名字帯刀と武士は言った。天皇「でも朕に名字ないんだけど……」武士「Σ( ºωº )」

万和彁了

名を失うことが普遍性を獲得することである。

 名字帯刀を知っているだろうか?もちろん知っているだろう。これは武士が庶民階級に苗字を名乗ることを禁止した制度である。もちろん失ったわけではない。彼らは温存こそしていたが、名乗ることが憚れたのである。苗字は武士階級の特権となった。だがここに一つの謎が残る。そもそも武士はなぜ支配階級として人々に認められていたのか。刀を持っている。すなわち武力があったから、ではない。それは幕府という朝廷から世俗の権力体制を承認された政府として公認されていて、その構成員が武士だったからだ。これらは鎌倉以降の紆余曲折を経て江戸時代にかんせいするわけである。だがここに疑問が残る。名字帯刀である。これは当時の武士たちがおそらくは自分たちの下級が他よりも優れているないしは上であることを自認するために作られた制度だ。誰が思いついたのかわからないが日本人の多くはいまでもそれを受け入れている。後に明治政府が四民平等を謳い苗字の使用を許可していることからも苗字の使用が階級、身分の上下を示すものとして機能しているのは明らかだ。ここでまた疑問が現れる。明治政府は明治維新により生まれた幕府の後継政府である。もちろん誰もが知るように天皇が江戸にやってきていることからも正当性は担保されている。そう天皇である。ここに謎があるのだ。現代でも苗字がない=平民のような描写がライトノベルなどではよく見受けられる。だからこそ謎なのだ。





 だって天皇には苗字ないじゃん!!!!!!!!!!!!










 ないじゃん!








 誰かー!天皇陛下の苗字を御存じの方はいらっしゃいますかー!!!!!!!!!









 いるわけないのである。だって天皇には苗字がないのだから。







 古代においても天皇の苗字の存在が確認できない。周囲にいる豪族たちには姓のようなものがすでに確認できるのに。天皇にはないのである。







 いちおう諸国の王様の苗字を確認してみた。ほぼあった。ただすべては確認できないため、結論は避けたい。この無姓という天皇の特色は世界的に見てもかなり特異なのである。





 そもそも実はもっと日本人が気づいていないことがある。







 天皇の個人名を多くの日本人が知らないということである。







 道行く人に聞いてみよう。多分99%が知らないだろう。この現象も謎である。我々は天皇の個人名を知らないが、英国の君主をエリザベス女王とかチャールズ国王とか呼ぶのである。






 似たような現象に心当たりがある。ヤハウェである。こちらもご存じの方は多いと思う。これはアブラハムの宗教の神の名前である。日本ではメガテンシリーズなのでラスボスとして君臨しているのでよく知っている人が多い。だがキリスト教の神の名前は?と聞けば、ヤハウェとは普通返ってこないだろう。だが実はヤハウェは考古学的に発音がこうだったんじゃないかと復元された名前である。実際は主のように他の名前で呼ばれる。



 ここに一つの仮説を提示したい。アブラハムの神は固有名を失った。だから普遍性を獲得したのではないかというアイディアである。

 同じように考えられないだろうか?天皇もまた名を失ったことで少なくとも日本の中で普遍性を獲得したのではないかと。




 普遍性を獲得するということは、より多くの信仰を得るということである。言語の壁を超えてアブラハムの宗教は世界に広がった。

 日本列島も広い。日本人は狭いと思っているが、実は南北はヨーロッパ並みに長いのだ。もともと大和地方の地方政権でしかなかった天皇、すめらみことは他の王たちと覇権を争っていたかもしれない。

 だが天皇だけが残った。それは天皇には名前がなかったからなのではないだろうか?

 名前がないからこそそこに祈りが宿る。人々はその空の器に願いを託す。そうやって天皇は日本という広大な国土のバラバラだった人々を信仰でつないだのではないだろう。






 もう一度問おう。天皇の名前を人々は知らず。その上、知ろうともしない。外国の新聞では天皇の前に天皇の個人名が乗っていることが多いのに。




 これは日本的な人民統合の知恵なのだろう。このような奇跡を知ること、そして感じることは幸せなことなのかもしれない。

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名字帯刀と武士は言った。天皇「でも朕に名字ないんだけど……」武士「Σ( ºωº )」 万和彁了 @muteki_succubus

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