高原・真導相談所の誕生

勇者パーティが捕縛されたことで、横領された金貨は全て王城に戻された。

さらに、勇者が武器屋から購入していたドラゴンキラーも返品され、事情を知った店主は支払いに使われた金貨をすべて返還した。


「まったく……あの連中め。金貨の重みを分かっちゃいなかったんだな」

店主が苦々しく吐き捨てるのを聞きながら、俺は胸の奥がすっきりした気分になった。


他にも次々と不正が明るみに出た。

横領だけではなく、裏での賭博や魔物討伐の戦果偽装――。

英雄と讃えられていた連中の正体は、もはや救いようのない醜悪な姿だった。


「……人の心は、弱いものですね」

渚の言葉に、俺は苦笑するしかなかった。



そんな折、俺たちは国王から直接の呼び出しを受けた。

豪奢な謁見の間で、国王は重々しい声を響かせる。


「勇者パーティがこのような醜態をさらした今、我が国は新たな“勇者”を求めざるを得ぬ」


俺と渚は思わず息を呑んだ。


「――そなたらに命ずる。もし、勇者の代わりを務められる者を見かけたら、私に知らせよ」


「えっ……俺たちにですか!?」

思わず声が裏返った俺に、国王は首を振る。


「無理に探せとは言わぬ。そなたらは探偵としての務めを果たすがよい。

 ただ、“竜の祠”と呼ばれる場所でこそ真なる勇者が見極められると伝え聞く。

 もしついでがあれば、立ち寄るがよい」


(竜の祠……? 勇者の代わり……?)

頭の中で国王の言葉がぐるぐる回る。


だが、ふと勇者パーティの醜態を思い出してしまった。

(……あいつら、祠に入ったら一瞬で不合格だろうな。

 むしろ俺、あいつらにクビにされて正解だったんじゃ……?)


苦笑しながらも、胸の奥には小さな決意が芽生えていた。


(探偵助手としての俺の道が、少しずつ広がってる。勇者なんかより、ずっと俺らしいやり方で)



翌日


事件を解決した功績として、渚と俺にも正式に褒美が与えられることになった。

袋に詰められた金貨の重みを受け取ったとき、思わず目が丸くなる。


「す、すご……! 俺、今までの人生でこんな大金触ったことないですよ!」

「落ち着いてください、倫太郎さん。――大切なのは、どう使うかです」


渚の微笑みに導かれるように、俺は真剣に頷いた。


そして、渚が口にした希望はひとつ。


「この褒美で、正式な相談所を構えましょう」



そうして借りられたのは、街角にある二階建ての小さな建物だった。

木の扉に掲げられた新しい看板には――


「高原・真導相談所」


という名前が刻まれていた。


「へぇ……俺の名前まで入ってるんですか?」

「当然です。あなたはもう立派な“助手”ですから」


その言葉に、胸がじんわり温かくなる。

勇者に追放されたときには想像もできなかった居場所が、今ここにあった。

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勇者パーティクビになったら美人カウンセラーと探偵業始めることになってしまった 角砂糖 @kakuzatou20251005

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