。その試合フィールドと外とを仕切る境界線を超えると、無条件で敗戦となる。


 しかしカイエン高校は境界線に沿って上昇を始めた。


「手前でこちらも上昇!どちらにせよこちらに向かってきます!」


 弥生は自信満々に叫ぶ。


「こちらも正面から迎え撃ちます!正面突破です!」


 弥生の異名、『突撃おさげ』は伊達ではない。


 ほどなくして、白鷺高校の勝利が確定した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙戦艦白鷺高校 みつつきつきまる @miz_zuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画