戦乙女は冷酷非道の王のうぶで重たい愛に困惑中。

神山れい

プロローグ

せっかくだからもらおうよ

 ランタンの中にある蝋燭の火がゆらゆらと揺れる。部屋のライトを点ければいいのだが、夜はこのどことなく儚さを感じさせる火が心を落ち着かせるのだ。

 アウレア王国の若き王ユリウスは、その灯りを頼りに毎月提出される民からの報告書を眺めていた。今月もどの店も売り上げは上々。生産も滞りなく進んでおり、貿易にも支障はなさそうだ。

 優秀な国民達に恵まれていると、僅かに口角を上げる。国に利益がもたらされればそれ相応の見返りを与えることとしているため、来月の補助金は手厚くせねば。

 紙を捲る音だけが聞こえる静かな部屋に、コンコン、と扉をノックする音が響いた。顔を上げることなく「入れ」と一言だけ呟くと、ユリウスと同じく金髪と赤い瞳をした男が入ってきた。


「兄さん、クラルスから通達があったよ」


 ユリウスの弟であるアルベルトだ。

 クラルスとは、クラルス王国のことを指す。現在、アウレア王国と対立中なのだが、宣戦布告もなくある日突然クラルス王国が攻めてきたのだ。今更何を通達してきたのかと報告書に目を通しながら、アルベルトの話に耳を傾ける。


「なんと、停戦協議がしたいそうでーす」


 ユリウスは報告書を捲る手を止め、鼻で笑い飛ばした。


「自ら問答無用に仕掛けてきて停戦協議とは情けない」


 再び手を動かし、報告書を捲って目を通していく。


「どうする? 停戦に合意してあげる代わりに、僕達が望むものをちょうだいって言ってみる?」

「仮に望むものがあるとして、それは俺自らの手で手に入れる。よって、クラルスは潰す」


 交渉の余地などない。元より、仕掛けてきたのはクラルス王国だ。アウレア王国やその国民に危害を加える者に容赦はしないと、王となったときから決めている。

 だが、アルベルトは納得していないようで、不満を漏らすように口を開いた。


「せっかくだしさあ、何かもらっておこうよ。ほら、クラルスなら戦乙女とか」

「……クラルスの戦乙女か」


 そこでユリウスは報告書から視線を外し、椅子の背もたれに背を預けてアルベルトを見た。視線が交じると、ニッ、と意地の悪そうな笑みが向けられる。

 姿までは知らないが、その存在は耳にしたことがある。兵士達を鼓舞し、率先して戦場を駆ける女兵士。その名は不明で、クラルスの戦乙女と呼称されている。


「クラルスの戦乙女は、クラルスの象徴。奪われると、あっちもなかなか痛いんじゃない? で、余計な労力をかけずに潰せたりなんかしたら最高だよね」

「アルベルトに任せる。好きにしろ」

「じゃあ、早速クラルスに返事を出してくるよ。クラルスの戦乙女、どんな人だろうね。楽しみだなあ」


 アルベルトが部屋を出ていくと、途端に静けさが戻った。ユリウスは息を吐き出すと天井を仰ぎ見る。

 クラルスの戦乙女が手に入ったとして、はてさてどうしたものか。敵国で戦乙女と名を馳せた者だ。自身の近くに置くわけにはいかない。戦えるのであれば、兵士として外に出しておくのが無難か。

 アウレアのものとなれば、どう扱おうがこちらの自由。使えないと判断すれば、処分することも可能だ。

 いかようにもなるか、とユリウスは姿勢を正し、まだ残っている報告書へ手を伸ばした。

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