弟の小言


 兄の頑なな態度に王凱は肩を竦めて溜息をつく。


「非常に申し上げにくいのですが、殿も兄上が側妻を持つことに期待しております。……何故か分かりますかな?」


 王飛は弟の問いかけに答えず遠くに見えてきた城門を見つめる。


「兄上と義姉上の間には子がいません。殿は勿論この国の皆が兄上の血が絶えることを懸念しているのです」


 賑々しい民衆達の声が急に遠ざかった気がして、そんなことはありえぬのに王飛はこの世でたった独りきりになったような感覚に襲われた。

 兜の下に冷や汗を浮かべた王飛は無意識に手綱を握り締める。


「……兄上、いかがなさいました?」


 兄が何も答えぬので王凱が問いかけると、王飛は我に返った様に早口で捲し立てる。


「王一族の血ならばお前や他の弟達が繋げばよい。俺は徽以外の妻はいらぬ、子だって養子を貰うなど方法はいくらでもある。だからもうこの話はしてくれるな、凱」


「兄上の仰る通り、王一族の血が絶えることはありませぬ。私や殿が言いたいのは、兄上自身の血にございます。……貴方の様な勇ましき武者の血が続かぬのはあまりに惜しい」


「くどい」 


 王飛は少し後ろをついてくる王凱を睨めつける。


「さがれ、凱。俺はこれから殿に拝謁せねばならん、あまり気分を悪くさせるな」


 王凱はもう一度溜息をついてから頭を下げる。


「御意のままに。ですが私は兄上が憎くて言っているのではございません。どうかそれをお心に留め置いて下さいませ」


「……分かっている。弟に心配をかける自分自身を俺も不甲斐なく思う」


 王凱は自らが跨る馬の足を遅くすると、列の後方へと消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る