【Lv.4】順応

日が沈み、夜の闇色が空を覆ってゆく頃。紅き竜にとって、夜は静寂であり、ただ眠るためにある時間に過ぎなかった。しかし、人間というものはどうやら、静けさといったものなど無縁であるらしい。家々を照らす街灯や、娯楽に興じる者たちが集う建物の光。それらは紅き竜の来訪をこれでもかと歓待する。何もかもが新鮮な体験で、存外、心躍るものがある。


ユラファラス帝国。彼女曰く、この人里は、そういう名で呼ばれている。そして自分が、この国の皇帝であると。要するに"王"だということだろうが、なぜそんな大層な者が不用心にも街を出歩いているのか。紅き竜は愚直にも、その疑問を直接問うた。人の世は、陰謀渦巻く醜い世界だと生みの親からは聴いてきた。彼女は、答えた。


「人の世では、民草を想うことこそ国の益。善悪はその次だ。善きものには相応しい褒美をとらせ、悪しきものはこの手で捩じ伏せる。それが私の王政だ。」


なるほど、人の世とは複雑極まりない。竜の世ならば強き者が頂点にたち、弱き者はそれにただ従うのみだ。そこに、善悪や報酬など存在しない。増して、下に位置するものを尊重することなど本来は有り得ぬことだ。それだけに、一歩間違えるだけでも破綻しかねない。そうやって滅んだ国もあると聞く。それでも永らく生き続けているであろうこの国を見るあたり、彼女の敷く王政は正しく機能しているし、それをやってのけるだけの手腕を持ち合わせているのだろう。王宮の最も高い建造物の屋根上で、街を一望する彼女を、紅き竜は果たしてどう思っただろう。その姿を映した竜の眼は、羨望か、期待か、あるいは。少なくとも、邪などが介入する隙など、一寸すら残されてはいないだろう。そんな輝きをたたえていたのだ。

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