王家の過去


 放浪の身になった王飛達は魏瑁ギボウという男から幕下に属するように求められた。魏瑁の軍事力は高いが、民には圧政を敷いている。そんな男へ仕えるなど清廉潔白な王飛はごめんであったが、拒否して戦になれば勝ち目はない。

 一時的に身を寄せ、力を蓄える。そしていつか独立すればいいと王凱が提案し、王飛もそれしかないと判断し傘下に入った。

 生き延びる為に魏瑁に命じられたことには何でも従った。己の信念に反することや下劣で残忍なことをやった。弟達の為、妻の為、親族の為、兵達の為……そう己に言い聞かせ、王飛は振るいたくもない槍を振るった。

 そうして幾分か力を取り戻した王飛は最初の計画通りに魏瑁の元から独立し、再び流浪の身となったのだが次は素晴らしい出会いが待っていた。それが今、王飛達が仕えている陸表との出会いだ。

 仁君と名高い陸表に求められ、王飛はそれに迷うことなく応じた。そしてその下で大いに活躍をし、再び一族は栄華を取り戻したのだった。




「……俺が、父上に及ばぬばかりに皆にはいらぬ苦労をかけた」


 王飛は当時の苦難を思い出すと、それを酒と共に飲み下す。あの辛酸を忘れず、今後の戒めとせねばならない。


「ですがその苦労を共にしたおかげで我が一族の絆は更に深まったのです」


「そうだな」


 王凱の言葉に王飛は妻の程徽の姿を瞼の裏へと浮かべる。心が折れてしまいそうになる自分を叱咤激励し、献身的に支えてくれた妻。深まったのは夫婦の絆もだ。

 王飛はとてつもなく妻に会いたくなった。今すぐに会いたくてたまらない。


「……凱、俺はそろそろ──」


 宴を抜ける、そう言葉を続けようとした時、宴会場へ煌びやかに着飾った芸妓達が入ってくる。

 宴に華を添え、歌と舞で場を盛り上げる為に呼ばれた彼女達の中に──はいた。

 それは城下町で凱旋する王飛を見つめていた可憐な女。その時よりも綺麗に飾り立てられた女は美しく、王飛はぽかんと口を開けて彼女に魅入ってしまった。

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